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59.剣豪国王

「またダフネに会いに来てくれたんだね、ありがとう」

「ももももちろん、いつでも何度でも会いに来るよ」


 娼館の中、国王あらためキングは、ダフネの手を取って、面白いくらいどもっていた。

 というか、ものすごく犯罪臭のする光景だった。


 片や普通にしてれば立派な中年のキング、片やエルフとドワーフのハーフで、見た目130センチで人間に直せばまだ10歳という幼さのダフネ。


 そして、娼館という空間。

 犯罪臭がきつすぎる組み合わせだ。


「だからダフネ姉さん100歳超えてるってば」


 俺の横にいるオルティアが突っ込んできた。


「だから心の声につっこむなって」

「だからヘルメスちゃん顔に出るんだってば」

「むっ」


 まえもそう言われたが、本当にそうなんだろうか。

 もしそうなら……ちょっとショックだ。


 そうこうしているうちに、キングとダフネが階段を上がり、部屋に消えていった。

 オルティアの部屋はダフネの部屋の隣だから、俺たちもゆっくり階段をあがった。


「でもありがとね、ダフネ姉さん、すっごい喜んでるよ。ものすごいリッチなお客さんありがとうって」

「そりゃそうだろうな」


 何しろ相手はアイギナの国王だ。

 あの様子だと「王様の国ちょーだい」って可愛くねだったら差し出しかねない勢いだ。


 多分、普通の娼婦には目が眩むほどの大金を渡していると思う。


「やっぱり客って貴族だよね、ってダフネ姉さんいってた」

「そうなのか?」

「うん。普通のお客さんは普通の料金はらっておしまいだけど、貴族様は余分にくれるしね。あたしが聞いた話だと、お金を忘れた貴族様が娼婦にお金を借りて払ったら、次の日その十倍にして返したんだって」

「へえ」

「でもって、それは娼婦に直接お金を渡したいからの小芝居だって。借金の返済なら店が中抜きするとかないもんね」

「へえ、色々あるんだな」

「ヘルメスちゃんはそういうの、詳しくなさそうだもんね」

「悪かったな」


 実際詳しくないのだから、しょうがない。

 それに、知っていたとしても、やりたくない。


 オルティアが今言ってるように、そこまでやったことは間違いなく噂になって、挙げ句の果てには尾ひれ背びれがついたりするからだ。


 俺は普通に、料金払って通い詰める。

 もう暫くしたら、オルティアが望むなら身請けする。


 そういう「普通」で行くことにする。


「そういえば、最近ヘルメスちゃん、剣を下げてることが多くなったね」

「ん? ああ」

「なんでなの?」

「なんとなくだ」


 というのは嘘で、隕石対策だった。


 ショウとの一件で、あの隕石はまだ正体不明だが、どこかの誰かの陰謀であることがほぼ確定した。


 そして調べてもらった結果、隕石の件を「解決」した回数は俺が国で一番多い。


 他は全員回数が「1」だったり、それも個人じゃなくて団体で解決するのが多い中。

 俺だけ二回、兄貴達がやられたのをいれると関わったのが三回だ。


 この先何も起こらないとは考えにくい、いざって時の為の用心として、剣を持ち歩くことが多くなった。


「ねえねえ、それで何かやってみてよ」

「何かって?」

「剣は得意なんでしょヘルメスちゃん。そういう顔してるよ」

「どういう顔だよ」

「ねえやって。一生のお願い、ねっ」

「おまえの、一生の、お願いは何個あるんだ」

「いたたたた、反対、ウメボシ反対」


 部屋に向かいつつ、歩きながら拳でオルティアのこめかみをグリグリする。


「もう、ヘルメスちゃんの意地悪。ちょっとくらいいいじゃん」


 オルティアはちょっとすねた。

 カラッとしている性格のオルティア。

 すね顔も嫌みが無くて可愛いのだが。


「分かった分かった。じゃあ――」


 俺は周りを見て、何かちょうどいいものはないかと探した。

 もうすぐオルティアの部屋の前、ダフネの部屋の前。

 見慣れた娼館の内装で、目につくものはなかったが。


「ほら、あそこにハエが飛んでるだろ?」

「え? あっ本当だ」

「ふっ」


 腰に下げてる剣の柄に手をかけて、抜きはなった――


「そうだヘルメス、俺は今夜帰らない――」


 剣を振るったのと同時に、背後のダフネの部屋のドアが開いて、キングが顔を出した。

 俺が剣を振って、ハエの羽だけ(、、、)を斬った瞬間、キングの顔色が変わった。


 ダフネにデレデレだったものから、一変して真剣な顔つきになる。


「ヘルメス卿……」

「え? な、なに?」

「余と……立ち会え」

「……えええええ!?」


 盛大にびっくりした、何を言い出すんだこの人は。

 俺が驚いてる間に、キングは自分の腰に下げている剣に手をかけた。


「――むっ」


 驚きが吹っ飛んだ。

 剣に手を触れた瞬間、空気が更に一変したからだ。

 今の気持ちを言葉にするとしたら、たったの三文字。


 出来る!


 キングは間違いなく一流の、いや剣術の達人だ。

 構えと空気を見るに、ミデア以上なのは間違いない、剣聖ペルセウスとは……互角で勝敗は時の運、って所か。


 間違いなく強い、なぜ?


「中興の祖セレーネ女王以降、アイギナ王は全員、剣術が必修科目になっている」


 キングがそう言った。

 いや、その雰囲気、必修科目レベルの話じゃない。


 才能ある人間が更に努力を積み上げてようやくたどり着ける領域だぞ。


 キングは剣を構えた――いやもはやキングじゃない。


「尋常に立ち会え、命令だ」

「うっ」


 俺はパニックになった。

 どうしたらいいのか分からない。


 国王(、、)は立ち会いを望んでいる。

 遊びじゃない、本気での立ち会いを望んでいるのが顔に出ている、俺でも分かる。


 問題は本当に本気を出すべきなのかどうかだ。


 本気を出して倒してしまうのと、手加減して花を持たせるのと。


 どっちがいいのか、どっちが正解なのか、どっちがこの場合「普通」なのか。


 分からなかった。

 分からないまま――


「参った」

「え?」


 はっとして、我に返る。


 国王の剣がいつの間にか手を離れ天井に突き刺さってて、俺の剣の切っ先が国王の喉先に触れていた。

 完全に俺の勝ちだ。


 そしてそれは。


「さすがカノーの血、その剣の腕前、世界一といっていいかもしれんな」

「あうあう……」


 迷いすぎてパニックになってる間に、またやってしまったみたいだ。

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