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52.本気で濡れ衣

「旦那様、リナ様がお見えです」


 書斎の中、屋敷のメイドが報告してきた。

 思わず難しい顔になってしまう俺。


「リナが? 一人でか? それとも誰か連れて来てるか?」

「はい、他には護衛の方のみです」

「なるほど……わかった、応接間にお通ししろ」

「わかりました」


 一礼して、退出するメイド。

 さて、リナか……。


 俺の敵ではない分、色々やっかいな相手だ。

 タイミング的には間違いなく、姉さんが勝手に送りつけたミスリルの一件だろうな。

 ごまかし方を考えつつ、俺は書斎を出て、応接間に向かった。


 応接間に入ると、いつものように、キリッとしつつも物静かなリナの姿が見えた。

 ティーカップを上品な所作で口つけていた彼女は、入室した俺を見てふっと微笑んだ。


「久しぶりね」

「ちょこちょこ会ってる気もするけど」

「もう少し会いたい気がするわ」


 先制パンチが飛んできた。

 リナは俺に色々好意的だ。

 その「好意」は俺にとって面倒なだけだから、どうにかしないとなと思っている。


 リナの向かいに座り、切り出す。


「ミスリルの件か?」

「いきなりそこへ行くの?」

「このタイミングだとそうとしか思えないだろ」


 俺は苦笑いした。


「どうだろう、そなたはそれ以外も色々していると思うのだけれど」


 ゴンのことか。

 と一瞬だけ思ったが、リナがそれで来ることはない。


 今の所夢幻団の団長が俺だという事がばれてはいない。

 状況的に、俺がけしかけただろう、というのは推測できるかも知れないが。


 そして、何故か確信めいたものを感じている。

 リナがそういう、俺を糾弾しに来ることはない。


 姉さんと同じ臭いがする。

 隙あらば俺を上げたくて仕方がない人種。

 リナは、そういうタイプに思える。


 そんなリナの軽口をさらっとスルーして。


「直接会えたならちょうどいい。あれを俺が見つけたと公表はしないでくれ」

「どうして?」

「……面倒臭いからだ」


 一度は納得したが、この件はゴンみたいなのを引き寄せる結果になった。

 面倒臭いにも程があるし――オルティアも危険にさらした。


 やっぱりひっそりと、慎ましく実力を隠して生きた方がベストだなと、また思うようになった。


「欲がないな」

「面倒なのが本当にいやなだけだ」

「大発見なのだから、この一件で伯爵――いや侯爵まで二階級特進ができるのだけれど」

「マジで勘弁してくれ」


 公爵。

 侯爵。

 伯爵。

 子爵。

 男爵。


 アイギナの爵位はこの五段階がある。

 今の俺は下から二番目の子爵で、ミスリルの発見は間の伯爵をすっ飛ばせる程の功績だとリナはいう。


 それは本気で御免被りたい。


「そこまで嫌がるのなら、しょうがない。わかった、これがそなたの発見だと言うことを公表はしない。それで表彰もしない」

「え?」

「なんだ、そのえ? というのは」

「いや、あっさり引き下がったなと」

「横車を押し通すのもどうかとおもっただけ」


 リナは立ち上がった。


「もう帰るのか?」

「説得できそうにないから今日はもういい」

「あっ、そう……」


 リナはスタスタとドアに向かっていく。


「……リナ」

「なに」


 ドアノブに手をかけて、顔だけ振り向くリナ。

 なんとなく決まりが悪くて、彼女を呼び止めたが。


「えっと……」


 かといって、なんといっていいのか、パッと出てこない。


「わるい」

「気にしなくていい。爵位を押しつけるのは、そなたがうっかり最初から公にした時までとっておく。その時は覚悟しておくことだ」

「うっ……お手柔らかに」


 俺は苦笑いした。

 リナはフッと笑い、そのまま立ち去った。


 こういう冗談を――いや冗談でもないが。

 そう返してくれるのなら、少しは気が楽だ。


     ☆


 数日後、謁見の広間。

 いつもの執務の中、ミミスが報告している。


「ご当主にクシフォス十字勲章の下賜が決定されました」

「……は?」


 普通のトーンに、今まで聞いた事のある内容。

 だから一瞬スルーしかけてしまった。


「待て待て、何だそれは、何の事だ」

「スライムロード討伐に対する勲章との事ですな」

「スライムロード? また?」

「また、ですな。これで三つ目です」

「なんでまた……」

「リナ殿下が申請してくれたとのことで。それに関して殿下は『スライムロードの件だ、それ以上でもそれ以下でもない』と強くおっしゃっていたとか」

「逆に怪しいわ!!」


 なんのフリだよそれ! 小学生でもちがうって分かるぞ。


「そうですなあ。殿下は同時に塩湖からミスリル採掘の発見を『私が発見した、間違いなく私が発見した』と強く主張しているとか」

「タイミング!!」


 そのタイミングでやったら馬鹿でも俺の関与が連想できるだろ!


「はあ……まあ、ある程度予想はしてたよ」


 リナが俺の功績にしないって言った。

 そうはいうが、彼女が何もしないとは考えにくい。


 何かしてくるだろうな、とは思っていた。

 案の定、ミスリルじゃなくて、スライムロードにつけてきた。


 予想してたから、まあ、これはこれでいいだろう。


「いやあ、しかし」

「ん?」


 ミミスがニヤニヤしていた、どうしたいきなり。


「この一件であっちこっち噂で持ちきりですぞ」

「なにが?」

「三つ目の十字勲章はミスリル発見の大手柄――と、見える訳なのですが」


 そんな遠回しな言い方いいよもう、って思っていると。

 次の瞬間、更に衝撃的な言葉が聞こえてきた。


「もともと疑惑のあった今までの二つの十字勲章。正体不明のその二つも、ミスリル級の手柄だったのではないか、という噂が流れておりますな」

「……それはさすがに濡れ衣だ!!!」


 椅子から立ち上がり、盛大に叫んだが。


「人の口に戸は立てられませぬな」


 ミミスはにやにやしてそう言った。

 うがああ!

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[良い点] すっかりミミスもお姉さん側になってる件について!
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