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22.初代の軌跡

 屋敷の庭で、ミデアが剣を振っていた。


 剣術の修練、決まった型の素振り。

 俺が前に教えてやったのを、ひたすら繰り返している。


「精が出るな」

「師匠! どうですか、私の剣は」

「ずいぶん上達したんじゃないか?」

「本当に!?」


 ものすごく嬉しそうに聞き返すミデア、俺ははっきりと頷いた。


「最初にあった頃に比べて間違いなく上達してる」

「やったぁ……」


 しみじみとした様子でガッツポーズをするミデア。


 素直で健気な性格だ、つい、もうちょっと絡んであげたくなった。


「もう一振り剣があるな」


 近くの木の下に立てかけていた剣を取って、左手で鞘を腰のあたりに構えた。

 いつでも抜ける、ただそれだけの構え。


「師匠?」

「例のヤツ、俺に向かって撃ってみろ」

「え? でも」

「どこまで上達したのか見てやる。本気で来い」

「――はい!!!」


 さっき以上に、いや、ここしばらくで一番嬉しそうな顔をしたミデア。

 彼女は抜き放ったロングソードを構えて、俺に向かってくる。


 そして、斬撃。

 形としては俺が教えたあの一撃だが。


「――っ!」


 俺はびっくりした、あまりの鋭さに切っ先が空気の熱でぶれて見えた。

 とっさに剣じゃなく二本指で掴んで止めた、真剣白刃取り。


 最初は剣で打ち合おうとしたが、それをやるととんでもないレベルの衝撃波をあたりにまき散らす。

 そう思ってつまんで衝撃を消すように止めたのだが。


「げっ」


 衝撃波は完全に止めきれなくて、俺の背後、庭木が数十本、斬撃の余波でぶった切られた。


「おおぉ……さすが師匠! あっさり止められちゃった」


 いやお前のその一撃もすごいけどな、と言おうとしたがやめた。


 渾身の一撃を、切っ先を指でつまんで止められたと言うのにミデアはまるでへこたれなかった。

 むしろ軽く剣を振って、型を反芻して。

 今のはもうちょっとこうすれば良かった……と一人で反省会に入っている。


 やっぱり健気で、その上努力家な子だ。


 ついつい、また教えてあげたくなっちゃう。


「ミデア」

「はい、何ですか――わわ、か、体が金縛りに!?」

「俺が止めてる」

「あっ、そうなんですね」


 金縛りに、っていった直後はパニックになりかけただったけど、俺がやったというとミデアはすぐに落ち着きを取り戻した。


 そんなミデアの横に並んで、同じ方向を向く。

 まずは右手をあげてみせた。

 するとミデアも同じように、右手があがった。


「わわ!」

「ちょっとした魔法だ、相手の体で同じ動きをする、それだけの魔法」

「すごい! 剣だけじゃなくて魔法もすごいのができるんだ師匠」


 無邪気に笑うミデア、まったく抵抗をしていない。

 この魔法でやってることは要するに二人羽織、その上位版だ。


 体を密着されて、良いようにするという意味では同じで、それを嫌う人間は多い。

 が、ミデアはまったくそれがない。

 抵抗など微塵も感じずに、俺になすがままにされている。


 無邪気な信頼がまた健気に思えた。


「なんでこんなことをしたのか聞かないんだな」

「そういえば、何でですか?」


 俺は苦笑しつつ。


「新しい技を教えてやる」

「――っ! 本当に!」

「ああ。ただし今まで通り、俺が教えたとは誰にも言うなよ」

「分かってます! 私の師匠はナナス! ナナス流の門下生です!」


 俺が作った設定を忠実に従うミデア。

 そんなミデアに一つ先(、、、)のを教えてやった。


 鏡写しの状態で連動して、俺はゆっくり、ゆっくりと剣を抜いて、模範をやってみせる。


 型の形を数段階に分解して、一つずつ、ゆっくりとやってみせる。

 ミデアは同じ動きをした、俺の魔法で強制的におなじ動きをさせられた。


 さっきまでの無邪気な笑顔は跡形もなく消え去った。

 ミデアは真剣な顔で、型を体で覚えていく。


 そう、体で。


 何かを教えるとき、これが一番手っ取り早いんだ。


 こうこうこうしろ、と言葉で説明するよりも。

 絵に描いて秘伝書という形で残すよりも。

 あるいは目の前で実際にやって見せてからやれって言うよりも。


 そんな、あらゆる方法を飛び越えて、実際にやれる人間が体の動きを連動させて、同じ動きをして体感させた方が一番身につく。


 もちろん、ただなすがままじゃ覚えも悪い。


「次からミデアもやってみろ」

「良いんですか?」

「俺も同時にやる、動きがあってればスムーズにいく、あってなきゃひっかかる。それで覚えろ」

「なるほど、さすが師匠!」


 ミデアの理解も早い、俺が言ったことをすぐに納得して、自分でも動き出した。

 最初の内はさすがに引っかかりがあった。


 が、俺が模範の動きを教えてるから、ミデアはその引っかかりを地道に修正していった。

 それに没頭して、ひたすら繰り返す。


 ミデアの覚えは良かったから、予想よりも早く終わった。


「動きはもう完璧だ、後は地道に修練しろ」

「はい! ありがとうございます師匠――ってうわ!」

「どうしたんだーーおおっ!」


 ミデアと一緒に驚いた俺。

 いつの間に来ていたのか、俺たちから十メートル近く離れた所で、屋敷の使用人達が集まって、こっちを見ていた。

 まるで何かの野次馬のように、こっちをみてひそひそ言ってる。


「な、なんでこんなに集まってるんだ?」

「あっ……師匠」


 俺を呼ぶミデアは気まずい顔で真横を見ていた。

 その先には――斬られて倒れてる木が。

 そうかそれで集まってきたのか――ってそんな事よりも!


 ……やっちまった、ミデアがあまりにも健気で、ついつい教えるのに夢中になっちまった。

 それをガッツリ見られてしまった。


「だ、大丈夫ですか師匠?」

「……大丈夫だ、今の型は結構高度の物、見ただけじゃそうだとは分からん」

「そっか!」

「それに何も知らなきゃ、俺とおまえが二人で宴会芸の練習してるようにしか見えないだろう」

「確かに!」


 俺とミデアはシンクロしていた。

 そういう宴会芸があって、傍からは今のはそう見えるはず。


 それに。


「いまのってなんだ?」

「よく分からない」

「シンクロする芸の練習か?」


 ひそひそ話する使用人野次馬達の会話も俺が予想した物だから、ホッとした。

 の、だが。


「初代様のあれじゃね?」


 なぬ?


 なんか聞き捨てならない台詞が聞こえた。

 そいつを見た、変哲のないただの使用人だった。

 しかし台詞は今までの使用人達のとはちがったから、他の使用人たちも一斉に視線を向けた。


「初代様のって?」

「初代様、国王陛下の剣の師匠じゃん? その逸話にさ、手を棒で互いにくくりつけて、動きがシンクロするようにして剣の型を体で覚えさせたのがあるんだよ」


 はいぃぃぃぃ!?

 そんな事やってたのか初代。


「それと今の同じだったんじゃね?」

「たしかに! でも棒でくくってなかったぞ」

「ってことは魔法かしら」

「そんな事も出来るのか当主様!」


 話が加速度的に進んでいく、真実に辿り着かれてしまう。

 それはそのまま、「当主様じつはすごくね?」ってのにまた一歩近づいていく。


「師匠……」


 ミデアは困った顔、どうしたらいいって顔で俺を見る。

 なんてこった、ていうか!


 そんなはた迷惑な逸話残すなよ初代!!

 それなりに高度な事をやったのに、使用人レベルでバレバレじゃねえか!

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