68.先生の共有
一人で宮殿に戻ってきた俺は、国王陛下に謁見を求めた。
送り出したのも国王陛下だ、このタイミングなら親衛義賊軍の話だとわかっているから、玉座じゃ無くて庭園に通され、二人っきりになった。
「おお、よく戻った先生。して、首尾は」
「えっと……」
夢幻団の話は伏せておくことにした。
……最初は。
だが、隠しても国王陛下と深いつながりを持つあの四人からばれるのは分かりきっている。
今言わないで、あの四人からばれた場合。
『さすが先生、鼻にかけないところが素晴しい!』
ってなるのが目に見えてるから、ここは淡々と事実のみを報告する事にした。
「実は屋敷に入ったところで、夢幻団とかちあいました」
「くっ! 何たること!」
「え?」
国王陛下は何故かものすごく悔しそうな顔をした。
「どうしたんですか?」
「いきなりライバルと出くわすなんて、余も行っていればよかった」
「ああ、そういうこと」
らしいなあ、と思った。
「で、すこし威嚇して、追い返しました」
「先生がか!?」
頷く。
「おお、さすが先生だ」
「向こうは副団長がいたが、そいつが言うには、俺と向こうの団長はほぼ互角だって事らしい。どういう評価でそうなったのか分からないが、向こうの団長が出てくるときは出来れば避けた方が良いと思う」
「先生と互角の使い手というわけか……うむ、心にとめておこう」
よし、ここはクリア。
「で、無事ある程度の財宝は奪えたので、あの四人に任せました。配るとき衆目に晒されるので、俺がその場にいるとばれる可能性が高い」
「うむ、そこは余も思っていた。余が実際に動くようになった暁も、先生に倣って配る所は立ち会わないでいようと思う」
「いいんですか? 陛下はいた方が」
「その程度の事で感謝されるのは複雑な気持ちになる。義賊が歓迎されるのは王の不徳と同義であるからな」
「……」
びっくりした。
正直ちょっとびっくりした。
そういう風に考えてるのか、国王陛下は。
ちょっと見直したかもしれない。
「正体と言えば、先生は大丈夫だったのか。襲う時」
「ディノスに変装をしてもらったので、大丈夫です」
「そうか。そうだ、先生の名前を考えていたんだ」
「名前?」
「そうだ、先生も私も正体を隠すのだから、偽名が必要だろう」
「あぁ……」
それもそうか。
流れに身を任せすぎてて、その事を考えてなかった。
「実はもう考えてある」
「先生の御先祖が生涯で唯一勝てなかった相手がいることを知っているか?」
「ええ? そんなヤツがいたのか?」
思いっきり初耳で、寝耳に水だ。
今まで散々、初代はそれはもう最強だ最強だと聞かされてきた。
それがいきなり、「唯一勝てなかった相手がいる」なんて話が出てくる物だから、十数年間の常識が音を立ててガラガラ崩れていくかのようだ。
「知らないのも無理は無い。この事はアイギナ王家、しかも古い書物に興味のある人間くらいしかしらん」
「しかし、カノー家でもそんな話を一度も聞いたことがないんですよ」
「当然だ、大げさだが、それは先生の先祖の汚点だ。子孫が好んで言い伝えるはずが無い」
「あぁ……」
それもそっか。
「その男の名前も今となっては不明だが、一つはっきりとしている事がある。それはアイギナを含む当時の大陸五大国の全てで、同時に爵位をもらっていたことだ」
「ええっ! そ、そんな事が出来るのですか」
「この事は複数の古文書に書かれている、間違いが無いのだろう。時の総理王大臣が爵位の授与にむかって、メルクーリ王国に後れを取ったと悔しがった記述がある」
「それは……さすがにおかしくないですか? なんで爵位を与える方が悔しがるんだ」
「それほどすごい男だったと言うわけだ」
「はあ……なるほど」
そいつに初代がかなわなかった……って事か。
……まて! この流れは!
「と言うことで、五大国すべてで爵位、五爵と呼ばれたその者にあやかって。先生には古い言葉で『五』を意味するペンタスを名乗っていただこうと思う」
「はぅ……」
やっぱりだ、悪い予感があたった。
由来を知ればものすごい仰々しい名前だ。
だが、ここで断れば……。
「本当は、五爵が愛用していた二振りの剣の名前をとおもったのだが――」
「ペンタスでお願いします!」
食い気味で、国王陛下の言葉を遮った。
やっぱりそうだ、もっとすごくて、仰々しい名前があった。
そんなのをつけられたらたまったもんじゃない。
それに比べれば、由来はあるが単に「五」って意味の言葉の方が数百倍もマシだ。
「よろしく頼みます、ペンタスの兄貴」
国王陛下はおどけた感じで言った。
義賊団としてでるとき、きっとキングは俺にこんな感じで敬語気味に話すんだろうな。
まあ、それはしょうがない。
「……」
「どうしたんですか、陛下」
「ペンタスは……民間人、だよな」
「え? ええ……それが? ――はっ!」
瞬時のきらめき、最近俺は危機察知能力が高くなってる気がする。
「ならば、ペンタスが今の五大国全てから爵位をもらうことも――」
「しないから! 無理だからそんなのは! 義賊、盗賊だから!」
「そうか? ただの盗賊ならそうだが、義賊ならば展開によっては!」
「やめてくれ! そ、そうだ! そんなのをもらってしまうと身動きがとれなくなる。義賊はあくまで自由な立場から、悪をくじき民を救うべきだ!」
思いっきりまくし立てた、生涯で一番早口だったかもしれない。
その甲斐あって。
「うむ、それもそうだな」
国王陛下は、なんとかその馬鹿げた考えを思いとどまってくれた。
ほっ……。
「……ふむ」
「ちょっと待ってください陛下、今度は何を」
「いやなに、実は余はメルクーリの王子などと親交があるのだ」
「はあ……待ってください、五爵は――」
「分かっておる、今更そんな横車を押し通す事はできん」
「ほっ……」
「しかし、先生に剣を教えさせることは出来る」
「へ?」
「ゆくゆくは全ての王が先生の弟子……うむ、それでいこう」
「え、え、えええ!?」
「大丈夫だ先生、今すぐにでは無い。外交も絡んでくる、数年は時間をくれ」
時間をくれって……本気でやる気なのか。
「えええええ!?」