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70.口は評価アップの元

 屋敷の応接間、向き合う俺とリナ。


 リナ・ミ・アイギナ。

 俺が初めて知り合ったアイギナの王族で、やけに俺をかってる者の一人だ。


 そのリナが訪ねてきて、向き合ったまま一言も喋らない。


「あの……俺に用が――」


 じろり。

 リナに睨まれた。

 いや睨むと言うよりはジト目ってところか。


 なんか不機嫌で、ちょっとすねているように見える。

 その目に気圧されて、「――あるんじゃないのか」の部分を呑み込んでしまった。


 しばらくして、リナが口を開く。


「陛下の指南役になったのね」

「え? ああ。それがどうかしたのか?」

「どうかした?」


 表情は変わらない、しかし声の迫力――プレッシャーが増したように感じた。


「私とそなたの出会いを思い出してみて」

「出会い……」

「そなたは本気を出したくは無かった、私はそれを、更なる立身栄達を望まない意味だと解釈した」

「……あっ」

「なのに、気がついたら陛下の指南役」

「えっと……」


 リナの不機嫌の理由が分かった。

 そう、彼女との出会いはそこからだ。


 スライムロードの討伐、その検証をするための監察官として彼女はやってきた。

 そして俺のミスもあって、リナは俺が「本気を出していない」と気づいた。


「いつかそなたの本気を見せてくれ」


 彼女はそう言って引き下がった、その後もちょくちょくと俺に勲章をくれたりして、期待していた。


 それをぶっちぎって、国王になびいてしまった――という形に今なってる。

 それは……怒るよな。


「あれは事故みたいなもので、成り行きというか、断れない流れだったというか」

「……」

「陛下は本気だった、断れなかったんだ」


 沈黙するリナ、俺は同じ言葉を繰り返すしかない。

 後ろめたいことはなくないが、これ以外に言いようもない。


 だからそう主張して、どうにかリナが聞き入れてくれるのを願った。


「……指南役だけ?」

「え?」

「陛下とは、指南役をするだけか?」

「えっと、うん、そう」


 嘘ついてしまった。

 親衛義賊軍の事なんていえない。

 だからごまかすことにした。


「そう。だったらいい。指南役なら、『本気』を出すこともない」


 こだわってるのはそこだけだ、と言わんばかりの言い方で引き下がったリナ。

 俺はほっとしたのとともに。


「あれ?」

「なに?」

「今のって、もしかしてしっと――」

「なにか」


 ギロッ、と睨まれた。

 さっきと違う、ストレートなプレッシャーを押しつけてくるタイプのにらみだ。


「いやなんでもない」


 俺は慌てて手を振って話を終わらせた。

 まあそんなことはないよな。

 王族に「俺とあいつの事嫉妬してるのか?」って聞くなんて――うん、人によっては無礼打ちされても文句は言えないところだ。


 だから、話をそらした。


「しかし、国王という人種との付き合い方は難しい」

「ほう?」

「国王の身分とか立場とか、面子とかを考えて動かなきゃならないもんな」


 これは義賊の事だった。

 普段から王の立場を考えて振る舞わなきゃならないが、国王が言い出した義賊の話はそれにもまして注意する必要があった。


 正直、気苦労は今までの比じゃない。

 ため息の一つも出そうな感じだ。


「……」

「ん? どうしたリナ。鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」

「陛下の……面子」

「うん? ああ、まあ。そりゃ考えるだろ」

「そうだな、考えるよな」


 つぶやいた直後、リナが「ニィ」と、口角を器用にゆがめた。


 悪い予感がする、すごく悪い予感がする、とてつもなく悪い予感がした。


「陛下の指南役ともなれば、そんじょそこらの剣士に負けるわけにはいかない」

「まあ……そうだな。――ってまさか」

「礼を言う、いいヒントになった」


 リナはきたときと違って、ものすごく楽しそうな顔をした。

 そのまま身を翻して、立ち去ろうとするが。


「ま、待ってくれ。何をするつもりなんだ?」

「ふふ、今から私の師匠を見つけてくるのだ」

「まさか! 師匠を俺に挑戦させるのか?」

「そんな事はしない、それは陛下に失礼」


 リナの言葉にほっとしたのもつかの間。


「陛下に師匠の――そうね、爵位を求めるだけ。私の師匠はすごい、ものすごくすごい、すごすぎて爵位を与えるべき――というだけ。すると」

「す、すると?」

「陛下の方から、『先生、リナの師匠と手合わせしろ』と言い出す」

「あっ!」


 その気持ちは少しわかる。


 同じおもちゃを持っている時、相手に「こっちのがすごい」って自慢されたらムキになるもんだ。


「ということで、腕を磨いて待ってなさい」


 リナはそういって、ウキウキした表情で立ち去った。


 俺はがっくりきた。

 まだ「首を洗って待ってろ」って言われた方がなんぼかマシだ。


 リナはきっと結構な使い手を連れてくる。

 俺の本気が見たいのがリナだ。

 指南役として、御前試合で負けられない俺の本気を見るために、自分が知ってる最強の剣士を連れてくるに違いない。


 そしてそれを打ち負かすと、国王は喜び――俺の評価がまた上がる。


「はあ……口は災いの元だな……」


 何気ない一言が裏目に出てしまった。

 また評価が上がりそうな事に、俺は深いため息をついてしまうのだった。

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