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161.タピオカの封印

.161

 あくる日、俺はピンドスの街中をぶらついて回った。


 相変わらず街には活気があふれていて、ただ歩いてるだけでも結構楽しい。


「おっ?」


 ふと、前方に長い行列が見えた。

 目算だけでも50人近くは並んでいる。


 しかも並んでいるのは9割方若い女の子だ。

 何で並んでいるのかが気になった。


 俺は行列をスルーして、先頭にある店の方に向かった。


「これはなんの店だ?」

「あっ、領主様」


 店の店主が俺に気づいて、手を止めてこっちを向いた。


「手を止めなくても大丈夫だ。それよりもこれはなんだ? 大人気じゃないか」


 いいながら、ちらっと長い行列を見た。

 すると、店主が「儲かりすぎて困る」的な、困ったような笑顔を浮かべながら答えてくれた。


「領主様ご存じない? 最近流行りのタピオカですよ」

「たぴおか?」

「はい! 古代遺跡から見つけたレシピでね、前のどら焼き以来の大ヒットになったんですよ」

「へえ」


 ちょっと興味をもった。

 どら焼きは、俺が領主になったばっかりの頃に流行った物だ。


 あれもそういえば、古代遺跡から発見されたレシピで作られたものだったな。

 どら焼きはかなりうまかった。

 アレと同じ流れなら……この「たぴおか」とやらも興味がそそるな。


「並ぶか……フルはどうだ?」


 俺はそう言って、列の最後尾の方に並び直すように移動しつつ、これまでずっと、無言で後ろについてきていたフルに聞いた。


 街中をぶらついてる間も、フルはずっと、無言で後ろについてきてた。


「どう、とは?」


 今も列の最後尾に移動する俺についてきながら、まったく変わらない表情で小首を傾げていた。


「フルも食べるか?」

「私は食物を摂取する必要がありません、マスター」

「でも出来るんだろ?」


 そう言いながら、ちらっと店の方、そして並んでる女の子達をみた。

 みんなワクワクしているような、楽しんでいる様な表情をしている。


 たぴおかとやらがどういう物なのかはまだ分からないが、この様子を見るに女の子好みのデザートの一種だろう。

 だからフルにも聞いてみた。


「必要ありません、マスター」

「うーん、そか」


 フルがそういうのなら、と俺は引き下がった。

 本人がいいって言う以上、無理してまですすめる必要はない。


 そのままついてくるフルを引き連れて最後尾に回った――その時。


「あっ……」

「ソフィア……」

「――っ!」


 俺の顔を見たソフィアは血相をかえて、逃げ出そうとした。

 とっさにソフィアの手をつかんだ。


「は、離して!」

「いや、並ぶつもりだったんだろ」

「そ、それは……」

「並ぼうぜ、なっ」

「うぅ……」


 ソフィアは呻きつつ、恨めしい目で俺を見つめてきた。

 彼女はしばらくま迷ったそぶりを見せた。


 周りにいる、他の並ぶ客に訝しげな目でみられたソフィアは、やがて観念したかのようにため息をついた。


「分かったわよ……」


 そういって列に並ぶそぶりを見せた。

 だから俺は手を離して、一緒になって並んだ。

 ちなみにフルは同じようにすぐに後ろについてきて、同じように列に並ぶ形になった。


 列に並んで、少しずつすすめていく。

 同じように列に並んでいるまわりの女の子達がキャイキャイしているのを眺めつつ、ソフィアに話しかける。


「こういうのが好きだったんだな」

「え?」


 それまでうつむき加減だったソフィアが顔をあげた。

 驚いた表情だ、「何を聞いてんの?」と言わんばかりの顔だ。


 俺はちらっと行列の方をみた、ソフィアも俺の視線を追いかけて列を見た。

 たくさんの女の子がキャイキャイしているのを見て、ソフィアはハッとした。


 すると、驚いた表情がみるみるうちに変わっていき、恥ずかしいのか真っ赤になった。


「ち、ちがうわ! そんなんじゃないわよ!」

「ちがう?」

「そうよ! これは――その、そう、研究よ」

「研究?」


 俺は首を傾げた。

 列がまた一つ進んで、ソフィア(とフル)と一緒に一歩前に進んだ。


「そうよ。古代遺跡の研究なのよ」

「どういうことだ?」

「ちょっと前から流行ってた物、どら焼きとかブルマとか、これら全部、古代遺跡から発見された物よ」

「ああ、どれもちょっと聞いたことはあるな」

「不思議な物なのよ、どれも。普通、古代遺跡から発掘されたもの、って聞いたら、ヘルメスはどんなのを想像する?」

「そりゃ……」


 俺は少し考えてから、答えた。


「失われた魔法とか、伝説の武器とか、かな」

「そうよ、そういう物ばかりなんだけど、最近の物はちがう。どら焼きは乱暴にいっちゃうと小麦粉とあんこだし、ブルマもただの布」

「……ふむ」

「このタピオカもそうなのよ。原材料は身近にある、その作り方だけがなぜか誰もたどりつかない。まるで――」

「まるで?」

「――全世界に封印でもかかっているかのように」

「……」


 俺は眉をひそめた。

 ソフィアの言うことはちょっとだけ突飛だけど、なんか、「わからなくもない」ものだった。

 特にソフィアは昔から勉強家で、デスピナの序列一位になるために魔術を中心に猛勉強してきた。


 その知識からの判断だと思えば、一概にあり得ないと却下出来る物でもない。


 ――ちょっと前までなら。


 今の俺は、ちょっと前までの俺と違う。

 フルを手にしたことで、普通は斬れないものが目に見えるようになった。


 少し目を凝らして、ソフィアを見る。

 彼女の「感情」が、逸るワクワク感を抑えるもの――そんな物に見えた。


 それが見えてしまったから、ソフィアのいうことがその場凌ぎの言い訳だと分かった。


 微笑ましく感じた。

 流行りのタピオカに並ぶ所を俺に見られて恥ずかしくなって、それっぽい話をでっち上げて煙に巻こうとする。

 それをやったソフィアを微笑ましく感じ、可愛らしいと感じた。


 俺はソフィアに話を合わせて、そのまま列に並んだ。

 50人くらいの列は30分くらいでスムーズにさばかれて、俺達の番になった。

 さっきの店の前までもどってきて、店主と向き合う。


「えっと、よく分からないけど三人分? たのむ」

「はい! ちょっとまってくださいね」


 店主はテキパキとタピオカを用意してくれた。

 使い捨ての小さなカップの中にタピオカを一人前もって、その上に蜂蜜をかける。


 タピオカの上にかかった蜂蜜がどろりと糸を引き、日差しを反射してきらきらした。

 なるほど見た目はいい、さて味は?


 そう思い、俺は二人分のカップを受け取って、片方をソフィアに手渡す。

 そしてもう一つをフルに――となったところに。


「むっ」


 カップがまた糸を引いていた。

 蜂蜜のかけ方が雑だなあ、と思いながら、指でそれをぐるんとからめて、引きちぎった。


 瞬間。


 ――ぷっつん!!


 まるで空の上で雷鳴が轟いたかのような、何かが切れた音が辺り一帯にこだました。


「な、なんだ?」


 俺はびっくりした。

 蜂蜜が引いてた糸をとっただけなのに、なんだこの音は。


「さすがです、マスター」

「え? なにが?」


 フルの方を向く。

 彼女はいつもの乏しい表情に、称賛と感嘆の色を上乗せしていた。


「その物にかかっていた封印がとかれました」

「封印? とかれた? なんのこと――」

「あああ!!」


 不思議がっていると、背後から店主の大声が聞こえた。


「ど、どうしたんだ?」

「ちょっと待ってください! 皆さんちょっと待ってください!!」


 店主はまだまだ多くいる、並んでいる人達に向かってそう言って、店を放りだして、どこかへ走って行った。


 何事かと、並ぶ客達がざわつく中、ものの一分で店主が戻ってきた。

 手押し車に、たるを乗せて戻ってきた。


「なんだそれは」

「丁度よかった領主様! いま思いついたんですけど、味見してください!」


 店主はそう言って、たるの中身をコップに注いだ。

 そしてそこにタピオカを投入して、コップごと俺にさしだした。

 同じのを作って、ソフィアにも渡す。


「これは……ミルクティ?」


 匂いを嗅いでみた、覚えのある匂いだった。

 店主は急遽ミルクティを用意して、そこにタピオカを入れた。


 ……なんで?

 と、疑問に思う間もなく。


「おいしい!」


 俺の横で、タピオカミルクティを一口飲んだソフィアが驚嘆していた。


 それを皮切りに、店主は蜂蜜掛けではなく、タピオカミルクティーを売り出した。

 並んでいた若い女の子達も、何の疑問もなく――それどころかさっき以上の熱気でタピオカミルクティーを買い求めた。


「これは……一体……」

「マスターがそれを縛る封印を断ち切ったおかげかと」

「フル!? え? 封印って……あれのこと? ってか本当にあったのか?」

「はい、さすがです、マスター」


 俺は絶句した。

 気づかない内にうっかりして、数百年前に大人気だったが何故か忘れ去られていた、タピオカミルクティーを復活させてしまったようだった。

「面白い!」

「続きが気になる!」

「更新頑張れ!」



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何卒よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] タピオカミルクティーブーム…不況の予兆なんだよなぁ… 今回の某ウイルス不況といい、前回のリーマンショックといい…
[気になる点] キャッサバなんて身近にあるの?
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