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91.オルティアたち

 春一番が吹き荒れる中、桜吹雪が舞い散り、綺麗で、幻想的な雰囲気を醸し出している。


「花見なのだー」


 そんな桜吹雪の中で、カオリが跳んだりはねたりとはしゃいでいた。

 元から見た目は小さかったが、そうしている姿は見た目よりも更に幼く見えてしまう。


「えっと、なんで?」


 いきなりつれてこられた俺は、まだ何が起きたのか分からずにいた。


「今日は花見なのだ」

「いや、だから何で? そりゃ春になれば桜で花見するのはしってるけど」

「お父様と良くしたのだ。お父様の故郷の風習、桜もその時お父様が持ち込んで大陸各地に植えたのだ」

「さりげなく歴史の裏側!?」


 初めて花見の起源を聞いた気がする。

 いや、俺の知識にも何かあった記憶はあるんだが、カオリのいうそれとは違う。


 念のために聞いてみた。


「それ、本当なのか?」

「どれなのだ?」

「花見の起源――カオリの父親が持ち込んだってのは」

「本当なのだ、私、お父様が持ち込んだ木をあっちこっちに接ぎ木や挿し木とかしたのだ」

「おおぅ……」


 こりゃ間違いないみたいだ。

 歴史は伝えていく過程に変わるのが普通だ。

 それに比べて、カオリのは自分の実体験だ。


 人間(カオリは魔王だけど)は記憶をいいようにねつ造するいきものだが……カオリのは嘘には聞こえなかった。


「すごい事を知ってしまったなあ……まあいいや。それよりも花見なら食べ物とか飲み物とかないとダメだろ」

「それは後で下僕たちが届けてくれるのだ。私は自分の分だけ持ってきたのだ」

「自分の分?」

「これなのだー」


 カオリはそう言って、ドクロ――人間の頭蓋骨を取り出した。


「なんじゃそれは。ほんものか?」

「お父様が言ってたのだ、ダイロクテンの魔王が敵のドクロで蜂蜜を飲むのが嗜みだったのだ」

「どんな魔王だよ!」


 それ絶対だまされてるぞ。

 突っ込みつつ、俺は周りを見回した。


「どうしたのだ甥っ子ちゃん」

「えっと……花見、だけ?」

「花見だけなのだ」

「バトったりしない?」

「しないのだ。場所取りでもめ事を起こすのはダメだとお父様も言ってたのだ。ゴミもちゃんと持ち帰るのだ」

「いやゴミはどうでもいいけど……いや持ち帰るけども」


 それだけなのか?

 ……それだけみたいだ。


 どうやらカオリはそれ以上の何をするでもなく、純粋に花見をするみたい――


「そうだ、一つ忘れていたのだ」

「来たか!」


 俺はぱっと身構えた。


 そうだと思ってた。

 そんな甘い話はないよな。


 さあなんだ、何が来る。


 何が来ても俺は騙されて本気出さないぞ。


「どうして身構えてるのだ?」

「それよりも、何を忘れてたんだ?」

「そうなのだ。お父様は花見をする時に、人間の花も揃えていたのだ」

「人間の花?」

「ようするに美女なのだ」


 なるほど。


「だから甥っ子ちゃんのために花を用意したのだ――来たのだ」


 カオリが俺の背後をみていた。

 俺は振り向いて――固まった。


「えっ……うそ……」


 自分の目が信じられなかった。

 向こうから歩いてくる一団、全員が知っている顔だった。


 真っ正面にいるのはオルティア。

 その左にいるのはオルティア。

 反対側の右にいるのはオルティア。

 その後ろも、更に後ろも、その向こう側も。


 全員が――オルティアだった。


 そして全員、今まで買ってきた写真集に載っているオルティアだった。


 例えば正面にいるのは北のオルティアと呼ばれる、白い肌にキリッとした目つきが特徴の美人だ。

 その真横にいるのは三代目オルティアと呼ばれる、オルティア界の中でも珍しい、親子三代そろって娼婦かつオルティアを名乗っている可愛らしい女。

 それから一歩離れるくらいの距離にいる一見地味目な少女は狂楽のオルティア。昼間は地味目な外見だが、ひとたびベッドに上がれば激しい行為で有名だという。


 そのほかにも赤いオルティア、遙かなるオルティア、妖かしの魔女オルティアなどなどなど……。


 およそ有名なオルティア達が集まって、こっちに向かってきていた。


「ふむふむ、大体揃っているみたいなのだ」

「え? か、カオリが呼んでくれたのか?」

「そうなのだ。花は必要だし、甥っ子ちゃんはオルティアが大好きだから、それに絞って集めるだけ集めてきたのだ。ちなみに大賢者はお父様の女だから無理だったのだ」

「神様仏様カオリ様!」


 俺はぱっ、とカオリに土下座した。


「ありがとうございます、お礼に何でもします、今日から下僕1025号になります」

「お、おう……なのだ」


 今日は人生最高の日だ。


 だってそうだろ?


 ちょっと考えれば分かる、目の前にいるオルティア達は、今まで写真集で見ただけの、いわば憧れの有名人達なんだ。

 それが一気に目の前に現われた、しかも――。


「いちゃいちゃしていいんだよな!」

「もちろんなのだ、お父様もお母様達と色々してたのだ」

「ひゃっはー」


 本当に、本当に最高の日だ。


「あら、あなたが噂の公爵様?」

「ちがうよ、大将軍様だよ」

「お前ら、時と場合をわきまえろ。お初にお目にかかります最高顧問様。オルティアと申します」


 ああ……。

 もう……いつ死んでも……いいや……。


 オルティア達が俺の元に集まって、ふれたり話しかけたりしてくる。


 皆、実物の方が綺麗だ……。


「公爵様って格好いいんですね」

「そ、そうか? えへへへ……」

「私、仕事だって忘れちゃいそう」

「私も……本気になって、別れた後つらくなりそうです……」

「ねえ、大将軍様って剣が得意なの? なにかやって見せて」

「まかせろ! じゃあとりあえず剣舞から」


 オルティア達にいいところを見せたくて、俺は剣を抜き放って、舞って見せた。


 顔なじみのオルティアや、ダフネ達に教えてから、更にブラッシュアップして、見栄えをよくした剣舞。


「わああ、すごい」

「綺麗……男の人なのに……綺麗……」

「ねえ、もっとも見せて」

「おうよ!」


 オルティアたちに、俺は色々やって見せた。


「うんうん、甥っ子ちゃんが楽しんでいるみたいで何よりなのだ。花見はやっぱりこうじゃなきゃなのだ。下僕1023号、私のドクロと蜂蜜を持ってくるのだ」


 離れた所で、カオリは本当にドクロを持ってこさせて、それを盃にしてなみなみとそそいだ蜂蜜をのんだ。

 それをみて、今回は全くの罠なしだと確信した俺は、オルティア達とのイチャイチャに専念するのだった。


 そして、後日……


     ☆


 書斎の中、訪ねてきた姉さんが不思議そうに小首を傾げた。


「どうしたのですかヘルメス。珍しいですね、あなたが写真集を見てがっくりしているなんて」

「姉さん……」

「あらいやだ。本当に参ってるのですか? 何があったのです?」

「……はあ」


 俺はため息を浮いた。


 やっちまった、という言葉が頭の中でぐるぐる回る。


 答えない俺に、姉さんは俺が開いている写真集を手に取って、パラパラとめくってみた。


「またオルティア達の写真集ですか? あら、前のより綺麗ですね。ポーズがいいのでしょうか」

「うぐっ」

「うぐっ?」


 俺の反応に、更に首をかしげた姉さん。


「本当にどうしたのですかヘルメス」

「……もっとみれば分かるよ」

「もっと? どれどれ……あら。みんな似たようなポーズをしているわね」

「そうなんだよ」

「流行っているポーズなのでしょうか」

「いや、それは――」


 俺が言いかけると、書斎のドアがパン! と乱暴に開け放たれ、ミデアが部屋に飛び込んできた。


「師匠! どうしてこんなにいっぱい弟子を取ったんですか!」

「あーうー……」


 俺は頭を抱えてしまう。

 そう言ってきたのは、ミデアで三人目だ。


 ちなみに一人目はキングもとい国王陛下、二人目はリナ。

 そして三人目のミデア……全員、俺に剣を教わっている人間達だ。


 オルティア達のあいだで流行ったのは、あの花見の日に見せた俺の剣術。

 あの後、剣舞だけにとどまらず、おだてられた俺はいくつか実践的な剣術も見せた。


 その時は大好評だった、オルティア達は全員うっとりした。


 そして……俺の構えが気に入った。

 それを、オルティア達は新しい写真集で、まるで示し合わせたように同じポーズをした。


 そして、ミデアらを始めとする「ナナス流」にばれた。


 それだけではない。


「なるほど、これはヘルメスのポーズだったのですね。『今オルティアの間で流行っているこれ、陰に指導者の存在あり』……ヘルメス、密かに有名人ですね」

「はうっ!」


 調子に乗りすぎてしまった結果。

 オルティア達の陰にいる指導者という、もう一歩間違えれば超注目集めてしまう。

 そんな状況になってしまったのだった。

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