164.エリカも土下座?
「あの噂ってホントなのダーリン!!」
あくる昼下がり、リビングでくつろいでいると、エリカが唐突に現われた。
ドアを壁に叩きつける勢いで開け放って、部屋の中に飛び込んできた。
勢いもさることながら、エリカは血相を変えたようすで俺の前に立って、おでこがくっつくくらいに迫ってきた。
「あ、あの噂って?」
「ダーリンに魔王が跪いて靴を舐めたって話!」
「尾ひれつきすぎ!」
俺は声をはりあげ、突っ込んだ。
「誰からそんなの聞いたんだ?」
「誰でもいいでしょ。それよりもダーリン本当なの?」
「いや嘘に決まってるだろ、後半でたらめだ」
俺はあきれ顔で否定した。
なんだよ跪いて靴を舐めたって。
「じゃ、じゃあやっぱり……」
「ああ、カオリはそこまで――」
「足の指を隅から隅までしゃぶるように舐めたのね!」
「――なんでそうなるよ!」
さっきよりも一オクターブ高い声で突っ込んだ。
声がめっちゃくちゃ裏返ってしまう。
というかもうコントだろこれ。
めちゃくちゃ突っ込んだ後、エリカに落ち着いて否定した。
「そんな事はない。まあ、土下座っぽいのをしただけで、それ以上の事はされてない」
「そうなの?」
「ああ、ない」
「うぅ……」
きっぱりと言い切ると、エリカは何故か不満げだった。
その反応も気になるが、もうひとつより気になることがあった。
「というかさ」
「え?」
「昨日の今日だぞ、情報はやくないか?」
「そ、それは……」
俺の指摘に、エリカが思いっきりたじろいだ。
一歩後ずさる位たじろいで、それから目を泳がせた。
これは……クロだな。
こう質問したのは、エリカがカランバの女王という、普段は王都にいて昨日の今日でこの情報をキャッチして問いただしに来るのはおかしいという理由からだ。
――の、だが。
その一方で、エリカはちょこちょここの屋敷に通っている。
場合によっては、「今日来る予定だったのが、通ってる途中にカオリの一件を聞いた」という事が充分に考えられる。
その場合、昨日の今日でもおかしくない。
むしろ普段のエリカの事を考えれば最初から疑問にも持たなかった位だ。
実際そうじゃなくても、そういう言い訳が充分に成り立つ。
それを出来ないという事は、エリカに何かやましい所があって、それが思考を邪魔してるって事なんだろう。
「そ、そんな事よりも。土下座は本当なのダーリン!?」
エリカは力技でごまかしてきた。
言い訳とかまるっとすっ飛ばして、力づくで話題を変えてきた。
そうきたかぁ――と、俺は微苦笑を浮かべつつも、その事には触れずに質問に答えた。
「ああ、まあ。それはなんというか……どっちかというとノリでやった所もあるんじゃないのかな」
昨日の光景を思い出しながら、そう答えた。
確かにカオリは俺に向かって土下座するほどの勢いで頼み込んできたが、「土下座」って言葉ほど重い仕草じゃない気がする。
例えば「ただの土下座」ならかなり重い意味あいを持つけど、「ジャンピング土下座」とか「スライディング土下座」とか、はたまた「エクストリーム土下座」だと大事感が一切なくなる。
カオリのもそういう感じがする――って事にしようと思った。
「ノリなの?」
「ああ、だから気にすることないぞ――」
「ずるい!」
「――へ?」
言いかけた俺はきょとんとなった。
完全に予想の大外から放たれてきたエリカの一言は強烈過ぎて、ワンパンチで俺を思考停止に追い込んできた。
唖然として、ポカーンとなって、エリカを見つめた。
エリカは年頃の少女そのものの、威厳もへったくれもない感じで頬を膨らませて抗議してきた。
「ず、ずるいって?」
「ずるいよ! だって、エリカもしたいもん!」
「ど、どういうことだ?」
「へ?」
「エリカもダーリンとそれをしたい! ダーリンの足元で――」
「いやいやまてまて」
手をつきだしてエリカの目の前にかざして、このままだととんでもない事を口走りそうな彼女を一旦とめた。
頭痛がしてきそうなのを感じながら、おそるおそるエリカに聞く。
「な、なにかと勘違いしてるんじゃないのか?」
「え? ノリでしたんだよね」
「まあ、そうかもしれないってことで……」
「だったらダーリンとのプレイじゃない!」
「……へっ?」
「ダーリンとはプレイだったらエリカもしたい! エリカが一番ダーリンの指をうまくしゃぶれるんだから!」
「いやいや待て待て」
俺はまた手をかざして、またまたエリカを止めた。
話がとんでもない方向に行きだしたぞ。
「やだやだやだ、したいしたいしたい! エリカもダーリンにめちゃくちゃいじめられたい!」
「だだっこか!」
いよいよ本気で頭痛がしてきた。
「とにかくそういうのはなし。プレイなんてしてないから」
「うぅ……本当に?」
「本当だ」
俺はきっぱりと言い切った。
面倒臭いけど、エリカを真っ正面から見つめて、目線の強さで訴えかけた。
数秒間、エリカと真っ向から見つめ合った後。
「ぽっ……」
エリカは頬を染めて、視線を逸らして、うつむいてもじもじしだした。
「ダーリンのまっすぐな目……エリカ感じちゃう……」
「……」
もうどないせっちゅーねん、とがっくりきた。
とりあえずカオリの話はうまく誤魔化せたみたいだけど、その分どっと疲れたのだった。
「面白い!」
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