147.お肌の触れあい回線
オルティアを娼館に送り届けてから、俺はフルを屋敷に連れて帰ってきた。
馬車から降りた俺達を出迎えてくれたのは、メイド達を引き連れた姉さんだった。
出迎えにメイドが来るのは当たり前だが、姉さんまで出てくるのは予想外だった。
「お帰りなさいヘルメス――あら? お客さん?」
「違うんだ姉さん、こいつは……」
フルをちらっと見た。彼女は相変わらず無表情だった。
さてどう説明したのいいのか、って迷っていると。
「初めまして、マスターの姉君とお見受けします」
「ええ、そうですよ。あなたは?」
「私はマスターの物になりました、フル・スレイヤーといいます」
「……あらあら」
姉さんは小さく驚き、手を口に当てて俺とフルを交互に見てきた。
「そうなのですかヘルメス」
「ち、ちがう。違うぞ姉さん!」
姉さんの顔で、何を誤解しているのかありありと分かった。
「彼女は剣、剣なんだ」
「もう、ヘルメスってば。そんな訳の分からない言い訳をしなくてもいいのですよ。貴族、しかも伯爵家の当主なのですから、側室の十人や二十人くらいは」
「多すぎる! そんなに持つつもりはないから」
「持たないのですか!?」
「なんでそこで驚くんだよ姉さんは! 本当に違うから、剣だから」
「えー……」
姉さんはうさんくさそうな物を見るような目で俺を見て、フルをみた。
「こんなに可愛らしい女の子なのに?」
「ああもう、分かった証拠見せるから。フル、剣になれるよな」
「はい、もちろん」
「だったらなってくれ――」
「わかりました。その前に説明しますが、私がマスター持ちとなったので、剣の姿に一度なると、何かを最低一人あるいは一体斬殺しないと再び人型には戻れませんので。では――」
「待て待て待て! そんなの聞いてないぞ!」
俺は慌ててフルを止めた。
なんだよ斬らないと人の姿に戻れないって。
「はい、今言いました」
「いやそうなんだけど! なんでそうなってんのさ」
「分かりません。ただ、私達のルーツは魔剣ですので、その辺りに原因はあるのではないか、と推測します」
「はた迷惑だな!」
俺は盛大に突っ込んだ。
魔剣由来だ、っていわれればいやだけど納得するしかなかった。
「では――」
「いやいいから。今は誰も斬らないから」
「いいのですか?」
「ああ」
俺ははっきりと頷いた。
誰かを斬らないといけないなんて、そんな事をしたらものすごくやっかいなことになる。
「というわけで姉さん、悪いが信じてくれ……」
「……そうですね、わかりました」
「信じてくれるのか」
「ええ、今、ヘルメスが何かを面倒臭がった事がわかりましたから」
「それで納得されるのもどうかと思うけど……」
まあいい、それで信じてもらえたんならこれ以上言うことはない。
☆
フルを連れて、屋敷の中に入った。
まずは寝室に入ると、フルはぴったりくっついてきた。
「あー、ちょっと待ってくれ。今メイドを呼んでお前の部屋を作らせるから」
「その前に、マスターにお願いしたいことがあるのですか」
「ん? なんだ」
「マスターの力をいただきたいのです。このままだと、私は力を失って干からびます」
「そういえばそんなことを言ってたな。チャージって何をすればいいんだ?」
そう言いかけて、俺はハッとした。
「まさか、エッチなこととかじゃないよな」
「いいえ、一族の初期、試作型はそうじゃないとできませんでしたが、それでは面倒な上、人の目もあるからチャージが難しく、正式量産型からは普通にふれあうだけでよくなりました」
「そ、そうか……」
俺はホッとした。
セックスとかじゃないとチャージできない、って言われたら困り果てるところだ。
「じゃあどうすればいいんだ」
「最終型の私は、マスターとふれあえばチャージされます。着衣越しでも大丈夫です。ただし密着度がたかければ高いほどいいので、おんぶかだっこをオススメします」
「なるほど……」
おんぶか抱っこか。
まあそれくらいなら。
「では」
どっちがいいのかって考えている内に、フルが動いた。
彼女は小声でつぶやいた後、手を合わせて祈るようなポーズをした。
直後、フルの姿がみるみるうちに縮んでいった。
ただでさえ幼いのが、更に幼い姿になった。
着ていた服が若干だがぶかぶかになって、それがなんだか可愛らしかった。
「そんなこともできるのか。でもなんでだ?」
「チャージするときは、小さくなった方が消耗を抑えられて、効率的なのです」
「へえ、そうなのか」
その話を聞いてちょっぴり感心した。
同時に、フルをみた。
可愛らしい女の子になってる彼女をみて。
「抱っこでいいのか?」
「はい」
「わかった、じゃあ――」
俺はそう言って、ベッドの上に腰掛けた。
「いいぞ」
許可を出すと、フルが近づいてきた。
俺によじ登って、膝の上にちょこんと座って、そこで丸まった。
まるで小型犬のように、俺の膝の上にすっぽりと収まった。
「なるほど」
体の中から、力がフルに向かって流れていくのを感じた。
といっても大したものじゃなくて、一晩流し続けてもフルパワーの1%あるかないかっていうか細い物だ。
これならやらせておいても問題ないかな、と思った。
「すぅ……」
「フル? 寝てしまったのか」
いつの間にか、丸まったまま寝息を立てはじめたフル。
そういうものなんだろうか。
小さくなったのはエネルギー消費を抑えるっていってたし、寝てしまうのもやっぱりエネルギー消費を押さえる物なのかもしれないな。
というか――。
「ふぁ……」
膝の上で寝ているフルの寝息に釣られて、俺も眠くなってきた。
両手を突き上げて、あくびをする。
意識すると、眠気が一気に襲ってきた。
「俺も寝るか……」
そうつぶやいて、おれはゆっくりと後ろに倒れて、目を閉じて意識を手放した。
☆
どれくらい寝ていたのか。
うっすらとまぶたを開けると、窓の外に夕焼けが見えた。
一時間かそこらかな。
まだちょっと眠いし、もうちょっと寝とくか――。
「ヘルメス? ここにいますか――あら」
「ねえさん……」
俺は寝ぼけたまま、目を開けてドアの方をむいた。
ドアを開けてはいってきた姉さんは、何故か驚いたのと嬉しそうなの、両方がない交ぜになった表情をしていた。
「あらあら、お邪魔でしたね。ではごゆっくり――」
「んあ? どういういみだねえさん」
聞き返すも、姉さんはニヤニヤしたまま後ろ歩きで部屋から出て行って、ドアを静かに閉じた。
一体何だ? っておもって、フルを見た瞬間。
「んな――!」
瞬間、眠気が跡形もなく吹っ飛んでしまった。
ベッドに寝そべっている俺。
その上に乗っかって寝息を立てているフル。
そこまでは眠りに落ちる直前のままだが、フルの姿がまるで違っていた。
彼女は大きくなった。
子供から年頃の、成長しきった大人の姿になった。
ボン、キュッ、ボン!
な感じのいいスタイルになった。
そして、大人になったせいで、着ていた服がはち切れて、あっちこっちが破けてしまっていた。
服が破けて、あられもない姿になっていた。
「あっ、そうそうヘルメス」
ドアが再びあいて、姉さんが顔だけにょきっと出してきた。
「ふえ?」
「ちゃんと部屋に防音魔法をかけておきますから、遠慮とかまったくいらないですよ」
そう言って、姉さんはウィンクを残して、ドアを閉じて今度こそ出て行った。
ドアの音がしなかった、ドアと壁を境に防音魔法をかけられたのがそれで分かる。
「違うんだ姉さん! そうじゃないんだ!」
俺は絶叫したが、声は当然届かず。
「すぅ……」
寝息とともにチャージ中のフルを起こすこともできなくて、俺は、弁解のチャンスを逃してしまうのだった。
「面白い!」
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