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145.あなたを私のマスターです

 俺はオルティアを連れて、馬車の中に引っ込んだ。


 馬車の中にいても分かる、外はいきなりの事で慌ただしくなってる。


「どうするのヘルメスちゃん」

「逃げるぞ、まだ気づかれてない内に――」

「失礼、馬車の中のお方にお目通りをお願いしたいのですか」

「――あう」


 俺はがっくりきた。


「もうみつかっちゃったね」

「そうみたいだ……」


 どうやら逃げられそうにないようだ。


 俺は観念して、馬車の窓を開けた。


 すると、冒険者っぽい一団がいて、それらは馬車の前に綺麗に整列して、こっちをまっすぐむいていた。


「な、なに?」

「失礼ですが、高名な結界師の方とお見受けしたのですが。お名前を頂戴してもよろしいでしょうか」

「な、名乗るほどのものじゃない」

「おー、初めて聞いた。名乗るほどのものじゃない」


 オルティアは俺の後ろで感心していた。

 というか、彼女はもはや楽しそうに、なんかの観戦モードっぽい空気を出していた。


 くそ! もう俺が逃げ切れないとみて高見の見物を決め込んでるな。


 ……いや、そうなんだろうな。

 俺もオルティアの立場だったらそうなってるはずだ。

 もう逃げられないと、俺は観念して馬車を降りた。


「……結界は破れたのか?」


 と聞くと、正面に立っている大人しそうな男が静かに頷いた。


「はい、さきほど結界の消失を確認いたしました」

「やっぱりそうか」

「後学のために、どうやって破ったのかお聞かせ願えますでしょうか」

「……」


 俺は口を閉ざした。


 あの時の事を思い出す。


 黒い波紋が体にまとわりついてきたとき、体の中にある力と共鳴した。

 それは、少し前に手に入れたばかりの力。

 初代が残した七つ星のコインで、あのコインから出てきた少女が授けてくれた力だ。

 まあまだ未知数なところが多いちから、へたに何も言わない方がいいな。


「家に代々伝わる力だ、それ以上は言えない」


 少し考えた結果、そう言った。

 すると男は小さく頷いて、「そうですか」といって引き下がった。


 代々伝わる門外不出の技、一子相伝の奥義。

 というのはどこの業界にも存在する物で、そういうと大抵の人間は空気を読んで引き下がってくれる。


 実際、相手はそれで引き下がってくれた。


「話がそれだけだったら――」

「我々のリーダーが是非お会いしたいと申しております」


 むむ、そう来たか。


「少しのあいだ、ご足労願えませんでしょうか」

「うーん」


 俺は少し考えた。


 行くべきか、行かざるべきか。

 行ってしまうと何かが起きそうな悪い予感もするけど、かといって断ってしまって、自分の手の届かない所で何かを起こされてもそれはそれで嫌だ。


 どっちがよりましなのか――で考えていると。


「もちろん、お連れの方もご一緒に」

「え? ああ」


 俺が考えて込んでいる理由を、オルティアを連れていけるかどうか、って誤解してくれたみたいだ。

 そんなのは考えてもなかった。

 どのみち、オルティアはここまで連れてきたんだから、どんな形だろうと絶対に安全は守れるようにはするつもりでいる。


 が、これは渡りに船だ。


 どのみち、どっちでも(、、、、、)なんか悪い予感がする。

 どれを選んだ所で大して差は無いだろうから、話に乗っかって、オルティアにきめてもらうことにした。


「どうする、ついてくる(、、、、、)か?」

「うん! ヘルメスちゃんの行くところならどこまでも」

「そうか――じゃあ案内頼む」

「はい。こちらへどうぞ」


 男はそう言って、手を差し出して、少し横にずらして道を空けた。

 俺が示された方に向かってオルティアを連れて歩き出すと、男は一歩下がった状態でついてきた。


 そのまま、テントの中でも一番豪華なテントに案内されてきた。


 外からでも立派だが、中に入っても相当に立派だった。


 大がかりな、部屋がおそらく二つか三つはあって、更にリビングのあるタイプのテントだった。


 そのテントに入った。

 連れてきた男達は外で待った。


 テントの中には俺とオルティアだけが入った。

 リビングの部分は会議室っぽい作りになっていて、テーブルの向こうに一人の大男が座っていた。

 広いテントの中、俺とオルティアとその男の三人だけだった。


「ロドトス様、お客さまをご案内しました」

「おう! あんたか、結界をぶち破ってくれたのは」


 男は立ち上がって、こっちに向かってきた。


 ずんずんと大股で向かってくる男。

 目の前までやってくると、完全に俺を見下ろした格好になった。


 手を伸ばして、俺の手をつかんで上下にぶんぶんふった。


「俺はシビック=ロドトス十三世。シビックでもロドトスでもいいぞ」

「あー、えっと、ヘルメスだ」

「ヘルメスか、いい名前だな」


 ロドトスは豪快に笑いながら、握手をやめてパンパンと俺の肩を叩いた。

 無遠慮の馬鹿力で、ちょっと背中が痛い。


 そして、じっと俺を見つめる。


「なあ、どうやったんだ? 教えてくれよ」

「いや、家に代々伝わる力だから」

「代々の力か、いいなそれは。俺なんか名前を受け継いだはいいけど力とか金とか、そういうのはまったく残してもらえなかったんだよな」

「はあ」

「まあ、男はそんなもんなくてもどうとでもなるがな」


 ロドトスはそう言いながら、天を仰いで豪快に笑った。

 がさつだが、悪い男ではなさそうな。


「そうかそうか、家の力か。じゃあ結界がどういう物なのかも聞けないんだな?」

「まあ、な」


 俺は曖昧に頷いた。


 物事には大抵原因と理由がセットになってる。

 それは原因から理由でも、逆に理由から原因でも、双方向に推測ができるものだ。


 やった方法は聞けないのなら、結界の謎についても聞けないのは当たり前のことだ。


 ちょっと評価を修正。

 がさつだが、無神経って程でもなさそうだ。


「なら、これだけは聞かせてくれ。あの結界はこの先復活すると思うか?」


 ロドトスはそう言って、真剣な目で俺をまっすぐ見つめてきた。

 当然の質問だな。

 ここにいる人間のどうやらリーダーで、色々と預かっている以上聞かなきゃならない質問だ。


 遺跡のために集まって来た人間は、テントの数とかここに来るまでの間にすれ違った数を見る、全部で2-300人くらいはいる。

 それだけの人数に関わること、さすがにそれまでごまかすのは悪いな。


 俺は少し考えた。

 波紋が俺にまとわりついて、結界が破れた瞬間の感覚を思い出しつつ、推測する。


「……推測になるけど」

「おう、世の中のことは大抵がそんなもんだ」

「短期間で復活するようなものじゃない。月単位だとわからないけど」

「あはははは!」


 ロドトスはまた豪快に笑って、俺の肩をパンパン叩いた。


「それだけ分かりゃ十分だ。ありがとうよ伯爵さん」

「ああ、じゃあ俺らはここで――伯爵?」


 身を翻しかけた俺は、その場でとまった。

 恐る恐るって目でロドトスを見る。


「なんだ? お忍びだったのか? ああそのべっぴんさんを連れてるしそうなのか」

「えっと……俺の事を――?」

「おう。ピンドスの伯爵さんだろ? 有名人だからすぐに分かったぜ」

「わあ」


 後ろでオルティアが何故か嬉しそうな声を出して、ちらっとみたらわくわくっぽい表情をしていた。


「えっと、俺だって分かったのは――」

「あははは、安心しろ誰にも言ってねえ。念の為に誰にも入るなっていってある」

「ああ、それは助かる――」

「会えてうれしいぜ伯爵さん。噂以上にできる男っぽいし、これからもよろしく頼むぜ」


 ロドトスはまたパンパンと、肩を叩く。

 どうやら、知らず知らずのうちに気に入られてしまったみたいだ。


     ☆


 テントを出て、俺はオルティアを連れて馬車に戻った。


「気に入られたみたいだね」

「そうみたいだ……はあ……」


 俺はがっくり肩を落として、トボトボと歩いた。


「元気ないね」

「そりゃそうだ。あの手の男はやっかいなんだよ。絶対何かに巻き込まれる」

「そういうものなの?」

「そういうものなの……」


 がっくりしたまま、今後どうしようかな、と思いながら馬車まで戻ってきた。

 御者は俺達が出かけた時と変わらない格好で、御者台に座っている。


 それをスルーして、俺達は馬車に入った。


 馬車の中にもどってくると、ちょっとだけ落ち着いた。

 落ち着いたからか、それとも馬車という室内に入ったからか、鼻が急にムズムズしだした。


「はっ……はふっ……」

「あっ、ちょっと待ってて」


 俺がくしゃみしそうになってるのをみて、オルティアは鼻をかむ紙を取りに奥にむかった。


「――ハクシュッ!」


 それは間に合わず、くしゃみが先に出た。


 くしゃみが出た。


 ただのくしゃみじゃなかった。


 くしゃみが出る直前、体の中に二つの力が混ざり合った。

 一つは、七つコイン由来の新しい力。

 もうひとつは、その新しい力に反応してはじけ飛んだ結界の力。

 結界の力の一部がどうやら体の中に残っていたみたいで、俺の元々の力と反応した。


 それがくしゃみと一緒に出た。


 気づいて止めようとしたが、さすがにくしゃみを止める(、、、、、、、、)ことはできなかった。

 くしゃみを止めることは大暴れする魔王を止めるより難しい――のは言い訳にしかならないけど、とにかくできなかった。


「はい、ヘルメスちゃん」


 オルティアが紙を持ってきた。

 差し出された紙を、俺は受け取らなかった。


「どうしたのヘルメスちゃん」

「あれ」

「あれって……あれ?」


 俺が差した場所を見たオルティアが声を上げた。


 くしゃみが飛んだ(、、、)あたりの床に、なんと一振りの剣が落ちていたのだ。


 大振りの、肉厚の両刃剣だ。


「こんなのあったっけ」

「……」


 俺は警戒した。

 そしてものすごい悪い予感がした。


 オルティアは分かっていないが、俺には分かってる。

 あれは――くしゃみから出てきたものだ。


「そういえば」

「え?」

「神話の中に、目とか鼻とか洗ったら子供が生まれたってのがあったっけな」

「何いってるのヘルメスちゃん」

「ごめん、ちょっと現実逃避だ」


 間違いなくヤバいものだって分かるから、現実逃避してしまった。


「オルティアは俺の後ろに隠れてて」

「え? なんか危なかったりするの?」

「わからない、念の為の用心だ」

「そか、わかった」


 オルティアは素直に、言われた通りに俺の背後に隠れた。

 別に前にいても絶対に守り切るつもりでいるが、念の為だ。


 俺はオルティアを背中に隠して、何があっても彼女だけは守れるように警戒しながら、近づいていって、しゃがんで剣をとった。


 すると――まばゆい光が溢れ出した。


「きゃっ! な、なにこれ」

「動くなオルティア!」

「う、うん!」


 俺は剣から手を離した。

 そしてオルティアをかばった。

 彼女をかばいつつ、全方位に魔法障壁を張った。


 何が来ても対処できるように身構えたが、予想に反して何も来なかった。


 しばらくして、光が収まった。


 目をゆっくりと開けると――。


「え?」


 俺は目を疑った。

 剣がなくなって、剣がある場所に一人の女の子が立っていた。


 幼女よりも少し大きく、少女には少し届かない。

 第二次成長まっただ中――位の女の子。


 女の子は目を瞬かせて、周りを見てから、俺を見つめ。


「マスター?」


 女の子はそう言った。

 俺に向かって「マスター」って呼んだ。


 俺の「厄介事センサー」が全力で警告の声をならしてきたのだった。

「面白い!」

「続きが気になる!」

「更新頑張れ!」



とか思いましたら

下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。

面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、素直に感じた気持ちでまったく構いません!

何卒よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 20年前のネタだからなぁ・・・ 分からない人はマジレスするよね
[気になる点] サブタイトル145.あなたを私のマスターです あなたはとすることを提案します
[一言] 最近の若い方は、あなたを犯人ですとか知らないのでは!
感想一覧
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