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86.ダメ魔王の覚醒……?

「甥っ子ちゃーん、遊びにきたのだー」

「ぐへっ!」


 真夜中の寝室。

 いきなり腹の上にどかっと乗られて、俺は咳き込むほど悶絶した。


 寝てたから何事かと思ったが、払いのけようとしても俺の上に乗っかっている誰かは根っこが生えたかのようにまったくびくともしなくて。


「私の相手をするのだ!」


 特徴的な語尾に幼く舌っ足らずの喋り方で、暗闇の中でもすぐに何者なのか分かった。


 魔王カオリ。


 俺の事を気に入った隣国コモトリアの国王は、ここ最近すっかり俺に色々とつきまとってくる。


「それはもう諦めたけど……せめてまともな時間に来てくれないか? 夜はさすがに眠いんだが」

「そうは行かないのだ、私はしばらく忙しくなるから、今のうちに遊び溜めしておくのだ」

「忙しくなる?」


 暗闇の中、じっとカオリを見つめる。

 これが他の誰かか、普通の人間だったらなんとも思わなかっただろう。


 しかし相手は地上最強の生物、魔王だ。

 国王であり、魔王でもある。


 地位も政治力も個人の武力もある。

 そんなカオリが漏らした「忙しくなる」はちょっと聞き逃せなかった。


「なんで忙しくなるんだ?」

「またお金の問題が出てきたのだ」

「お金の?」

「そうなのだ。コモトリアは銀貨で国が税金を受け取るのだ、でも銀貨より銅貨の方が高いから、役人達がそれで儲けてるのだ」

「……どういう事だ?」

「えっと……分からないのだ!」

「わからないんかい!」


 ベッドの上で馬乗りになったままのカオリに突っ込んだ。

 国王だろうに。


「あっ、でも奴隷999号の言葉は覚えてるのだ」

「ほう」

「コモトリアの銀貨と銅貨の官製レートは1:100であります」


 カオリの口調が一変した。

 どうやら奴隷999号とやらの言葉を丸ごと再現してるみたいだ。


「しかし市場では銅貨の価値が高く、1:50であります。そのため徴税吏どもは『銅貨で銀貨分をはらえ』と民に命令することで、受け取った銅貨を倍の銀貨にかえて、半分は国へ、半分は自分の懐にいれてるであります――なのだ!」

「なるほどさっぱり分からん」


 なんかややっこしいからくりだな。

 なんとなく為替のレート? の穴? をついた錬金術なのは分かった。


 ああ、古い書物で読んだことがある。

 昔、とある鎖国をしている国では、金と銀の価値がまったく一緒だった。


 それに目をつけた一部の、その国に出入り出来る人間が、銀を持ち込んで同量の金に交換して国外に持ち出した。

 国外では金のほうが高いから、その金で約三倍くらいの銀に交換できた。


 つまり、入出国一回で、手持ちの資産を三倍に出来た。


 そういうのと同じからくりの話だな。


「それを何とかしないといけないから、しばらく忙しくなるのだ。その前に甥っ子ちゃんと遊び溜めしておくのだ」

「……」

「さあさあ、今から遊びにいくのだ」

「その前にさ、それの原因って、銅貨の価値が高いから、だよな。もっといえば銅貨を溶かして売れるから、だよな?」

「おお、甥っ子ちゃん賢いのだ。奴隷999号と同じことを言ってるのだ」

「なるほど……もう一個。お前何百年も国王やってるけど、内政はずっと自分でやってるのか?」

「もちのロンなのだ!」


 カオリは親指を立てて、器用にウインクを飛ばしてきた。


「コモトリアの内政王とは私の事なのだ。母上の言いつけで人間殴れないから、暇つぶしに内政しているのだ」

「なるほど」


 暇つぶしで内政をされた方がたまらないんだが、それは突っ込まない事にした。


「もう一つ。お前、武器とか防具を堅くして、破壊不可能にする事は出来るのか?」

「楽勝なのだ! これでも魔王なのだ!」


 カオリはえっへん、と薄い胸をはった。


「もう、そんな事はいいのだ。早く私と遊ぶのだ」

「その前に一つ……」


 俺はカオリに手招きして、耳元にささやく。


「カオリの国の銅貨を全部破壊不可能にすればいい。魔王の力で。それで解決するだろ?」


 だれでもいい、もし出来たら銅貨と銀貨の問題は解決する。

 でもそれは誰にも出来ない、人間には不可能だ。

 しかし、カオリは魔王だ。それができるかも知れない。


 だからアドバイスした。

 そしてカオリはできるといって、しかも乗り気になった。


「ナイスなのだ! さすが甥っ子ちゃんなのだ」

「そうか」

「早速かえってそれをやるのだ! また今度なのだー」

「それよりアドバイスしたのは俺って言うなよ。何を聞かれても『魔王だからすごいんだ、自分でおもいついたんだ』で通しとけ」

「おお、さすが甥っ子ちゃん、気が利くのだ。うん、そうするのだー」


 カオリは俺の上から退いて、窓から外に飛び出した。


 夜空に消えていくカオリを見送って、俺は窓を閉めて、暖かい布団に潜り込んで寝直したのだった。


     ☆


 数週間後のある日、俺が書斎で新しい写真集『ただのじゃないオルティア』を読んでいると、訪ねてきたリナがあきれ顔をしていた。


「そなただな、魔王にアドバイスをしたのは」

「へ?」


 いきなり何の事……ってアレのこと?

 いやでも、ちゃんと口止めしたし、カオリもノリノリだったし。


 なんて、俺が戸惑っていると。


「ええ、魔王は否定していた。自分が考えだした方法だと言い張っていた」

「お、おう」

「しかし、あのアンポンタン魔王が自分でそんな方法を思いつけるはずがない。それはこの数百年、アホみたいな施政を見てきた近隣諸国の人間ならだれでも知っている事」


 あ、アンポンタン……。

 そんなにひどいのか、国王としてのカオリは。


「魔王だから無意味なだけ、人間の王だったら日替わりで反乱と謀殺が起きてる」

「むしろ何をやってるのか気になって来たぞ!」

「そんな魔王が神の一手を打ってきた。自分で思いついたと嬉しそうに言いふらしているが、そんなはずはないと誰もが知っている。そして」

「そ、そして……?」


 ゴクリ、と喉がなった。


「ここ最近魔王と仲が良いのはそなた。つまり、アイデアを出したのは……」

「おっふ!」


 なんてことだ。

 念入りに確認して、カオリもそれを守ってくれたのに。


 結局、ばれてしまうのか……。


「おっふぅ……」


 俺は、結局うなだれるしかなかったのだった。

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