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69.感覚がマヒしてやった、今は後悔している

 ピンドスの街、なじみの娼館。

 オルティアの部屋の中で、キュロスと向き合っている。

 部屋の主のオルティアはまるで貞淑な妻のように、少し離れた所で俺たちの会話をみまもっていた。


「そういうことだったのか……さすが兄貴」


 親衛義賊軍の事が一段落ついて、ピンドスに戻って来た俺はキュロスを呼び出して、あの夜の事を説明した。


「あの時は助かった、上手く話を合わせてくれて」

「すごく驚いた、だが兄貴が変装までしてるんだ、きっと何か訳があると思って」

「それで、これからなんだが……」

「兄貴が姿を見せるときは立てる方針で行く、みんなで相談して決めた」

「いいのか? 夢幻団の株を下げてしまうぞ」

「問題ない」


 キュロスはニカッとわらった。


「兄貴の……あっ、前の兄貴の方針なんだけど、俺たちは夢幻団の名前とか株とかを気にしちゃいない。盗人はどこまで行っても盗人だからな」

「なるほど」

「それに兄貴から聞いた話だと、向こうも義賊なんだから、どのみち貧しい奴らが得するんだ。だったらまったく問題は無いさ」


 それを当たり前の事の様に言い放つことが出来るキュロス。

 結構すごいヤツだなと俺は思った。


     ☆


 キュロスが帰った後、部屋の中は俺とオルティアの二人っきりになった。


「お疲れ様ー」


 オルティアはほどよくしぼった熱々のおしぼりを出してきた。

 それで顔を拭いて、一息つく。


「ありがとう」

「どういたしまして。ねえ」

「うん?」

「よかったの、そんな大ごとをあたしの所でして。王様もかかわってる話なんでしょ? あたしが知ってたらまずいんじゃない?」

「お前は客の大事な事をベラベラ喋らないだろ?」


 何を言い出すのかと思えば。


「……」

「ん? どうした、顔が赤いぞ」

「え? あー……えっと、うん! いまキュンとした」

「はあ?」

「ヘルメスちゃんがそこまで信じてくれて、それをあっさり言い放ったのすっごく格好良くてキュンとしちゃった」

「はいはい」


 なんかごまかされたみたいだけど、このノリでごまかすのならたいした事じゃ無いだろう。


「ふう……本当に格好良くてびっくりした……」


 明らかに胸をなで下ろして何かつぶやく。

 内容までは聞こえなかったが、それもスルーしといた。


「もうそういうのはいいから、いつものように頼む」

「いつもの?」

「ああ、いつもの」

「ふむ」


 頬に指をあてて、考えるオルティア。

 愛嬌のある彼女のこういう仕草が割と好きだ。


「そだ。ねえヘルメスちゃん、一生のお願いがあるんだけど」

「そういうのまで『いつもの』じゃなくていいんだよ」


 オルティアをさっと引き寄せて、流れる動きで彼女にウメボシした。

 グリグリグリ、と綺麗に手入れされてる髪の上からこめかみをグリグリする。


「いた、いたたたた」

「で、なんだ? 今回の一生のお願いは」

「えへへ、さっすがヘルメスちゃん、話がわかるぅ」

「はいはい」

「ちょっと待ってね」


 オルティアはそう言って、俺の手をそっと引き離して、ドアの方にいって部屋の外を通る小間使いを捕まえて何かいった。

 小間使いは頷き、パッと走って行って、ぱっと戻って来た。


 宝石箱を一つオルティアに渡す。

 それをもったオルティア、ドアを閉めて俺の所に戻ってきた。


「これなんだけどね」

「なんだそれは」

「じゃーん、ネックレス。綺麗でしょう」

「ふむ」


 開け放たれた宝石箱、そこに入ってるネックレスを眺める。

 かなり手の込んだ銀細工に、真っ赤な宝石をはめ込んだ逸品。


「結構値が張る物だな」

「わかる? でも残念、安かったの」

「安かった?」

「うん、実はね、これ呪いにかかってるんだ。もう何人もこれで呪い殺されててね」

「へえ」

「って事でヘルメスちゃん、これの呪いを解いて」

「ああ」


 俺はネックレスに手を触れた。

 一番簡単な呪いの解き方。


 手を触れて、自分を空っぽ(、、、)にする。

 「呪われやすい」状態を作り出すことで、呪いの発動を間接的に促す。


 すると、ネックレスから何かがでた。


「ひゃっ」


 悲鳴を上げるオルティア、彼女にも見えるくらい強力(、、)な呪いだ。

 俺は剣を抜いて、呪いを一刀両断した。

 オルティアにももう見られてる、ボロ剣で結構真剣な一閃。


 呪いは断ち切られた。


「はい、おしまい」

「……」

「どうした、またぽかーんと」

「ああ、いやね、もうこれ、みんなが失敗した後なんだ」

「え?」

「ピンドスとか、この付近で呪いを解ける人にあたってたんだけど、みんなだめで匙をなげたヤツなんだ」

「あっ……」


 そういえば結構強力だった……。


「それをヘルメスちゃんがあっさりと……すごいね」

「うっ……やってしまった」


 ここ最近の出来事、国王陛下の頼まれごとのスケールが大きくて感覚がマヒしてた。

 まったく考えもせずうっかりやってしまった……。


「これ、内緒だから」

「えー……どうしようかなあ」


 にやにやと、イタズラっぽい笑みを浮かべるオルティア。

 はあ……まったく。


「まあ、お前の事は信じてるさ」


 客の事をベラベラ喋らないさ、オルティアは。


「……」


 ふと気づくと、オルティアは何故かまた黙ってしまった。


「どうした?」

「な、なんでもない!」


 さっきも見たような反応。

 オルティアは盛大に顔を赤らめて、顔を背けてしまったのだった。

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