003初勝利
「どうすればいいんだベータ?」
このあからさまなピンチに俺の動揺は隠せない。
だが不思議な事にダメージの許容量のメータはほとんど減っていないどういうことだ?
『大丈夫さ。この機体の手足はいくらでも替えのきくからね。この機体の一番の売りは腹部の機能さ。その口で攻撃を喰らうんだ』
「喰らう?」
どういう意味だ?
『これ以上話す時間はない様だ。実際にやってみたまえ群体が喰鉄機を無力化したと判断しているうちに、喰らうとはそのままの意味さ。深く考える必要はないバックと食べちゃないなさい』
「そう言われてもこうか?」
腹部の口に意識を集中。
腹部が開いた感覚。
次に動いたのは群体だ。
俺の機体の腹部の口を兵器と判断したのか、俺が動く前に四本の腕を腹部に突き立てた。
【捕食成功】
その言葉が視界の端に移る。
「どういう意味だ?」
『すぐにわかるさ』
腹部に刺さっているはずである群体の鎌だが。
腹部から突き抜けた感覚はない。
腹部の口はさらに開き胸あたりまで口角は吊り上がっている。
『僕に続いて喰牙!』
「分かった喰牙!」
その言葉を言うとものすごい勢いで群体の四本の腕が腹部の口内に吸い込まれる。
物の数秒であれだけ大きかった群体の半分を食らってしまった。
【捕食解析完了。武装影を纏いし鎌】
『上出来だよ。喰牙腹部の口の前方射程10メートル範囲内の全ての対象を食らう機能だ。だけど今みたいな効果を発揮するためには深く食らいつかないといけない、高速戦闘時に食えるのは相手の一部エネルギーの一部だと覚えておいてくれ。そし食らったものはは武器や道具として使える。これは鎌のようだね』
「何だこの感覚?」
失った両手両足に付け根がもぞもぞ動き出す。
するとずっぼという音と共に。
どこぞの緑の異星人みたいだな。
「両腕と両足が」
『だからいっただろ? 大丈夫だってこの機体は自他の存在を食らう事で失った手足や欠損を直すことができる。もう一度拳と足を群体にぶつけてみるといい』
「でもさっき全く」
『いいから喰鉄機の本当の力を見せて上げよう続けて武装影を纏いし鎌』
「分かった影を武装纏いし鎌!」
俺がそういうと手の甲に黒い刃群体の鎌が現れた。
その自信に満ちたベータを信じて、食われて小さくなり警戒してか動きを止めた群体に高速で近づいた。
早い動きがさっきより群体は細長い腕を八本出してきた。
だが遅い俺が早くなっているのだ。
そのままの勢いで八本の鎌の腕を左右に交わす。
「くらえ!」
先ほどとほぼ同じ個所同じ力で殴った。
「ギーーーーーーー!」
群体の体の上部が一撃でさけた。
「何だこの威力別物じゃないか」
群体の割れた上部に体を回転させて、踵を下方へお見舞いする。群体の体は寒天でも崩すように容易く割けた。
群体はしぼむように小さくなり消え去った。
『どうだい初勝利はこれが喰鉄機さ。この機体の損傷個所は何かを食らえばそれをもとに何度でも再生する。再生すればするほど性能も上がる優れモノさ。手足は消耗品だからねダメージのフィードバックは非常に少ない』
なるほどだからか、両手両足がなくなってもダメージが精神に帰ってこないのは。
『ではいくよ異世界に』
「もう少し影を狩ったり母船を探したりは?」
『何億いるかわかりもしない圧倒的数に個で戦いを挑んでも負けるのは必定だよ。この広い世界で母船を探すのは難しい。20年間世界中にスパイメカを放ったけど手がかりさえつかめていない。今探し回っても見つかる可能性はほとんどないよ』
なるほど了解。
俺はあたりを見回し人っ気のない住宅街の残骸を見て、元の姿を想像した。
俺が生まれるより前に捨てられた町だ。
当時を俺が知るはずもないので完全に空想だ。
その思い浮かべた光景をしばらく眺め。
「なあベータこの町も元の活気のある姿に戻るのかな?」
『君の戦い次第さ。願いをかなえる相手の能力にもよるけどね』
「絶対救わないとな。サクラも世界も」
俺はぎゅとこぶしを握り締めた。