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54.変態のお礼

「ヘルメスちゃん一生のお願い――痛っ、いたたたたた!」


 両手をあわせて俺を拝むオルティアにウメボシを喰らわせてやった。

 娼館で人気娼婦と二人っきりというシチュエーションの割には色気がまったく無いある意味悲しい光景だ。


「お前の、一生は、何回あるんだ」


 単語ごとに区切って、その都度ウメボシの力を強める。


「いたたたた! い、いいじゃん! 普段目一杯サービスしてるんだからお願いくらい聞いてよ」

「頻度の問題だって言ってるんだ。せめて月一くらいにしとけ」

「えー、週一。週一にして、一生のお願い!」

「何でもかなうお願いを三つに! みたいなのやめえ!」

「いたたたたた」


 更にウメボシでぐりぐり。

 オルティアが俺の腕の中でジタバタする。


 顔のすぐ前にある頭からいい香りと、ふれあう体のぬくもりと柔らかさが伝わってくる。

 下半身に直結してる神経がいちいちムズムズする。


 まったくこいつは……。

 一生のお願いといいつつ、自然といちゃつく流れに持ってってくれる。

 絶世の美女とかじゃないが、人気なのがよく分かる。


「まあいい。で、お願いって何だ?」

「えっとね、太い客紹介して――いたたたた! な、何するのよ」


 オルティアは涙目で俺を見あげる、本気の涙目だ。


「ああいや、ちょっといらっとした」

「しないでよ! 話を最後まで聞いてよ! そうじゃなくて、あたしの姉さん」

「姉さん? 娼婦の事か」

「うん! ダフネっていうの。ダフネ姉さん、お金の為ならなんでもするっていう人なのね」

「なんでも?」

「なんでも」


 はっきりと頷くオルティア。


「たとえばウ○コを――」

「ストップ! それ以上の具体的な話は聞きたくない」

「あっいや、するのを見せるまでだけどね」

「微妙になんでもじゃなくないかそれ!」


 思いっきり突っ込んだ。

 金のためになんでもっていう割には、想像よりもはるかにマイルドで逆にびっくりだ。


「で、それに付き合ってくれる、ふとーい客を紹介して欲しいんだ。ほらヘルメスちゃん、腐っても貴族じゃん?」

「くさってねえよ」

「ねっ! 一生のお願い」

「はあ……まあ、それは別にいいけど」


 特に考えることなく、頷いた。


 貴族同士でそういうのを紹介し合うのは珍しくない事だ。

 なぜなら、貴族は政略結婚が多い。

 政略結婚で愛情が芽生えることは少なく、妻に好き勝手出来る訳でもない。家同士の問題に発展するから。


 そして何より、貴族は性癖がおかしいのが多い。

 何故かしらんが、非常に多い。


「ヘルメスちゃんも『オルティアマニア』だもんね」

「うっさいわ、心の声に突っ込んでくるな」

「ちがうちがう、顔に突っ込んだの。そういう顔してたから」

「どういう顔だよ!」

「ヘルメスちゃん、自分が思ってるよりも遥かに顔にでるよ?」

「……」


 それはともかく。

 性癖がおかしいのが多いから、貴族同士で好きに出来る女を紹介しあうのはわりと普通の事。


 普通。


 これが最近の俺のマイブームだ。

 今までのが間違いだ。

 あえてダメダメに振る舞おうとして、逆の結果になることがほとんどだが。

 普通に振る舞えば、普通の事だけをやってればそういう事にはなりにくい。


 俺は方針転換したのだ。


「わかった、知りあいの貴族いたら連れてくる。ちなみに写真とかはないか? あった方が紹介しやすい」

「うん、これ」

「どれどれ――そーい!」


 俺は受け取った写真を、窓を開け放って豪快なフォームで大空に投げ捨てた。


「うんうん、さすが姉さんのフォーム、よくとんだなあ」

「ちょっと現実逃避しないでよ。はいこれ、予備だからちゃんと持ってて」


 オルティアはもう一枚――さっきと同じ写真を俺の手に押しつけてきた。


 お金の為なら何でもするといったダフネという娼婦は――子供だった。

 ぶっちゃけ、10歳にしか見えない子供だった。


 しかも結構可愛い。

 お人形のような可愛さだ。


「こんなのダメだろ! 犯罪だろこれ」

「姉さんだっていったじゃん。これでも大人なんだよ」

「へ?」

「ほら、エルフとドワーフのハーフの」


 世界中にいろんな種族がいて、ごく稀にわずかな例でハーフが生まれる。

 その中の一つ、ドワーフの父とエルフの母からハーフで生まれると、ドワーフの血を受け継いで生涯130センチくらいまでしか成長しなくて、エルフの血でものすごく若くて長命になる。


 外見は永遠に人間の女の子くらいで、びっくりするくらい長命になる。


「ダフネ姉さん、これでも100歳超えてるんだから」

「へえ、そうなのか」

「まあ、人間の歳に直せばまだ10歳くらいだけど」

「だからアウト!!」

「とにかくお願い、ねっ!」


 オルティアは俺を向いて、両手を合わせて、片目をつむってウインクした。


「というか、俺には頼まないんだな」

「だってヘルメスちゃん、ちょっと引くくらいおっぱい好きじゃん」

「引くなよ! 男がおっぱい好きで引くなよ! 一番普通だろ!」

「ちがうちがう」


 オルティアは人差し指を立てて、ちっちっち、とゆらした。


「え?」

「おっぱい好きはオッケー。そうじゃなくて『引くくらい』のおっぱい好き」

「……え? 普通だろ?」

「ノンノン」


 またまた人差し指を揺らされた。


「ひくよー。あたし娼婦なのに引くくらいだよー。やっぱり貴族様ってちょっと変態なの多いよね」

「俺は普通だ!」


 お、俺は普通だ!


「大丈夫、あたし、そんなヘルメスちゃんも好きだから」

「うぐっ……」

「それよりも、ねっ。お願い。おっぱいなくてもいいって人をダフネ姉さんに紹介して」


 手を合わせたまま上目遣いで俺を見るオルティア。

 釈然としないけど、仕方ない。


     ☆


 オルティアの部屋を出て、娼館を後にしようとした。

 頼まれたこともあるし、色々とショックな事もある。

 今日はもう帰ろう、と思ったのだ。


「おわったか」


 店の一階に降りてきて、ロビーにでると、話しかけられた。


「あ、あなたは――」


 びっくりした。

 そこにいたのは国王。

 この前会ったばかりの国王がお忍びっぽい格好でいた。


「こちら領主様のお知り合いだという事ですが」


 店の小間使いの男がやってきて、そっと耳打ちするように言った。


「ああ……知りあいだ」


 小間使いの口ぶりだと、国王は正体を名乗ってないと見た。

 あくまでも貴族である俺の知りあいとしてそれなりの扱いをしている。

 これが国王だとばれたらこの程度ではすまない。


「えっと……」


 話を聞こうとするが、まずどう呼べばいいのかを迷った。


「キングだ」

「キング……さん…………」


 なんというか、隠す気があるのかないのかつっこみたくなる偽名だ。

 が突っ込んだらダメだ、俺は我慢した。


「えっとキングさん、俺に用なのか?」

「一言言っておきたくてな。いいか? 父上の事もある、ヘスティアさんの前ではそれなりに敬意をはらって接するが、だからといって勘違いをするなよ」

「わかった」


 その事をいいにきたのか?

 それなら大丈夫だし、ちょっとほっとした。


 調子に乗って国王との関係を「勘違い」する事なんてあり得ない。

 俺は「普通に」生きるんだ。

 子爵と国王、その普通をちゃんと分かってるつもりだ。


「ねえねえヘルメスちゃん、この人もしかしてお金持ち?」

「え? ああ、まあ……」

「お金持ちだよね、ヘルメスちゃんの知りあいだもん」

「そうだな」


 どうしたらいいのかとキングを見た。

 キングは「どうした?」って渋い顔のまま俺を睨む。


「ねっ、この人紹介してよ」

「ふん、そういう話か。いらん」


 キングはすげなくことわった。


「ただの女に興味は無い」


 まあ、国王だしそうだろう。

 その立場上、女なんてよりどりみどりだ。

 そもそもこの前、ヘスティアに会ったのに、「父親の女≒母親」って恐縮はしてたが、発情っぽいのはしてなかったしな。

 あのヘスティアでさえないのだから、ダフネは無理だろう。


「そんな事言わないで。ねっ。ほらあんた、ダフネ姉さん呼んできて」

「はい!」


 オルティアに言われて、小間使いの少年があわてて娼館の奥に走った。


「ふん、俺は暇じゃないんだぞ」

「すみません」

「まあいい、女には興味は無いが、お前に聞きたいことはある。ヘスティアさんとはどういう関係だ、詳しく聞かせろ」


 まあこうなるだろうな。

 キングからすれば、俺とヘスティアの関係をちゃんと把握しておかないと気持ち悪いだろうな。

 さて、どうするか。


「あっ、それならあたしが一緒に。姉様を紹介したのあたしなんだ」

「よし、なら一席作れ」

「はい!」


 その物言いから上客っぽい雰囲気を感じたのか、オルティアも娼館の人間も急いで動き出した。


 俺は逆にちょっと困った。

 色々ごまかそう。


 下手にでて(、、、、、)納得してもらおう。


 そう思っていた所に。


「ダフネのお客様になってくれるお客様はどこ?」


 幼い女の子の声が聞こえた。

 声の方を見ると、10歳くらいの女の子が、可愛らしいドレス姿で現われたのがみえた。


 ドワーフとエルフのハーフ、娼婦のダフネ。


 こうしてみるとやっぱり子供だよな。

 実年齢100超えてるっていっても、これじゃ無理だ。

 なにしろヘスティアの色香にさえも反応しなかったんだから。


「……いい」

「は?」


 やばいのが聞こえた気がして、ぱっと横を向いた。

 するとさっきまで渋面を作ってたキングが血走った目でダフネを見ていた。


「いい、すごくいいぞ。ぷにっとしたほっぺ、すらりとした手足、だというのにそこはかとない色気」

「……ええ」


 キングは一瞬でダフネに夢中になった。


「ヘスティアの体臭(フェロモン)に反応しなかったのって、そういうこと……?」

「ヘルメス!」

「あ、ああ。な、なに?」

「紹介してくれるってのはこの子か?」

「まあそういうことだが……」

「ありがとう! 感謝する! このお礼は絶対にする!」


 キングはそう言って、ダフネの手をとって二階にあがった。

 俺に話があるといって用意してもらった酒席とかは完全に無視して、ダフネと二人っきりを選んだ。


「あはは、やっぱり貴族さまって変態がおおかった」


 オルティアが楽しげにいった。

 いや、それよりも。


「まずいよ……まずいよ……」

「え? 何がまずいの?」

「あの人のお礼……絶対まずいよ」

「なんで?」


 それは国王だから……とは口が裂けても言えなかった。


 国王のお礼、絶対目立つよなあ。

 はあ……。


 ため息をついた俺の予測は当った。

 しかも、結構最悪な形で。



 娼婦の斡旋――なんて貴族同士では当たり前でも、国王の面子で向こうは公言出来なくて。

 そのスケープゴートにされたのが、スライムロード討伐。


 スライムロード討伐の十字勲章をまたもらった、四つ目だ。


 今回は出所が国王直々に、しかも「余計な事聞くな」と超厳重な箝口令。


 忖度と推測が噂を爆発的に大きくして。


 カノー子爵は陛下にミスリル以上の何かをもたらした。

 と、ものすごい噂が広まったのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 爆笑。吹いたわww キング..... [一言] 一言書かずには、いられなかった...
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