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65.二大巨頭

「へ、陛下、それはさすがにまずいんじゃ」

「いいやそんな事はない。お忍びでの世直しは王たるもののたしなみの一つだ!」


 拳を握り締める程力説する国王。


「いえ、そんなたしなみは――」

「かつてのシラクーザの双女王も、身分を隠して街に料理屋をだし、自らも看板娘として民に密接したと聞く」


 前例あるのかよ! というかものすげえ事やってるな双女王とやらは!


「先生と出会ったのもそうだ、今までは漫然とただ変装して街に出ていたにすぎないが、今回の件ではっきりと方向性が定まった!」


 ますますテンションが上がっていく。

 まずい、どうにかして止めないと。


 何か言い方便は無いかな、なにか……そうだ!


「陛下、それは危険すぎます」

「危険だと?」

「はい、夢幻団のリーダーはナナスという、ものすごい剣の達人が――」


 ――しまった。


 言いかけて、気づく。

 それはない、それはまずい。

 それは――逆効果だ。


「ほー……」


 案の定、国王の目がキラキラしだした。

 うっかりしていたが、国王は俺と初めて会ったとき、いきなり立ち会いを挑んで来たんだ。


 しかも、それまでダフネにデレデレしていたのが、急に人が変わったかのような真顔で。


「なるほど……危険かぁ」


 下あごをさすりながら、にやりとする国王。

 ああもうこれ絶対危険だからやめようって顔じゃないって。

 危険だからわくわくだって思ってる人の顔だ。


 止めないと、このままだと夢幻団に関わるどころか、夢幻団団長――つまり俺にピンポイントに狙いを定めてくる。


「え、えっと、そうだ陛下、参加するのはやはりまずいと思う」

「なぜだ?」

「ああいう連中は、万が一陛下の正体を知れば自慢して触れ回るから」

「自慢して?」


 首をかしげる国王、分からないって顔だ。

 よし、この路線行けそうだぞ。


「はい、あの手合いは、自分がどこそこの大物と知りあいだと言いふらして回る習性があるんです、だから」

「むぅ……たしかに、そういう輩は結構いるな」


 おっ? 国王にも身に覚えがあるのか?


「余もいくつかの街にお忍びで出かけたが、正体を知って言いふらされそうになったことが何回かある」


 経験したことがあった!

 よしよし、ならばこの路線でせめ続けよう!


「で、でしょう。ただのお忍びなら何も問題はないけど、義賊とは言え盗賊団に入ってしまったことが露見するのは良くないかと」

「うむ、さすがにそれはまずい。しょうがない。夢幻団に入るのは諦めるか」

「ほっ……」


 思わず声に出してしまって、それを慌ててごまかした。

 どうにか思いとどまってくれたようで、ほっとした。


「ならば信頼できる義賊団を作ればよい」

「……はい?」


 ぽかーん、と、なってしまった。

 いきなり何をいいだすんだ? 宣言の内容が一瞬理解できなかった。


「連中は信用できない、先生はそうだといいたいのであろう?」

「う、うん」

「ならば信頼が置ける手の者で作ればいい、余の直属で信頼が置ける者たちにな」

「お、おう?」

「わかりやすく言えば……親衛義賊軍だな」

「えぇ……」


 なんか間違ってる、激しく間違ってる。

 官軍と賊軍って対比の言葉あるけど、親衛義賊軍とかもう完全に矛盾してる。

 してるけど。


「能力も忠誠心もあるが、面構えがよくないからって理由ではねてた者達がいたな。うむ、その者らを重用するいい機会だ」


 なんか具体的でちょっといい話までなってるぅ!?


「日の当る場所でもないが、余の直属ならば問題はなかろう」


 いやいや問題ですって。

 ……しかし、まあ。


 落ち着いて考えたら、これなら別に問題はない。


 ようは国王がヤンチャをするってだけの話だ。

 夢幻団に関わらなければ俺的にはまったく問題はない。


 今までもちょこちょこお忍びで出かけてたみたいだしな。


 現状をまとめて、ちょっとほっとしていると。


「こういう時、二つの大きい存在という形にした方が良き方へ切磋琢磨して進んでいけるものだ。親衛義賊軍は夢幻団とならぶ二大義賊団の片方にするぞ」

「そうですね、それがいいですね」

「では頼むぞ先生」

「わかりまし――何を?」

「先生が義賊軍のリーダーだ」

「……えええええ!?」

「ああ、もちろん先生の正体は伏せる。子爵が義賊のトップになったなんて笑い話にもならん」


 ぎぐっ!!


 いやいや。


「な、なんで俺がですか?」

「さっきも言ったはずだ、余の信頼の置ける者で固めると」

「それはそうだけど……」

「先生を腹心とみて、ぶっちゃけて言おう」


 国王は真顔で俺を見つめて、言った。


「いざという時に余が逃げられるように、表にはもっとも信頼が置けて、もっとも腕の立つものを配備せねばならん」

「うっ……」


 せ、正論だ。

 事を始めるとともにきっちり退路を確保する、文句のつけようが無い戦略だ。


「余の命と命令が同時に掛かっている、やってくれ、先生」


 うっ……。

 こ、これは……断れない。

 断る空気じゃないし、断れる流れでも無い。


「わ、分かりました……」

「よし、細かい事はすすめておく。これからますます頼むぞ先生」


 上機嫌で、豪快に笑う国王。


 アイギナ国王という最強のパトロンにして参加者、親衛義賊軍は間違いなく夢幻団に比肩するでっかいものになる。


 つまり、俺は二大義賊団のトップに、同時になってしまうと言うこと。


 ……俺の人生、どこで道をどう間違えたんだ?

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[一言] 私掠船みたいなものかな?
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