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66.ヤンチャをしてたから

 国王陛下がとんでもない事をぶち上げてから数日後。

 俺は、王都レティムの郊外にやってきた。


 指定された場所にやってくると、そこには寂れた茶屋があった。

 かつては街道を通る旅人相手に商売してたであろう茶屋だが、ドアは壊れて天井も半壊。

 とてもじゃないが営業できるような状態じゃない。


 本当にここか? と疑問に思ったが、指定された場所がここなのだから、とりあえず入ってみることにした。


「おう、来たか」


 あっちこっちに蜘蛛の巣がはっている茶屋の中で、長椅子に片膝を立てて座っている一人の男。

 歳は三十の後半って所か、顔を斜めに横断する巨大な向こう傷が特徴の男だ。


「お前さんがカノー子爵かい」

「ああ、あんたは?」

「エミリオスだ。よろしくな」


 差し出された手を握りかえした。

 握手出来るほどの至近距離、自然とエミリオスの顔に向かい傷が目に入る。


 色がくすんで、かなりの年代ものであるのが窺える。


「ん? これが気になるかい?」

「ちょっとな」

「まあ、昔ちょっとヤンチャしてな。その時キングに助けられたって訳だ」

「なるほど」


 何があったのかは分からないが、それほどの傷、命を救ってもらった、というあたりだろう。


「で、お前だけか?」


 店の中をぐるっと見回した。

 ここに来たのは、国王陛下に命じられたからだ。


 親衛義賊軍を結成するためのメンバーをここに集めたから、まずは会ってこいという命令だ。

 義賊――盗賊という事もあって、王都内じゃなくて郊外になったんだろう。


「そろそろ来るぜ――おっ、来たかムラト」


 俺の背後に声をかけるエミリオス。

 俺も振り向く、店の入り口に眼帯をかけた、両耳が無い男の姿があった。


「……ムラトだ」


 寡黙な男らしい。

 ムラトは店の中に入ってきて、壁際に並べられた長椅子を一脚引いて、そのまま座り込んだ。


「すまねえな、昔っからああいう性格でよ。ヤンチャしてた頃はもうちっと口数が多かったんだがな」

「あれも『ヤンチャ』の結果って事か」

「ヤツのは勲章だな、キングを守って出来た傷らしいぜ。ヤツもキングも詳しくは語らねえがな」

「へえ」

「くきゃきゃきゃきゃ、ヤンチャの話か? 俺も混ぜろや」


 今度は天井を突き破って、一人の男が飛び込んできた。

 笑い声もそうだが、奇妙な声をしている。


 理由は――すぐに分かった。

 着地して立ち上がったそいつの顔は――男と女半分ずつだった。


 まるで二人の男女を共にまん中から切って、半分をくっつけ合わせたような不思議な外見。


「俺はコスマス。なんだ、珍しいかこれ? まあ昔ヤンチャしたからな」

「どんなヤンチャだよ!」


 思わず突っ込んだ。

 そんな見た目になるヤンチャとか何があったのか想像もつかない。


「ぐへへへ、それはキングに聞いてくれや。俺の口から話すこっちゃねえやな」

「お前もか! というかキングと一体何があったんだよ! 一番ヤンチャしたの彼じゃないのか?」


 そういうと、エミリオスもムラトもコスマスも、声を上げたり口角をゆがめたりして笑った。


「で、そこのヤツもヤンチャ付き合いなのか?」

「なっ」

「……むっ」

「へっへー」


 驚く三人。

 店の反対側、それまで誰もいなかったのが、すぅと、暗がりから幽霊の如くでてきた。

 最後の一人は若く、妖艶な見た目をした女みたいなヤツだった。


「さすがキングが先生と呼ぶだけある。完全に気配を消してたのによく分かったわね」

「……はっ」


 やってもた……。

 突っ込みの勢いでついつい指摘してしまった。


「そりゃあよ、キングの人の見る目だけは確かだからな」

「……自画自賛か」

「くけけけけけ、事実事実」

「まあ、それを認めるのはやぶさかじゃないね」


 四人はそれぞれの言葉で、和気藹々、って感じ言葉を交わした。

 短い言葉ながら、キング――国王陛下の事を慕ってるのは明らかだ。


「で、あんたの名前は?」

「そうだった。私はソフィア、宜しくね」

「そうじゃなくて、本当の名前だ。男にソフィアってつける親はいない」

「「「「えっ!?」」」」


 指摘すると、何故か四人揃ってびっくりしていた。


「な、なんだよ」

「わ、分かったって言うの? 昔のヤンチャで肉体が完全に女になったのにどうして……」

「だからどんなヤンチャしてきたんだよあんたらはよ!」


 盛大に突っ込んだ。

 肉体が完全に女になってしまう「ヤンチャ」、本当にいったい何があったんだろうか。


「ねえ、どうして分かったの?」

「……はあ」


 俺はため息をついた。

 うっかりやってしまったから、もうごまかすの無理だなと諦めた。


「あんたの腰に下げてる剣」

「剣? この剣がどうしたの?」

「男と女じゃ重心が違う、あんたのそれは長年男として下げてきた重心だ。男と女じゃ付いてる(、、、、)物が違うからな」


 もっと言えば日常的に剣を下げてる人間は、そうじゃない人間に比べて、体の重心がわずかに剣を下げてる側に傾くもんだ。


「へえ、それで分かるのね」

「おいディノス、お前、気配の絶ち方下手になったって前いったろ」

「下手って言わないで! ちょっと難しくなっただけ!」

「それって、体のバランス、重心が前と違うからなんじゃねえのか?」

「……はっ」


 性転換した女――ディノスは口を押さえてハッとした。

 そいつはその場で脱力した自然体になって、すぅ、と息を吸い込んだ。


 直後――目の前にいるのに存在感が希薄になった。


 ずっと見ていなければ、このまま一度でも目をそらしてしまえば見失いそうな、存在感のなさ。


 最初からこれで店の隅っこに隠れていたら、俺も気づかなかったかもしれない。


「おおう、すげえ」

「……懐かしいな」

「げひゃひゃひゃひゃ、戻ったぞ、全盛期にもどったぞ」


 どうやら昔からの付き合いである三人は、笑ったり懐かしんだりした。


 直後、存在感を戻したディノスは俺を真っ直ぐ向く。


「ありがとう! あなたのおかげで昔の自分を取り戻せたみたい。そっか、体の重心だったんだ」

「まあ……」

「さすがキングが認めた達人。一発で見抜くなんてすごい」

「ま、そうでもなきゃあのキングが先生って呼ぶわきゃないわな」

「……うむ」

「げへへへへ、おめえにテストをするつもりだったが、こりゃいらねえわな」


 思わず突っ込んでしまったからの塞翁が馬、すんなりと、四人に認められたみたいだ。


 ……より深みにはまった、とは、思わないようにした。

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