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03.試練とわな

「恐れながら申し上げます」


 今日も謁見の広間、ミミスがやってきて、前置きしながら頭を下げた。

 頭を上げた顔は得意げだ、いや意地悪な感じだ。


 やな感じだな。


「なんだ」

「ヘルメス様に、当家のしきたりを執り行って頂きたいと存じます」

「しきたり?」

「はい、ご存じの通りカノー家の初代当主様は、世界最強の女剣士と名をはせた程のお方です」

「へえ」


 もちろん知ってるがとぼけといた。

 歴史書にも載ってるしな、女でありながら同じ二百人の兵を率いて世界中で無数の戦場に参加しながら一度も負けたことがないって。


 ま、歴史書なんて勝者の箔付けだから、五割――いや三割くらいに話を聞いとく必要はあるだろうな。


「偉大なる初代にならい、三代目様より代々伝わってきた、初陣の儀式を執り行いたく存じます」

「初陣の儀式?」

「はい」

「面倒臭いな。やらないとどうなる?」

「はて? 簡単な儀式故拒む方もいらっしゃらず。ただ一説には初代様の英霊が現われ、性根をたたき直すとか」

「むぅ……」


 それは面倒臭い。

 初代の英霊、ってのが冗談に聞こえない。

 能力ある人間とか、実績ある人間が何かの魔法や呪いで魂をこの世に残す事はよくある。


 200人で世界を縦横無尽に駆け巡った女、たとえ話三割だとしてもそれが出来る域にある。

 そしてそれはものすごく面倒臭い事になる。


「……儀式的なもの、なんだな」

「はい」

「わかった」


 俺は深くため息をついた。


     ☆


 次の日、俺はカノー家の私兵100人とともに、屋敷を出て街を出て、郊外に向かっていた。


 百人の兵の他にミミスや他の家臣らがついてきてる。

 それはいいのだが……。


「何故姉さんまで来ている」


 トレードマークのドレスを着て、レースをあしらった日傘をさして。

 どこからどう見ても姫チックな扮装の姉さんが、兵に混ざって行軍していた。

 しかも、かなり涼しげな顔でだ。


「何を言っているのです、私は娘ではありませんか」

「何故ソーラさんまで来てるんですか」


 ため息交じりの敬語で聞き直した。


「もちろんヘルメスの格好いいところを見に、ですよ」

「見せない――じゃなくて、そんなの無いからな」

「それにもしかして、難癖つけて当主だと認めないって言い出す人もいるかもしれないじゃありませんか」

「……なるほど」


 こっちが本音か。


 俺を当主にしたい姉さんにとって、それを認めたくない家臣はまあ敵だ。

 やったかやらなかったかの水掛け論を防ぐために、自ら立会人を買って出たってわけだ。


「がんばってねヘルメス」

「はいはい」


 姉さんを適当にあしらいつつ、兵に守られる形で進む。


 小一時間くらい歩いた後、一つの洞窟の前にやってきた。


 ミミスの命令で、兵が散らばり、洞窟の入り口を取り囲む形になった。


「包囲戦のまねごとか、本当に儀式なんだな」

「中にお入りになって、初代当主様の名にちなんだ金貨を取ってきて下さい」

「金貨を取ってくればいいのか?」

「その通りにございます」

「わかった」


 俺は洞窟の中に入った。


 そこそこ人の手が入ってる、天然モノを改造した洞窟って感じだ。


 モンスターの気配はない、邪悪な物の気配とかまったく無い。

 本当にただの儀礼的なものなのか?


 しばらく歩いてると、台座みたいな形の岩があって、その岩の上に一枚のメダルがくぼみにはまっている。

 近づき、岩から外して持ち上げてみる。


 表に裏に観察した。

 表は髪の長い女の横顔が彫られてる、なるほどこれが初代当主か。

 そして裏には星のマークが一つ。


 これを持ち帰ればいいのか、いやでもまだ奥があるぞ?


 奥の方を見た。


 ひゅううううぅぅ……風が奥から吹いてきた。

 まだまだ深そうな、奥にもっともっと続いてる様な感じだ。


「もうちょっと行ってみるか」


 金貨をポケットにしまって、更に奥に進む。

 三分くらい歩いた所で、さっきと同じ岩の台座と、金貨があった。


 近づき、同じように金貨を取る。

 表は同じ顔で、裏は――


「むっ」


 眉がびくりと動いた。


 さっきの金貨を取り出す、並べて見比べる。


 見比べるまでもなかったが、これでよりはっきり分かる。


 最初のは星のマークが一つで、今度は二つだ。

 そして、洞窟はまだまだ奥に続いてる。


「……もしや」


 二つの金貨をポケットにしまい、更に進む。

 今度はさっきよりも長い道のりで、くねくねしてて進むのがおっくうだった。


 だが進んだ先にはまたまた岩の台座があって、金貨があった。

 取り上げると、今度は星のマーク三つだ。


「ははーん」


 話が大体読めてきた。


 同時に何処まであるのかが気になって、俺はどんどん先に進んだ。


 進む、星が四つの金貨を手に入れる。

 進む、星が五つの金貨を手に入れる。

 進む、星が六つの金貨を手に入れる――。


「突き当たり、つまりここが最後か」


 台座から予想通り七つの星マークが入った金貨を取り上げる。

 手のひらに七つの金貨を並べる。

 なんとなく分かった、より奥の、つまり星のマークが多い金貨を取ってきた方がすごいって訳だな。


 つまりこの場合の正解は――。


 七つ星の金貨を台座に戻した。

 来た道を引き返して、順番に六つ、五つ、四つと、金貨を元の台座に戻していった。

 そして最初の一つ、一つ星の金貨だけを持って、洞窟を出た。


 外は俺が洞窟に入った時のままだ。

 正面に家臣団がいて、その横に姉さんがいて。

 それら全体を兵士が洞窟ごと取り囲んでいる。


 俺は家臣団の正面、代表のミミスの前に戻ってきた。


「いかがでしたか」

「これだろ?」


 ポケットから金貨を取り出して、手のひらの上に載せて見せた。


 ミミスは「失礼」といって、金貨をひっくり返す。

 ふっ、やっぱり星の数を見るのか。


 一つ星を持って帰って正解だった。


「なっ!」


 ミミスが驚愕した、他の家臣が息を飲んだり、ざわざわしだした。


 なんだ? どうしたんだ?


「い、今まで誰もクリアした事のなかった第一級の試練を」

「何かの間違いではないのか?」

「誰か見てこい!」


 家臣の一人が命じると、そこそこの格好をした兵士が洞窟の中に走って、すぐにもどってきた。


「だ、第一級の試練でございました!」


 兵士の報告に、家臣達はますますざわついた。


「どういうことだ?」

「一番難しいのですよ、それ」


 一行の中で、唯一まったく驚いてない、涼しげな顔をした姉さんが俺の疑問に答えてくれた。


「一番難しい?」

「ええ、最初が一番難しくて、奥に行くほど楽にとれるというもの」

「なっ! なんだってそんなものを」

「初代当主様は努力の人も多く見てきたと言われてます。入り口から近いほど才能が必要だけど、才能が無くても努力して奥まで進めばどうにかなる。という教訓を模して作られた試練なのですよ」

「……くっ!」


 そんなのありかよ、俺が思ったのと真逆だった。

 一番入り口から近いヤツで、ミミスが言った「誰もクリアしたことのない」この金貨を持ち帰ったのは――。


「だから言ったのではありませんか、ヘルメスは本気出したらすごいと」


 姉さんはここぞとばかりに、ミミス達に威張って見せた。


「違う本気出してない」

「あらそう?」


 姉さんは少しだけ首を傾げて、それからにっこりと笑った。


「本気出さなくても第一の試練をクリア出来たって言いたいのですね、ますますすごい才能です」


 ざわつきが一段と大きくなった。


 うがっ!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前の方が言っていたように、本当に意味がわからなかったです。一番最初が取れないのに、何故奥に行けるんですか? そこをちゃんと説明してほしいです
[一言] え、どう言う事? この話がよくわからなかった。 試練も何も、ただ歩いてコイン取って、帰ってきただけの様に見えるけど。 行間読んで、受ける試練は任意又は受ける人の能力により自動的に振り分けられ…
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