表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/167

57.何もしないのはNG

 ネックスの中から引っ張り出したものを炎の魔法で消滅させて、残った隕石も粉々に砕いて、塵へと帰した。


 周りを見回す。

 隕石そのものも、そこから出てきたヤバイものも。

 全てを消し去ることが出来た。


 後は……このネックスだが……。


 ざっ、ざっ、ざっ。


 静かだが、人気の無い野外にあって一際響く足音。


 振り向くと、ショウとその他二人――みた感じ側近らしき男がやってきた。


「さすがだな、もう片付いたか」

「まあこんなもんだ。後は任せていいですか? ……こいつも含めて」


 そう言って、足元で倒れているネックスをさした。

 外傷はないし、多分大丈夫だろう。


「わかった。後は引き受けた」

「ちなみに」


 俺はつかつかとショウに近づき、顔を寄せる程迫った。

 ショウはいきなりの事に気圧されて、上体をわずかにのけぞらせた。


「な、なんだ」

「約束通りこれは殿下の功績にして下さい」

「ああ、もちろんだ」

「俺には何もしないで下さい。十字勲章も無しです」


 今までの事もあって、俺は念を入れてそこを強調した。


「今回の件で俺には何もしないで下さい。本当に」

「分かった分かった。本当に不思議な人だ君は。なんでそこまでひた隠しにするのか正直理解に苦しむ」

「人それぞれですよ」

「そうだな。それは尊重しよう、こちらから頼んだ訳だしな」


 ショウは頷き、真顔で俺を見つめた。


「ショウ・ザ・アイギナの名において誓おう。今回の件、君の関与に関わることは何もしないと」

「ありがとうございます」


 そう言って頭を下げる俺。

 ここまで言ってくれたら……大丈夫だろう。


 王族がフルネームを名乗った上で立てた誓いは重い。

 何もしないという言質を取れたのはよかった。


     ☆


 ショウは約束を守ってくれた。

 俺にはどころか、ショウ自身が何かをしたとかそういう話もなく。

 そもそも隕石が落ちたという噂すら流れることなく、今回の一件は闇に葬られた。


 なんやかんやで若干警戒している内に蹴り姫祭が終わって、俺は姉さんと一緒の馬車に乗って、領地のピンドスに戻っていく。


「――♪」

「どうした姉さん、やけに上機嫌だな」

「ふふ、ヘルメスが祭で大活躍したのです。ピンドスにもどったらその事をミミスに言ってちゃんと広めさせなければ」


 俺は苦笑いした。

 あれはついやってしまった。

 ネックスが腹立たしくて、そいつに恥をかかそうと思って、ついついやってしまった。


 今にして思えばもっと他にやりようがあったんじゃないか、とも思う。


 が、やってしまったことは仕方ない。

 俺は少し考えて。


「伝統ある蹴り姫祭だし、そりゃ全力でやるさ」


 といった。

 結果としては同率一位。

 それを全力だったと喧伝すれば、ある程度は誤魔化せる。


 それに、これが「普通」だ。

 あの蹴り姫祭では、参加した貴族は全員名誉の為に全力を出し切った。

 俺も全力を出した、と主張するのがむしろ普通ではある。


 だからそう言って姉さんが広めようとする内容の誘導を試みた。


「ヘルメス……」


 姉さんは驚き、直後に目を潤わせて感動しだした。


「やっと、ヘルメスも分かってくれたのですね」

「まあ、時々な」

「ええ、時々でいいのです。これからもちゃんと本気を世の中に見せて下さいね」

「気が向いたらな」


 最後はそう締めたが、それでも姉さんは満足した様子で、上機嫌で鼻歌を歌い続けた。

 そんなに嬉しいものなのか? 俺が本気を出して世の中に認められるのって。

 まあ、だからといってあえてやることはないがな。


 だって面倒臭いし。


 でも、よかったよかった。


 隕石はショウが何もしないでくれてるし、祭の件は姉さんが貴族として当たり前の広め方で留めてくれる。

 ここ最近では珍しく、色々順調な方だ。


 これなら――


「そういえば……あっちの件はどうしますか?」

「どの件?」

「隠さなくてもいいですよ、隕石の件です」

「ファッツ!?」


 変な声が出てしまった。

 なぜ姉さんが隕石の件を?


「噂になってますよ? 王都の周りに隕石が落ちてて、それをショウ殿下が排除したんだけど、実はヘルメスが汚い手でやった……という噂が」

「な、なんだその噂は」

「ネックス男爵があっちこっちで言いふらしていることなのですけれどね?」

「あいつが!?」

「男爵はヘルメスが汚い手をつかった、と言ってますけど、具体的に何がどう汚いのかは言えないでいるのよ」


 そりゃそうだ。

 汚い手なんて何も使ってないからな。


「ただ、噂がでて、それでいろんな人が確認したら。確かに隕石があって、秘密裏に処理されたのです。で、それをしたのがどうやらショウ殿下……でも、痕跡はヘルメスあなたのもの」


 げっ。


 痕跡を調べられたのか。

 ああもう、ネックスのヤツ。

 そいつが言いふらさなければ、だれも痕跡を調べに行かなかったのに。


「でもショウ殿下はこの件にはまったく沈黙していて、誰が聞いても何も話そうとしないのです」

「おぉ……」


 ちょっと感動した。

 ショウ、俺との約束を守ってくれたんだな。


「ショウ殿下がなにも話さないから、噂がいろいろ飛びかってるのです。一番新しいものは」

「新しいものは?」

「殿下が祭りの最中だから人知れず処理しようとしたら、力及ばずピンチになった。それをヘルメスが颯爽と助けた」

「ええっ!?」

「秘密裏にかたを付けようとしたら失敗して助けられた殿下は、恥ずかしさに口を閉ざしている、と言うのが最新の説よ。その殿下が手を焼いたのを助けたヘルメスが実はすごいのかも? とも」

「えええええええ!?」

「あっ、ネックス男爵は今でも『汚い手』を連呼してますけど、祭で恥をかいた腹いせという説しかないですね」

「あっ、そっちはどうでもいい」


 マジでどうでもよかった。


 というか……そんな噂になってるのかよ。


「殿下が沈黙を守れば守るほど噂の信憑性が上がって行ってますね」

「うがっ!!!」


 なんてこった!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 前話で炎の魔法で消し去ってますが、今回になり、剣で細切れ?
[気になる点] 冒頭「ネックスの中から引っ張り出したものを剣でみじん切りにして」とあるが、前話の終わりでは「引っ張り出したものを炎の魔法で消滅させると」だったので、倒した方法が変わっている。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ