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82.俺のために争わないで

 朝起きると、信じられない光景が広がっていた。


 屋敷のリビングに姉さんとカオリがいた。


 カオリはちょこんと椅子に座っていて、姉さんに髪を梳かせている。

 ……はい?


 待て待て、これは夢だ、夢に違いない。

 その証拠にほっぺをつねると――


「いってえええええ!?」

「え? あっ、ヘルメス。おはよう」

「あー、おはようなのだー」


 姉さんは普段通りに穏やかに微笑んで、カオリは座ったまま手を上げて元気のいい子供の様に挨拶した。


「……どゆこと?」


 改めて見ても信じられない。

 姉さんとカオリが仲良くしているのもそうだけど、あの嵐のようなカオリが素直に姉さんに髪を梳かせている。

 いったい、どういう事なんだ?


「あの……ねえさん?」

「何かしらヘルメス」

「なにゆえ魔王と一緒にほのぼのやってらっしゃるのでせうか」

「言葉使いがおかしいですよヘルメス」

「いや言葉使いよりもね」

「何故一緒に? それは、ねー」

「ねー」


 意気投合した大親友の如く、二人は首を左右に傾げ合った。

 ちくしょうちょっとかわいく見える。


「そうじゃなくて、分かる様に説明してくれるかな」

「わかったのだ。あのな、姪っ子ちゃんは物わかりがいいのだ」

「姪っ子ちゃん? ああそうか俺は甥っ子ちゃんか」


 カオリはカノー家の初代がいる頃から生きてる、そしてカオリの父親は、カノー家の――俺と姉さんの祖父の祖父の祖父の祖父の――と同一人物だ。


 それで俺は甥っ子の孫の孫の孫――と言うことで甥っ子ちゃんとカオリはよんでる。

 そうなると当たり前のように、姉さんも姪っ子ちゃんになる。


「それはいいけど、物わかりがいいって?」

「ここにいくらでもいていいって言ったのだ」

「ええ!? な、なんで?」


 びっくりして姉さんを見る。

 その姉さんは俺とは正反対に、ケロッとした顔で語り出した。


「ヘルメスは魔王様の相談役、大公爵相当という事ですよね」

「あ、ああ」

「つまりは部下」

「そりゃまあ、そうだ?」

「部下の家は主人の家も同然」

「それは――いやおかしいぞ」


 さすがにそれは通らない、俺の家はあくまで俺の家だ。


「だから、魔王様はいつでも自由にここにきて、いつでも自由にヘルメスと戦っていいってことです」

「いいってことなのだー」

「いやいや。あー……そうか……」


 分かったぞ。

 姉さんは「俺の本気」を世間に知らしめたいんだ。


 ここ最近「魔王」と戦った結果、俺の意思に反するが名声が上がってる。それは姉さんにとって喜ばしいことだろうな。


 だから姉さんはカオリを抱き込んだ。

 カオリと戦えば、俺の名声は更にあがるというもくろみで。


「……はあ」


 ため息がでた。


 姉さんは謀略家だ、悪企みが好きだ。

 どれくらい悪企みが好きなのかというと、俺に家を継がせるために、わざわざ国王に申し出て、姉である自分を俺の義理の娘にしてしまう位、悪企みがすきで、そういう発想が得意だ。


 今もきっと「決めて」いる。


 決めた姉さんはそれを押し通すためのアイデアが無限に湧いてくる。


 経験上抵抗は無駄、ならばより悪化する前に落とし所を見つけるべきだと、俺の長年の経験が告げている。


「……カオリ」

「なんなのだ甥っ子よ」

「ここに来ても良いけど、一つだけ約束だ。俺以外の人間には絶対に手を出さないでくれ。巻き込む可能性がある時は戦いは無しだ」

「ふむ、分かったのだ。言われなくてもお母様の言いつけで弱っちい人間には手は出さないのだ」

「ならいい」


 とりあえずこれで――とおもった瞬間閃光が煌めく。


 考えるよりも先に体が反応した。

 剣を抜き切り結ぶ。


 カオリの爪だった。

 オリハルコンよりも更に堅い魔王の爪と打ち合う、衝撃波が広がる。


 時間にしてわずか一秒、その一秒間で数百回打ち合った。


「ふう、満足なのだ」

「いきなりはやめてくれ」

「そっちは聞かないのだー」

「……まったく」


 カオリは見た目の幼さとか口調とは違って、とても頭がいい。


 俺が言いたいこと、守らせたいこと、その意図。

 全てを理解した上で、「いきなりはやめろ」というのをはねのけても大丈夫だと分かっている。


 まったく、やっかいだ。


 やっかいと言えば姉さんもだ。


「なあ姉さん、今回は仕方ないけど……姉さん?」

「……」

「どうした姉さん」


 姉さんがぼうっとこっちを見つめている、心なしか顔が赤い。


「姉さん? どうした姉さん」

「……格好いい」

「え?」

「――はっ! な、何でもないです」


 顔をますます赤くさせて、そっぽ向いてしまった姉さん。

 なんだったんだろうか。


 まあいい、それよりもカオリの事だ。

 今後も来るのなら、もうちょっと考えなきゃならない事がある。


 たとえば――。


「おーい、来たぞ先生」

「なんたるタイミング!」


 外から聞こえてきたのは国王陛下――多分キングの格好をしている陛下だった。


 果たしてそれは正解だった。


 しばらくして、足音が近づいてきて、リビングにキングが入ってくる。


「来たぞ先生、そろそろ()の相談を――むっ」


 キングはカオリを見て、表情が強ばった。


「魔王……なぜここに」

「何者なのだ?」

「アイギナ国王だ」

「おー、そういえば何十年か前にあった少年とそっくりなのだ」

「そちらこそ、何十年経っても成長はないようだな」


 キング改め国王は、何故かカオリとバチバチ火花を飛び散らせていた。

 キングもカオリも、どっちも譲らずにらみ合っている。


「何しに来たのだ」

「先生は余の指南役だ、剣の稽古をつけてもらいに来たのだ。そっちこそ何のために」

「甥っ子ちゃんは私の相談役なのだ。色々相談するためにきたのだ」

「ほう……余と先生を争う気か」

「甥っ子ちゃんは渡さないのだ」


 にらみ合う二人はますますヒートアップしていく。


 が、まあ最悪の事態は避けられるだろう。

 カオリは国王陛下とにらみ合ってるけど、手を出そうとする様子はない。

 舌戦は避けようもないみたいだが、手が出ないのならまあいいだろう。


 と、思ったのだが。


「ヘルメス様が王様と王様に奪われ合ってる」

「すごい三角関係だわ」

「へっ」


 なにやらひそひそ話が聞こえるのでそっちを向いたら、いつの間にか入り口にメイド達が集まってて、こっちをみて目を輝かせている。


 えっと、何? 三角関係?

 えっ? そうなっちゃうの?


 ……そうなるのか。


 えっと……俺のために争わないで? っていえばいいのかな。


「いい度胸なのだ人間の王」

「そっちこそいい度胸である魔王よ」


 なんか、本気で三角関係じみてきて、俺は頭を抱えたくなったのだった。

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