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143.成長してもうっかりは止められない

「――っ!!」


 草木も眠る丑三つ時。

 ベッドの上で熟睡していた俺は、パッと起き上がった。


 熟睡していてもなお感じる、圧倒的なやばい気配。


 ベッドから飛び降りて、周りをみまわす。

 もちろん部屋の中を見て回る訳じゃない。


 四方八方を見て回る事で、意識を全方位に拡散させているのだ。

 そうして気配を探った。


「そこか!」


 ふと、窓の外にエネルギーの高まりを感じた。

 壁に掛けかけていた初代の剣をひったくるように取って、窓から飛び出した。


 空間が歪んでいた。

 裂け目ができていて、バチバチと雷の様な高エネルギーを帯びている。


 みたことのないエネルギーだった。

 高濃度、高純度の純粋なエネルギー。


 気の弱い人間があてられただけで気を失いかねないほどのエネルギー。


 空間の裂け目が徐々に大きくなっていく。

 直感的に、何かが出てくるのを察した。


「なんなのかわからないが」


 これほどの大がかりな事をして出てくるようなの、見過ごす訳にはいかない。

 俺は目を閉じ、呪文を詠唱して魔力を空間の裂け目にぶつけた。

 強力なエネルギーに、同等のエネルギーをぶつけることによって、空間の裂け目を「塗りつぶして」行く。


「……ふぅ」


 早期の発見が功を奏したからか、空間の裂け目が開ききる前に閉じることができたのだった。


     ☆


 次の日の執務室。

 俺は上の空でミミスの報告を聞いていた。


 普段から上の空だけど、今日は一段と上の空だった。


 その原因は、昨夜の出来事。

 あれをずっと考えていた。


 とっさに対応ができて事なきを得たし、今の所誰にもバレてないが、あれはただ事じゃない。

 何事もなかったラッキー……で安心できるような代物じゃない。


 本腰を入れて調べた方がいいな。


「――ま」

「……」

「ご当主様」

「え? ああ、なんだ?」

「やはり聞いておられませんでしたか。……ごほん。これで三つ目です、被害の出た村は」

「被害の出た村?」

「例の集団神隠しでございます」

「……ああ」


 俺は小さく頷いた。


 先月くらいからぼつぼつと報告に上がってきてたやつか。


 領内の小さな村で、集団の神隠しが起きている出来事。

 家屋とか畑とかはまったく無事なのに、そこに住む人々だけが忽然と消えたのだ。


「三つ目なのか」

「さようございます。如何なさいますか?」

「……緊急度をあげて調べさせろ。なにか分かったらすぐに報告しろ」

「承知致しました」


 ミミスはそう言って、今日はここまで、と一言いってから頭を下げて、他の家臣をつれて退出した。


 村単位の神隠しか。

 そっちはそっちで気になるけど、先月からの事だから昨日のとは別件かな。


 まあ同じな訳がない。

 昨日のあれが、屋敷内じゃなくて領内のどこで起きてても俺はきっと気づく。

 それくらいヤバいエネルギーだった。


 だからタイミング的に考えても別件だと判断した。


「昨夜の現場にいって手がかりを探すか――」


 そう思って、当主の椅子から立ち上がった直後。


「――っ!」


 また来た。

 昨夜のあのエネルギーと同じものが来た。


 今度は目の前だ。

 目の前で空間の裂け目ができて、高エネルギーが放出された。


 まだなにも分からないけどとりあえず防ぐ。

 そう思って、裂け目に近づいて、昨夜と同じように力で穴を塞ぐ。


 すると――。


「なにっ!」


 今度は背後にも空間の裂け目が現われた。


 前に気を取られて、力をもってかれてる隙に背後から同じなのが現われた。

 それの対処に間に合わないでいると――人が出てきた。


 空間の裂け目が一気に開ききって、一人の青年が出てきた。


「ふぅ……やっと来れた」

「お、お前は……」

「まったく、手こずらせるんじゃない!」


 青年は俺につかつかと近づき、ポカッ、と頭を殴ってきた。


 避けられなかった。

 まるで振るう前から当たるのが運命付けられているげんこつに感じるほど、避けられなくて頭にくらった。


 こいつできる――と思ったのと。


「単刀直入にいう。俺は十年後から来たお前だ」


 こいつ、俺に似ているぞって思ったえええええええ!?


「な、何言ってるんだお前は」

「だから十年後のお前。時間移動で来たんだ」

「時間移動だって? そんなことできるわけが」

「信じないって言うのならお前がオルティアと未だに『何もしてない』本当の理由を街中で言いふらしてくるけどいいか」

「わー、わーわーわーわー!!!」


 俺は大声を出してわめいた。

 オルティアとの事。

 それは俺とオルティアしか知らないこと。


 オルティアはああいう性格だけど、他の誰かに言うはずがない。

 それは間違いない、ぜったいだ。


「本当に俺なのか……?」

「ああ」

「……」


 俺は目の前の青年をまじまじと見た。

 確かに、俺とよく似ていた。

 俺が十年後こういう姿になるんだ、って妙に納得した。


 それだけじゃなく、あふれている力も、俺の力と同じものだった。


「……どうやら本当の事みたいだな」

「自分のことなんだからすぐに分かれ」

「そんなこと言われても時間移動してくるなんて信じられる訳ないだろ?」

「嘘つけ、ソフィアと再会したちょい後だろ? だったらもうある程度時間移動の原理が分かってるころだ」

「むむむ」


 それもその通りだ。

 ソフィアとは直接関係ないが、「この頃」の俺は時空間の移動にある程度の目星をつけている。

 面倒臭いからやって無くて、完成させてないだけ。


「それは分かった。それより何のために――」

「ヘルメス、どこにいるのですか――あら」


 ドアが開いて、姉さんが現われた。


 姉さんは部屋に入って、俺と未来の俺を見て、驚く。


「お客さんが来ていたのですか」

「え? あ、ああ。えっとこいつは――」


 未来の自分をちらっと見る。

 どう紹介していいのか迷った。


 俺がそれを迷っていると、姉さんは未来の俺をまじまじと見て。


「……格好いい」


 と、言葉があふれ出すような感じでつぶやいた。


「姉さん?」

「はっ。な、何でも無いです。すみません、私ちょっと急用を思い出しました」


 姉さんはそういって、赤くなった顔を押さえて慌てて逃げ出した。


「どうしたんだ一体」

「……ほっとこう、今はそれどころじゃない」


 未来の俺はそう言った。

 姉さんの反応の理由は分からないけど、未来の俺の「それどころじゃない」っていうのは聞き捨てならない言葉だった。


「で、お前は何のためにわざわざ(、、、、)来たんだ?」

「十年後、ロキータという魔物が現われる」

「ロキータ……」

「そいつはあっという間に地上を席巻して、わずか三日で人類の一割を殺した」

「なっ――」


 驚愕する俺、だがもっと驚愕するものがその先にあった。


「そいつを俺が倒した」

「倒した?」

「しょうがないだろ。三日で人類の一割を殺したんだから、放っておく訳には行かないし、方法を探ってる余裕もない」

「そりゃ……まあ……」


 確かにそうだ。


 三日でそれだけの被害を出してしまうような魔物だったら、速攻で倒してしまわなきゃならない


「そいつを倒したせいで、俺は――途中経過は全部すっ飛ばすけど、『英雄王』ってのにさせられて、一番高い位置に祭り上げられてしまった」

「おっふぅ……」


 英雄王とか……そんなの世界一面倒臭いポジションじゃん。


「さすがに大事過ぎて、ごまかしも辞退もなにもできなかった」

「そりゃ……そうなのか……」


 そうかもしれないなあ……。


 文字通りの救世の英雄だろうからなあ、その話だと。


「さすがにそこまで行くともう面倒臭すぎて、全力で辞退したいんだけど、ロキータを倒した功績が大きすぎてどうしようもない」

「どうしようもなかったのか……」

「そこで俺は考えた」

「うん?」

「過去に戻って、ヤバくなる前のタイミングでロキータを倒してしまえばいい、ってな」

「……ああっ」


 俺はポン、とてを叩いた。

 なるほどそういうことか。


「過去のロキータを倒してしまえば、未来のロキータは消えるってことか」

「そうかもしれない、そうじゃないかも知れない」

「まあ……そうだな」


 時間移動に関しては、俺も(たぶん未来の俺も)色々と古文書を読んで知っているが、かなり複雑なものだ。


 考え方は大きく分けて二つ。

 過去と未来は一本線なのと、過去と未来は木の枝の様に分岐しているものだ。


 一本線の説だと、過去にもどってその過去を変えれば未来も変わる。

 一本線で繋がっているから。


 木の枝の様だと、かえても未来は変わらない。

 途中で木の枝の様に分岐して、未来はいくつもあって、変えた場合と変えなかった場合の、枝の分岐になるって説だ。


 どっちなのか分からない。


「が、もうその方法しかないんだ」


 未来の俺はげんなりした様子で言い放った。

 よっぽど……英雄王として面倒臭い日々を過ごしてきたんだろうな。


 ぞっとした。

 俺はぞっとした。

 俺はめちゃくちゃぞっとしてしまった。


 英雄王なんて、冗談じゃない。

 未来の俺には悪いが、未来が変わっても変わらなくても、今の俺だけはなんとしても変えてみせる。


「ってことは、このタイミングまで時間移動してきたって事は、ロキータがこのタイミングだと弱いままだってことか?」

「ああ、ロキータの初期も初期、一番弱いタイミングだ」

「そうか。で、どこにいるんだ」

「集団神隠し」

「――っ!」


 俺は息を飲んで、ハッとした。

 あれだったのか!


     ☆


 俺は未来の俺に案内されて、一緒に空を飛んで、キルキスという街にやってきた。


 カノーの領内にある、住人が2000人ほどの街。


 上空でとまった俺達は、街を見下ろす。


「ここか」

「ああ。記録じゃここが4カ所目、そして最後の集団神隠しが起きる場所だ。そして唯一倒せる場所だ」

「最後の? どういうことだ?」

「ロキータは人間を喰う。人間を喰って力をつけて成長する」

「神隠しはそいつに喰われたって訳か」

「今までの3カ所で人間を喰って、ある程度力をつけて気が大きくなったところで、一気に2000人の街を襲った。だが、抵抗に遭って結構な大やけどをした」

「なるほど」

「それ以降そいつは懲りて、十年間慎重に慎重を重ねた。これ以降は集団神隠しは起こらなくて、やつは一日に一人か二人のペースで喰って、喰ったら移動するようにした」

「その程度なら誤魔化せるからか」

「そういうことだ」


「きゃああああ!!」


 突如、地上から絹を裂くような悲鳴が聞こえた。


 みると、人間サイズの蜘蛛のような魔物が人間を襲っていた。

 既に何人か倒れている。

 あいつ、まとめて喰う気か。


 街の男達が集まってきて抵抗しているが、バタバタと倒されていく。


 空中にいても分かる。

 魔物としてはそこそこ強いが、今の時点じゃスライムロード程度だ。


 十年後の俺がこのタイミングまで戻ってきたのは正しい。


 俺は直滑降した。

 ロキータに向かっていく。


「ちょっま――」


 背後で未来の俺がなにか言ってるようだが、後回しだ。


 未来で英雄王にならないようにするために、俺はロキータにまっすぐ突っ込んだ。


 そして、初代の剣を抜き放ち、ロキータの前に着陸。

 そして――一刀両断。


 蜘蛛の姿をしたロキータを一刀のもとに斬り捨てた。


「念の為に――燃え尽きろ!」


 剣をおろし、炎の魔法で死骸を焼き尽くす。

 街の住人の目の前で、瞬く間にロキータを焼き尽くした。


 そして――歓声。

 ロキータを倒した俺に歓声が起きた。


「あんな強かったモンスターを一瞬で……」

「ありがとうございます!!」

「助かりました!」


 次々と俺に感謝をする、称える言葉を向けてくる街の住人達。


 ちょっと名声があがってしまうけど、まあしょうがない。

 この程度なら、「英雄王」に比べれば――。


「あーあー、やっちゃったな」


 俺の横に未来の俺が空中から着陸してきた。

 もう一人の出現に、街の住民たちに迷いが生まれて、歓声が小さくなった。


 いやそんなことよりも。


「やっちゃったなって、どういうことだ?」

「何のために俺が来たんだよ」

「え?」

「俺が倒して、俺が名声(厄介事)を引き受ければよかったのに」

「…………あっ」


 そうだった。

 そうなんだよ。

 未来の俺にやらせれば、「俺」じゃなくなるんだよ。


「えっと……」


 俺は恐る恐る周りをみた。


 未来の俺が登場して一瞬下火になったけど。

 まるで反動をつけるように、歓声がさっき以上にわきおこったのだった。


 やっちまったよ……。


「面白い!」

「続きが気になる!」

「更新頑張れ!」



とか思いましたら

下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。

面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、素直に感じた気持ちでまったく構いません!

何卒よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 残念ながら最近の科学でタイムマシンによる過去改編は不可能と証明されちゃったんだよね、シュレディンガーの猫は観測されたら事象が確定するのと同じ理屈で……
[気になる点] 未来分岐がもしもドラえもんの大阪理論だったら? 英雄王になる未来は決まっていてロキータの代わりが出てきて倒して英雄王にならされる 今度は11年後の未来から歴史を変えようと着そう
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