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62.カノーは剣を選ばない

 アイギナ王国、王都レティム。


 宮殿の心臓部、玉座の間で、俺は片膝をついて国王に頭を下げていた。


「ヘルメス・カノー、召喚に応じ参上いたしました」

「おおう、ヘルメス先生。面をあげよ、そなたはそのような事をする必要はないぞ」

「いえ、これが本分ですから」

「堅苦しいな。余も先生に弟子の礼をとらねばならなくなるぞ」

「うっ」


 言葉に詰まった、周りがざわざわした。

 国王の「先生」連呼によって、周りの大臣や貴族たち、俺の剣術指南役は飾りだけの称号じゃないっていうことがすり込まれた。


 すくなくとも国王はそのつもりだということが分かって、俺を見る目の色が更に変わっていった。

 まずい流れだ、臣下として普通の礼法を守っていたのだが、それは悪い方向に向かって行ってる気がする。


 国王が弟子の場合どういう態度をとったら普通なんだ?

 ううむ……わからん。


 分からないから、流れに身を任すほかなかった。

 立ち上がって、なるべくでかい態度にならないように、普通を装って振る舞った。


「俺を呼んだのはどういうご用件なのでしょう」


 試しに若干砕けた口調にすると、国王がちょっとだけ機嫌をよくした。


「うむ、そなたにものを返そうと思ってな」

「返す? 俺は陛下に何かを貸した記憶は無いんだが」

「厳密にはそなたのものではない。セレーネ様とそなたの先祖の事をしっているな」

「ええ、まあ」

「そなたの先祖は何本かの剣を残していった。以来、王家の剣術指南役になるものは、証としてその剣を下げていなくてはならんのだ。正装の一部というわけだな」

「なるほど」

「返すと言ったのは、もとがそなたの祖先が残したものだからな」


 国王はそういって、がっはっは、と豪快にわらった。

 なるほど、話は飲み込めた。


 ちょっとほっとした。

 つまる所はしきたりだ。

 しきたりなら守ってその通りにするのが一番。


 俺は無駄口叩かないで、剣を普通に受け取ることにした。


 国王が手招きをすると、横から数人の使用人が出てきた。

 全部で三人、それぞれがワゴンのようなものを押してて、ワゴン一つにつき剣が一振り置かれている。


 つまりは三振り。


「陛下、これは……?」

「うむ、全てがそなたの祖先が残したものだ。その中から気に入ったのを一振り持って行くがよい」

「はあ」


 三本から一本を選べって事か。

 なんでまたそんな事を……と思ったらすぐに分かった。


 三本ははっきりと違っていた。


 見た目はそれほど違いは無いが、一番左にあるのはそこそこの業物だ。

 まん中のはものすごい存在感を放っていて、子供でも違いが分かる位の代物だ。

 一番右は特に何も感じない、街中で売られている一山いくらの剣だ。


 コインの事を思い出した。

 カノー家当主就任の儀式、あの時一番力がいるコインを持って帰ってすごいって言われた記憶が蘇った。


 それと同じことなんだな?


 いや、決めつけるのは早い。

 なにか更なる罠があるかも知れん。


「触ってみてもいいでしょうか」

「うむ、存分に比べてみろ。そして気に入ったのを一振り持っていくがいい」

「ありがとうございます」


 ワゴンに近づいて、三本の剣をそれぞれ取って、比べてみる。


 さりげなく周りの様子を観察。

 大臣どもは固唾を呑んで俺の様子を見守っているのがはっきりと分かる。

 やっぱり何かしかけてる。


 手に取った感覚は第一印象と同じだ。

 左がそこそこの力――しかも魔力が付与された業物だ。

 まん中のはおそらく「伝説の」という枕詞がつきそうなものすごい剣だ。

 右のはやっぱり普通の剣。良くも悪くも一山いくらの量産品。


 この三つからなら……これだな。


「こちらを頂きます」


 そう言って、右の剣、一番普通の剣を手に取った。


 ふっ、まん中のヤツを選んでほしい罠だったんだろうが、やり過ぎだ。

 あの力、たとえなにも知らない子供でも「なんかこれすごい」って分かるレベルだ。


 やり過ぎだ、そんな見え見えの罠に引っかかる事はあり得ない。

 俺は、失敗から学べる男だ。


 などと、密かに勝ち誇っていると。


「おおお……」

「それを選ぶとは」

「なるほど、さすがはカノー家という事かな」


 なぬ?


 周りを見る、大臣達は全員、しきりに感心していた。

 どういう事だ? 選択を間違えたのか?


 もう一度選んだ剣を見つめる、色々確認する。


 でもやっぱり何もおかしなところはない、普通の剣だ。


「ふはははは、余は嬉しいぞ先生」

「ど、どういう事ですか?」

「先生は自分のすごさを理解しておられんのだな。まあ、天才は凡人がなぜ自分の行為に驚くのかを理解できない事が多いというからな」

「ええぇ……」


 マジでどういう事なの?


「その三本の剣はな、先生の先祖がそれぞれ若い頃、中年の頃、老年の頃に使ったものだという」

「はあ……」

「最初はそこそこの剣を使っていた。力がつくにつれて、強敵を撃ち倒しまん中の剣を手に入れた。まん中の剣『フォス』はまさに彼女の力の象徴だったというわけだな」


 なるほど、そういう代物だったのか。


「そして晩年、もはや最強となった彼女は、名剣を必要としなくなった。その辺の安物の剣でも最強の座に君臨する事ができた。『カノーは剣を選ばず』のことわざの由来だ」

「あっ……」


 そのことわざ聞いたことあるかも知れない。


 ……。

 …………。


 え?

 って、ことは……。


「カノーは剣を選ばず、まさにそれを見せてもらった。さすが余の先生だ」


 避けた先は先祖が辿り着いた境地だったせいで、俺の株はまたしても上がってしまったのだった。

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