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序章:ホームステイと始まりの日(4)

 9月1日/音原屋敷にて……。








 出し物取り決めの惨劇が去った後、『奉仕活動と思って手伝って〜なぁ』とか何とか言って奈緒子に陸上部の雑用を強いられた末、日が沈んだところでやっと解放された俺は、いかにも疲労困憊こんぱいといった具合で自分の家の前に佇んでいた。



 俺の家はかなり古風な感じで、全体的に木造、門を潜ると横開きの玄関があり、庭を右手に回ると、シシオドシが滾々こんこんと音を立てる小さな和風庭園、その風味を感傷するための静かな縁側、古めかしい物置小屋に、一律に並べられた植木鉢と、外観はそんなふうになっている。

 

 それに普通の家というにはなかなか大きく敷地も広いので、一部の人間からは『音原屋敷』と密かに囁かれているくらいだ。

 でも、その割には住んでいる人が三人と少数なので、使っていない部屋がたくさんあるというのが現状である。


 しかし、なんだかんだ言ってもこの和風様様な我が家の質感というか、見た目から受ける古風的な感慨が俺は割と好きだった。



「は〜あ、今日も遅くなっちまったなぁ……」


 ぐったりしてそんなことを呟きながら、俺は門を潜り、玄関を開けた。

 ガラガラという音と共に、俺はぶっきらぼうに「ただいま」と叫んだ。


「おやおや〜? 誰かと思えば椋じゃーん。どしたのこんな時間に」


 

 声が聞こえた方を見遣ると、空の食器を台所に運ぶ最中の姉、音原秋子おとはらあきこの姿が目に入った。

 太腿の側面が破けたジーンズに白く角ばった肩を晒すキャミソールと、少し露出の高い服装で、皿を手のひらに乗っけて得意気に佇んでいる。

 髪の長いお姉さんキャラにたいそうお似合いな風格だ。



「うちに何か御用? 用がないならとっとと帰りな」

「ここは俺の家だろうがっ!」



 そして性格面だが、姉は俺と違ってノリが良い。

 強いて言えば冗談と本気の区別がはっきりしているのだが、まあ8割方がノリだ。

 だから俺といるときはボケに回り、必然的に俺が後手に回るという役割分担が成り立つ。

 たまに収拾つかなくなるときがあるけどね……。



「あははっ、冗談冗談っと」

「ったく、今日は飛び切り疲れてるんだから程々にしてくれよ……」



 相好の方は身贔屓みびいきのフィルターを外してみても、かなり美人。

 それだけでなく、大きすぎず小さすぎずいい具合に下心を刺激する乳房とか(何考えてんだ俺は)、抜群のプロポーションを支持する柳腰とか、容貌以外でも間違いなく高ステータスだろう。

 実際、三年生男子の約半分を掌握してるし、俺らと同年代(高校二年生)の男子からも人気がある。

 おかげでそいつら秋子ファンからいろいろと詰問されることがあったりなかったり……。



「そいえば、どしたのさ。こんな夜分遅くにお邪魔になるなんて」

「何だか俺が客人みたいな言い方に聞こえるんだが?」

「気のせいでしょ」



 また、勉強面でも優等生として通っている。

 実力テストで180点とか取ってくることもあるし、聞いた話によると、県内の有名な国立大学からA判定をもらっているらしい。

 弁護士になりたいとか言っていたから、多分大学もそれ関連のところだろう。

 


「奈緒子に陸上部の手伝いやらされてたんだよ。すぐ終わるとか言ったくせに、結局最後まで付き合わされてさ……」

「ほぉほぉ。いいじゃないいいじゃない、それ好かれてる証拠よ」

「そんな仲じゃねえって」



 まあとにかくそんなこともあって、姉はありとあらゆる面で完璧なのである。

 成績優秀、容姿端麗の才色兼備。人当たりも良いしノリも良いし、ほんと悔しいくらいに「頼れる姉」像が出来上がっているお姉ちゃんなのだ。



 俺は姉に背を向けて段差に腰掛けると、靴紐を解きにかかった。

 それから、俺は背中越しに飛んでくるわざとらしい黄色い声と闘った。

 

 姉は、本性は恋に初心うぶで奥手な俺をからかうのが好きである。

 ここだけの話、奈緒子関係での攻撃には慣れたが、まだまだ億劫なのだ、俺は。

 面と向かって誰かに好きと言われる機会がないから周囲にはバレてないけどね。


 靴紐が解けて、靴を脱ぎ始めたとき、家の奥の方からこちらに向かって足音が聞こえてきた。

 そして足音はすぐ近くまで来ると、ちょうどお姉ちゃんの側あたりに立ち止まり、こう聞いた。


「あれ、秋子さん? どうしたんですか?」


 よく透き通った、いや、澄んだと言ったほうが表現的に正しい、優しく静かな声。

 音原屋敷には俺とお姉ちゃんともう一人、静香さんという家政婦(兼家長)がいるが、その声色は静香さんのそれとは全くと言っていいほど違ったものであった。

 それに、日本語の語調が少しぎこちない感じもしなくない。


「ん……この方は……」


 背中越しにお姉ちゃんとは別物の声が聞こえてくる。

 丁寧でへりくだったような口調。

 どうやら今度は俺に向けて言っているようだった。


 俺は吸い寄せられるように、無意識に声の主の方に振り返った。


「あ……」


 瞬間、俺とその美少女・・・は目が合った。


「う、えっと……ども」


 全身に言葉に形容し難い緊張感が走る。

 可愛い……俺が思った少女への第一印象がそれだった。


 長くすらりとのばしたブロンドの髪や、玉のように綺麗な青い瞳。

 雪のような白を携えた肌は、まさしく乙女のそれであった。

 服装は我が六条学院が誇る、深い赤のワンピースに白のラインが施された可愛らしい制服で、それも異様なほど似合っている。


 姉に勝るとも劣らず……いや、姉にはない別の要素を持っている女性と言うべきか。

 姉が「頼れる姉」ならこの少女は「可憐な少女」だろう。


 っと、いけないいけない。

 品定めするみたいに容姿や身嗜みだしなみを窺う(凝視する)のは俺の悪い癖だ。

 しかも思考が変態だったぞ。ちょっとだけ反省。



「あ、もしかして音原椋さんですか? はじめまして。今日からしばらくこちらの家にホームステイさせていただくことになりました、カレン・ルーシーと言います。よろしくお願いしますね」


 実に丁寧にそうのたまって、カレンと名乗った少女は深くお辞儀をする。

 ホームステイか……まさか、朝学校で藤森達が言っていた美少女留学生って、彼女のことなんじゃないだろうか?

 ふと、強張った思考回路をゆっくり稼動させていく。

 ときどき少女の相好を窺い、そして、それは「まさか」ではなく「絶対」なる確信へと繋がった。


――って、えええぇぇ!?


「ホ、ホームステイ? なにそれ、おいしいの?」


「……はい?」


「おっと、失敬」


 いかんぞ。ここは冷静にならねば。

 何の予告も許可もなしにいきなりホームステイだとか言われても、ここは冷静にならねば。


「えっとさ、どこから突っ込んでいいのかわからないんだけど、まず、ホームステイって何?」


「※ホームステイ:留学生などが滞在地の一般家庭に寄宿し、家族の一員としてその国の生活体験をする制度。受け入れる家庭のことをホスト、その家族のことをホストファミ――」


「うるさい、少し黙ってろ」


 俺は腰を捻じ曲げたような不自然な体勢から姉に一瞥いちべつをくれる。

 すると、しょんぼりしたように肩を落とした。


「ごめん、でもちょっと黙ってて」


 カレンと名乗った少女に視線を戻す。


「えっと、俺ホームステイとかそんな話、たった今聞いたんだけどさ。それってマジな話? ……リアリィ? イッツトゥルー?」


 付け焼刃のほうが幾分マシと思われる程ひどい発音で英会話を試みる。

 だが、カレンは言っていることが理解できなかったのか、きょとんとした様子で押し黙ってしまった。

 さっきはとても流暢りゅうちょうに日本語を話してたと思っていたのに。

 あれか、日本人が初めてアメリカ人と会話したとき、片言になったりしどろもどろしたりするみたいな。

 いずれにしろ、感動詞や方言混じりの言葉だと伝わりにくそうだ。ここは別の言い方を考えないと……。


「僕はホームステイという話を――」


 言いづらい。

 そう真に思ったとき、横から姉が、


「Is it true that you stay?」


 おそらく通訳してくれたんだろうが、ほとんど何を言っているのか解らない言葉をのたまった。

 語尾が上がってるから疑問形だろうけど。


「はい、本当です」


 すると、カレンは優しげな微笑みを浮かべてそう答えた。

 どうやら言わんとしていることが伝わったらしい。

 ちっ、我が姉貴ながら完璧すぎて嫉妬しちゃうぜ。


 俺が内心で賞賛していると、続けさまに姉は言った。


「I want to hear it one more. Please teach the event that became the reason why you stay with.」


 相変わらず何を言っているのかさっぱりわからん。


「The reason is because it was provoked by your father. When because "Japan is full of a rare thing and wonderful things, you should stay by all means."」


 俺、長い文章嫌いなんだ。特に、一文にandとかorとか入っているやつ。

 あんたもそう思ったことあるだろ?


 俺がぽかんとしていると、姉は嫌なニヤケ笑いを浮かべ、こちらを見遣った。


「どう、わかった?」

「……わかるわけないだろ。からかってんのか」

「意訳すると、テメェがホームステイする気になったんはなんでやオラァ、言わんと殺すぞワレ!? って私が言って、アヒャヒャヒャヒャ、それはねぇ、あんたんとこの豚がねぇ、日本はええところやよ〜かっけぇ兄ちゃんたくさんいるよぉ――」

「ああ、もういいよ。わかったから」


 姉のギャグにいちいち付き合ってると疲れる。

 気さくなのはいいんだけどな。

 才色兼備とは言われても品行方正とは言われない理由がここにあるのさ。


「つまり、ただいま世界旅行中の父さんがルーシー宅を訪れて、こちらの承諾も得ずに勝手にホームステイの取り決めを行い、カレンさんが来る今の今まで何も知らされなかったというわけですね」


 詳しく説明すると。


 

 ある日、うちの父さんがいきなり「明日から母さんと一緒に世界一周旅行に行ってくるから、留守番よろぴこ」とかほざきました。

 そして翌日、本当に二人で世界一周旅行に行きやがりました。

 家長の権限はメイド役(使用人)として働いていた静香さんに譲られました。

 

 それから数ヶ月が経ちました。

 父さんはカレンさんが住むルーシー家を訪れやがりました。

 そこで大人しく銃殺されていればいいものを、なんと、ルーシー家のご令嬢であるカレンさんのホームステイの取り決めを『こちらの許可なしに』行ったのです。

 寄宿先はもちろん音原宅です。

 

 それからまた数ヶ月が経ちました。

 いよいよカレンさんのホームステイの日がやってきたのです。

 当然、『何も』知らされていない音原家はびっくり仰天です。



「さて、ここで問題です。パパとママはいったい何ヶ月もの間、旅行に出かけているのでしょうか?」


「少し黙ってろ。あと、人の心の中を読むな」


 そして、音原家は留学してきたカレンさんを追い返せるはずもなく、ホームステイを受け入れることになりましたとさ。おしまい。


「あぁ……今考えると俺の父さんアホすぎる」


 ほんと呆れるくらいにな。


「でもさ、来ちゃったものはしょうがないでしょ。可愛い子が長期居候することになったと思って素直に喜んでればいいのよあんたは」


「何だか釈然としない言い方だけど、まぁ幸いうちは空き部屋が余るくらいあるし、今回は姉ちゃんの言う通りかな」


 今更『聞いてないから無理です。帰ってください』なんて言えるはずもないんだし。

 それに姉ちゃんの言う通り、可愛い子が長期居候することになったと思えば、全然異論はないよな。

 静香さんも賑やかなほうが好きだし、お手伝いが好きだから、むしろ喜んで受け入れてくれるだろう。


「まぁとりあえず、飯にするか。腹が減ってはなんとやら」


「……あ、ごめん椋。今日はてっきりどこかで泊まってくるもんだと思ってたから、あんたの分も食べちゃった」


「てめえぇぇぇぇ! それ絶対わざとだろ!? わざとって言ってみ、あん?」













――この日、俺達の不思議な物語が、幕を開けた――



 









これでプロローグは終わりです。

みなさん、まずは序章いかがでしたか?


私のユニークというよりもむしろ意味不明な書き方にさぞ「なにこいつ?」と思われたことでしょう。


さて、これより本編が始まりますが……。


前書きにもあったように、一章の終わりまではなんとなくこんな感じでほのぼののんびりと学園コメディチックな日常が続きます。

ギャグや笑いを取り入れつつ、きちんとキャラ紹介をしていく予定ですが、処女作ゆえ何かと不十分な点が多々あると思いますけれども四の五の言わず黙って最後まで見ていけ読者このやろう。


と秋子お姉ちゃんが言ってましたがそれは冗談です。すいません。


とまあ、こんな感じでゴミクズと同レベルの私ですが、よろしければ最後まで見ていってくださると嬉しいです。





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