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俺はまだ、本気を出していない  作者: 三木なずな


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28.倍プッシュ

 いや、諦めるのはまだ早い。

 何か方法はあるはずだ、考えろ俺。


 俺も目的はシンプルだ。

 功績を挙げたくない、実力バレしたくない。

 それを昔からずっと考えている。


 それが良かった。

 日夜考えてるから、すぐにひらめいた。


 俺はここに来る前に屋敷を吹っ飛ばしてる、そのまま誰にも何も告げずに出てきて、四日間音沙汰無し。

 良くない(、、、、)失踪の形になってるはずだ。


 何か取り憑かれたって事にしよう。


 取り憑かれて、操られてるって事にすれば、これを倒したのが俺の力だって説明もつく。そういう時は力がブーストされる事もあるから、そういうことに出来る。

 更に記憶が無いって言い張ることも出来る。


「……いける、いけるぞこの設定」


 考えれば考える程いけるって気がしてきた。

 暴走したてですぐに姿を消したのがここに来て良い方に作用した。


 取り憑かれてるのを更に信憑性増すためには――兵士達を倒そう。

 暴走を装って、全員それなりにボコっとこう。


 一般兵相手だ、後で正気に戻った俺(、、、、、、、)が賠償とか見舞いとかすればカタがつく。

 むしろ貴族である俺の失態を隠すために大金を払ってもいい。

 俺のミスをカノー家に尻拭いしてもらう形だ。


 うん、ますますいい設定になってきたぞ。

 よし、この設定で行くぞ――。


「殿下! 目の錯覚ではありません、竜王の影が倒されてます」

「あの男です、あの血まみれの男がやったようです!」


 兵士に飛びかかろうとした瞬間、その言葉にピタッ、と動きが止まった。


 ……殿下?


 ピタッと止まって、おそるおそる300人弱の兵士の集団を見る。

 隊長らしき男が、おそるおそるって感じで俺に話しかけてきた。


「私の名はショウ・ザ・アイギナ。アイギナ王国第三王子だ」


 ……王子?

 王子って、あの王子?


 国王の三番目の息子とかっていう、あの第三王子?


 殴り掛かるのが、一瞬で出来なくなった。

 いくら何かに取り憑かれてる(、、、、、、、、、、)設定でも、それで王子に危害を加えたら家取り潰しの可能性が出てくる。


 倒せない、倒すって選択肢が跡形もなく消えてしまった。


「貴公はもしや、ヘルメス・カノーではないか」


 しかも俺の事を知ってるよ王子様!


「え、いや……」

「竜王の影を一撃で倒したのはどうやったものなのだ?」


 更にまずい、はっきり認識してる。

 くっ、王子相手に株が上がってしまうのか?


     ☆


「……つまり、見なかったことにしろ、と?」


 竜王の影の死骸のそば。

 兵士達を遠ざけて、第三王子ショウ・ザ・アイギナと二人で話した。


 と言うより頼み込んだ。

 もはや誤魔化せないと思った俺は、ストレートに、竜王の影を倒したのが俺だと言って、しかし他人には言わないでほしいと頼み込んだ。


「はい」

「何故だ。竜王の影の事は知っていよう。これを倒したとなれば、そなたは英雄として称えられるのだ」

「申し訳ありません殿下。どうかご勘弁下さい」


 理由はいわなかった、とにかくダメだという一点突破で、ショウに頼み込んだ。

 最初は理由を聞き返してきたショウだが、俺が「とにかくダメ」って言うもんだから、次第に諦め、そして呆れの二つの感情が顔に出た。


「ふぅ……リナから聞いた話そのままだな」

「リナ殿下から?」

「ああ、そなたは力はあるが、何故かそれを隠そうとする。そう聞いている」

「くっ」


 彼女そんな事を言いふらしてるのか。


「安心しろ」

「え?」

「今の所私しかその話を聞いていない、そのはずだ」

「そ、そうですか」


 本当にそうなのかは知らない、が信じるしかない。

 そしてリナから話を聞いてるのなら、少しは話を合わせてくれるかもしれない。


 だから俺は、思いっきり、とにかく拝み倒す勢いで頼み込んだ。


「お願いします殿下! どうか!!」

「……わかった」

「じゃ、じゃあ!?」

「ああ、誰にも言わない。もとより竜王の影は刺激しないように、私達がうまく誘導して人里から遠ざけているのだ。死んだとしても、人里に現われないと言う意味では今までと大して変わらない。むしろ永久に脅威がさっていい位だ」

「本当ですか?」

「くどい。一度承諾したことをくつがえさん。王家の言葉は山よりも重い」

「ありがとうございます!」


 俺はパッと頭を下げた。

 いやあ、この王子話が分かる。


 ショウがこの事を腹の中に収めてくれるって言うんだ。

 俺の強さを知ってる人間が更に一人増えたが、言わないのなら増えてないのと一緒だ。


 リナの時もそうだが、王族は「王家云々」って言葉が出てきた時は信用出来る。


 俺はホッとした――その時。

 竜王の影の死骸がうごめき始めた。


 ボコボコと液体の沸騰するような音が聞こえて、俺とショウは同時にそっちを見た。


 俺が引き裂いた口が更にさけて、そこから黒い影が飛び出して来る。

 影はショウを襲った。


 助けなきゃ――いやまずい。


 と、一瞬ためらったが、よく考えたらショウはもう俺が「ある程度強い」って知ってる、なら彼の前でためらう必要はない。


 一応周りだけ確認、兵士達は遠く離れてる上に背中を向けててこっち見てない。

 これなら大丈夫。


「失礼」


 俺はショウの腰からロングソードを抜き放ち、飛んで来た影を斬った。

 一撃めは斬れなかった、刃がすり抜けた。

 物理的な存在ではないらしい。


 ならばと、燕返しの如く二撃目を放つ。

 今度は対霊体に効果のある斬撃を。


 すると、黒い影は真っ二つに切り裂かれて、煙の如く跡形もなく消え去った。

 この手のヤツは――


「どうやら殿下をのっとろうとしたみたいですね」


 推測だが、当らずとも遠からずのはずだ。

 あれがドラゴンに取り憑いてる、竜王の影の正体かもしれないな。

 まあ、倒した事だし、もうどうでもいっか。


 俺はハサミとか包丁とか、そういうのを返す時の様に、ロングソードの刃を自分の方に向けて、ショウに差し出した。


「差し出がましい事をしてすみません……殿下?」


 ショウが真っ直ぐ俺を見つめている事に気づいた。

 その表情は真剣そのものだ。


 ……まずい! こっち(、、、)があったか!


「命を助けられたな」

「いや、それは――」

「私はアイギナ王国第三王子、ショウ・ザ・アイギナだ」

「で、殿下。この事は内緒にという約束を」

「うむ、王族に二言はない。竜王の影を討伐した事は墓まで持っていく。しかし」


 カッ、と目を見開くショウ。


「命を救われた事は礼をしなければ王族の名折れだ」


 と、言い切ったのだった。


 ああもうこれ、止められないのか……。

 諦めざるを得なかった。


 幸い、ショウは竜王の影の事を秘密にすると言ってくれたんだ。


 それが不幸中の幸い――。


     ☆


 ――なんてことはなく、むしろ逆効果だった。

 リナの時同様に、ショウはスライムロード討伐を理由に、俺に二つ目のクシフォス十字勲章をよこしてきた。


 スライムロード討伐ごときに二つの十字勲章。

 それがはっきりと逆効果になって。


 ヘルメスという男はなにかあるのか?


 と、王国で逆に噂になってしまったのだった。

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