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77.征魔大将軍

 王都レティム、夏の宮殿。


 呼び出された俺は、玉座の間で国王陛下の前で膝をついていた。


「ヘルメス・カノー、召喚に応じ参上いたしました」

「待っていたぞ先生。今日は実務的な話がしたい、顔を上げよ」

「はっ」


 言われた通り顔を上げて、立ち上がる。


 玉座に鎮座している国王陛下が見えた、その両横に、大臣達がずらりと並んでいた。

 陛下はそうでもないが、大臣達は皆、苦虫をかみつぶした様な顔をしている。


「先生を呼び出したのは他でもない。コモトリアの魔王の事だ」

「……はい」

「まずは確認から。魔王カオリが動き出したのは先生を狙ってのことだな」

「……はい」


 陛下は既に使いの者をよこしてそれを確認している。

 そもそも誤魔化せる状況でもないから、俺は素直に答えた。


 瞬間、玉座の間がざわつく。

 ネガティブな感情が渦巻く。

 聞こえてくる限りの大臣達の言葉をまとめると――「もうダメだ」だった。


 全員が魔王に怯えている。


「陛下」


 大臣の中から一人の男が列を出て、陛下に向き直って奏上の体勢をとった。


「なんだ?」

「魔王は人間が太刀打ちできる存在ではございません。いたずらに抵抗するよりも、降伏なさった方が上策かと」


 そう言い放った男に、反論する声はほとんどない。


 普通、こういう時って抗戦派と降伏派が言い争ってたりするもんじゃないのか?

 なんで降伏って言い出して、誰も反論しようとしないのだ?


「残念だがそれはできん」


 まあ、いた。

 国王はほとんど即答で降伏するべきだという主張を却下した。


「陛下、魔王の恐ろしさは――」

「無論、よく知っている。しかしその魔王から通達があったのだ」

「通達……ですか」

「うむ――先生」

「えっ? あっはい」


 いきなりこっちに振られてちょっと戸惑った。


「魔王からの通達。それは先生の命を保障すること」

「俺の……ですか?」

「うむ、先生をもし罪人として処刑するようなことがあれば、アイギナ王国の国民、一人残らず皆殺しにするそうだ」


 どよめきが走る。


「ご丁寧に、文字通り、と付け加えてきた」


 どよめきが更に大きくなる。


「魔王ならそれが出来る。アイギナには三千万の国民がいるが、魔王なら皆殺しに出来るだろう」


 マジかよ……。


「その通達の後色々調べてみたのだが、前代の魔王の遺言で、自分に匹敵する力の持ち主を見つけない限り動いてはならない、とあるらしいな」

「……はい」


 調べが付いてるのならすっとぼけても仕方ない、と俺は素直に認めた。


 途端、大臣達が俺を睨んできた。

 おまえのせいってのはそういう意味なのか、と。


「これは余の推測なのだが、魔王は先生という相手を得て、『ようやく動ける』と舞い上がっている」

「はい、本人にそんなことを言われました」

「であれば」


 陛下はふっ、と皮肉げな笑顔をさっきの大臣にむけた。


「降伏も同じ。先生の処刑と同じ、魔王の目的を無くすという意味では同じ、逆鱗に触れるものよ」

「そ、それでは戦うしかない……」


 青ざめる大臣、静かにうなずく陛下。


「先生、この責任をとってもらうぞ」

「……はい」

「では。ヘルメス・カノー」

「はっ」


 俺はその場で膝をついた。

 さて、どう責任をとらされるのか。


「そなたを征魔大将軍に命じる」

「……は?」


 顔を上げる、多分今俺はすっごく間抜けな顔をしている。


「陛下、それは……?」

「文字通り魔王の相手をしてもらう。魔王との戦いに必要な事、主に軍事だな。そのための権限を全て先生に与える」

「ファッ!?」


 待て待てちょっと待って、それおかしくないか。


「へ、陛下。それは罰にならないような気がするのですが」

「誰が罰を与えると言った」

「へ?」

「余は責任をとれとしか言っておらん。そして責任をとるための()を先生に渡した。おかしいか?」

「……えっと」


 おかし……くない……の、か?


 いやいや、でもでも。


「もっと他に方法が」


 これじゃ大出世だ。


 大将軍、陛下も説明したように、この国における軍事最高責任者だ。


 征魔大将軍。

 さすがに陛下本人はダメだが、それ以外のあらゆるもの、例えば王子や王女でも、魔王と戦うためならあごで使うことが出来る。


 ものすごい大出世だ。


 その証拠に――ほら。

 さっきまで魔王の事に怯えてた大臣達の半数以上の目の色が嫉妬に変わった。


 権力はなんというか、色々美味しいらしい(、、、)からなあ。


 一方でそれは面倒臭い、面倒臭すぎる。

 子爵とか剣術指南役でさえ面倒臭いのに、大将軍とか面倒臭さの極みだ。


 だからなんとかして断ろうとするのだが。


「他に方法などないな」

「へ?」

「というか、これは魔王向けのメッセージなのだ」

「え?」

「先生を外したら三千万の国民を皆殺しにすると宣言した魔王だ。ならば先生を軍事最高責任者――しかも対魔王の最高責任者に据えるというのは魔王から民を守る為の策なのだ」

「ぐっ……」


 そりゃ……そうか。

 多分、カオリは俺が「征魔大将軍」になったのを聞いて喜ぶだろうな。


 これで母親(前魔王)の言い付けに背くことなく動けるんだから。


「はあ……」


 俺はため息をついた。

 もはや辞退は不可能だと観念した。


 その瞬間、俺の頭がかつてない程回った。

 面倒を回避するため、脳みそが生涯で一番本気で回転した。


「陛下、提案がございます」

「ほう、もう対策を思いついたのか、さすが先生だ」

「これは実現するのなら、おそらく民、そして兵や将の損耗がもっともすくなくなる」

「それはどんな策だ、聞かせてみよ」

「武闘大会です」

「武闘大会?」

「俺と魔王をそれぞれ大将にしたチーム戦方式で武闘大会を開くのです。そして魔王にこうささやくのです」

「なんと?」

「面倒臭いから、戦争になったら俺は何もしない、と」


 陛下は一瞬きょとんとしたが、俺の提案の意図を理解した。


 カオリは多分、最終的には俺と戦いたいだけだ。

 なら戦争になったら俺は付き合わない事と、その代案を示せば乗ってくるはず。


 本当はこんな提案をしても馬鹿らしいと却下されるのだが、皮肉にもカオリから脅しがあった。

 俺がいなければ国民を皆殺しにする。


 裏返せば、俺が付き合ってやればある程度形を変えても乗ってきてくれるはず。


「さすが先生だ! よし、それで提案してみよう!」


 そしてノリノリの陛下。

 陛下の性格も織り込み済みだ。


 国の命運をかけた武闘大会なら陛下もきっと参加する。

 そしたら面倒事とか矢面に立つのをある程度陛下に投げることが出来る。


 企てが結構うまくいって、俺は密かにほくそ笑んでいた。


     ☆


 数日後。

 再び呼び出されて、玉座の間には大臣達と、なぜかふてくされて陛下の姿があった。


「魔王から返答があった。大筋は先生の案を飲むと」


 俺はちょっとほっとした。

 戦争という究極に面倒臭い事を回避出来た喜びが胸の中に広がる。


「しかし条件が一つ」

「条件、ですか?」

「そうだ。こっち側――つまりアイギナ側は先生一人。先生一人の勝ち抜き戦形式なら付き合うと」

「なんでそんな事を……」

「あくまで先生と戦いたいのだろう」

「くっ……」


 そういうことか。

 はあ……まあでも、戦争を避けられたんだなら、これくらいはしょうがないか。

 そう思っているところに


「陛下」


 大臣が一人、列からでて奏上する。


「カノー子爵は見事戦争を回避いたしました」

「おお、そうだったな。それはうっかりしておった」


 陛下はペチン、と自分のおでこを叩いた。

 え? どういうこと? うっかりって何。


「ヘルメス・カノー」

「え、あっはい!」

「アイギナ三千万の民を救った功績は比類なき物である。本日より卿を子爵の一つ上、伯爵とする」

「……えっ」


 一瞬何を言われたのかわからなかった。

 どうやら戦争回避がすんなり行きすぎて、それでまた出世したようだった。


 なんてこったい。

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