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139.タイミングが悪い二人

 とある日の昼下がり、俺はいつものように庭の安楽椅子でだらだらしていた。


 その俺から少し離れた所で、ミデアが剣の修行をしていた。

 一心不乱に剣を振る姿は健気で、みていてついつい応援をしてあげたくなる感じだ。


「……」


 あげたくなるけど、俺はぐっとこらえた。

 へたに口出しをしてややっこしい状況になるのはあまりよくない。

 このまま見ているだけにしよう――。


「――1000! ふぅ、よし、もう1000回やろう」

「ちょっと待て」

「え?」


 あっ。


 ……つい口出しちゃった。

 見ているだけでいいのに、ついつい口を出してしまった。


 ミデアはこっちを見た。

 剣を下ろして、体ごとこっちを向いた。


「どうしたんですか師匠」

「いやその……」

「もしかして、何か教えてくれるんですか!?」


 ミデアはきらきらした目で俺を見つめた。

 この前向きさも彼女の可愛いところの一つだ。


 大半の人間はこういう時、「何かまずかったか?」って思いがちだが、ミデアはそうじゃない。

 結構な場合、今みたいなポジティブにとらえるのだ。


 そういう所も弟子として可愛いんだよな。


「師匠?」

「んー……むむむ……」


 俺は腕組みして首をひねった。


「ああもう! 言っちゃったものはしょうがない」

「ほげっ? ど、どういう事ですか?」

「こっちの話だ。それよりも、さっきからずっと回数重視でやってるみたいだけど」

「はい! 反復練習は基本ですから」

「それは間違ってないけど、回数に囚われすぎるのもよくない。へたをするとその回数をこなすことだけが目的になりかねないからな」

「なるほど! さすが師匠」


 お前半分以上分かってないだろ……と思いかけてやめた。

 分からないなりにこっちが誘導してやればいいだけだ。


「それよりも別の修行を今からやってもらう」

「はい! 教えてください師匠」

「ん……」


 俺は立ち上がって、ミデアに向かっていった。

 手が届く位の距離まで近づいて、手を出してミデアの頭に乗せる。


「師匠?」


 ミデアは小首を傾げた。

 俺は、ミデアの頭に置いた手で、力を放った。


 力はミデアの体に染み渡っていき、やがて指などの末端から吹きだした。


「こ、これは!?」

「その力を全身に纏うようにするんだ。全身って言うのは剣もだぞ」

「え? は、はい!」


 ミデアは慌てて集中した。


 彼女くらいのレベルだと剣気をある程度扱える。

 俺が渡した力を、剣気を扱う要領で、さっきまで振っていた剣に纏わせた。


「できました!」

「よし、それでさっきと同じように振ってみろ」

「はい!」


 ミデアは大きく頷き、剣を振った。


 すると、俺が渡した力が剣を振った勢いで一部すっ飛んでいった。


「ああっ!」

「振ると留めておくの難しいだろ? 自分の力じゃないからな」

「はい……」

「それができるように頑張れ」

「今まで以上に集中して振れってことですね!」


 ミデアは相変わらずの、きらきら瞳で俺をみつめた。

 まあ半分正解だ。


 残りの半分は……出来てから説明してやろう。


「見ててやるから頑張れ」

「はい! 師匠!」


 ミデアが集中して剣を振り始めるのを見て、俺は再び安楽椅子に戻って、だらっと寝そべってミデアの修行を見守った。


     ☆


 ソフィアは街の大図書館の中で、一冊の古い書物とにらめっこしていた。


「あっ、いたいた。そーふぃーあー」

「ひゃう!」


 いきなり耳元で息を吹きかけられて、ソフィアはびっくりして飛びのいた。


「ま、マリス! もう、いつも耳元で息吹きかけるのやめて!」


 ソフィアは顔を真っ赤にして抗議した。

 現われたのはマリス・デスピナ。

 ソフィアと同じデスピナ一族の女だ、同い年で親友同士の間柄だ。


 親友ではあるが、二人の性格は正反対と言っていいようなものだった。

 ソフィアは真面目で堅苦しいタイプで、マリスは自由奔放でつかみ所がないタイプの少女だ。


 そんなマリスが、ソフィアが見ていた本を覗き込む。


「何を見てたのぉ?」

「魔力の効果的な鍛錬方法よ。どんな魔法を使うにしても、魔力の絶対量が多いに越したことはないから」

「そうなんだぁ……あれ? これって、すっぽんぽん?」


 マリスが戯れにページをめくると、その先に男と女が一人ずつ、図解として素っ裸状態の絵が描かれていた。


「え、ええ……」

「何々……素っ裸になって、魔力を具現化させて服にする――へえ、こんなのがあるんだ」

「……」

「これをやるのぉ?」

「や、やらないわよこんないやらしいの」

「いやらしい?」


 マリスは再び書物を一度みてから、ソフィアに視線を戻した。


「何がいやらしいのぉ?」

「だ、だって、裸に成れだなんて」

「うん、それで魔力で服をつくって着るんでしょ? だったら服を着てるじゃないのぉ」

「そ、それはそうなんだけど……」


 ソフィアはぷい、と顔を背けてしまった。


 書物に書かれている理屈は理解できる。

 通常の服を着ないで、魔力を物質化させて、それを服にして常時着ておく。

 魔力の物質化というのは、作ってはいおしまい、というわけではない。

 作った後の維持も魔力を消費し続けるのだ。


 つまり、その服を着ている間は魔力を消費し続ける。


 この世のほとんどの魔法は、瞬間的に魔力を放出するものだ。

 微弱な魔力を使い続ける、というものはほとんどない。


 例えるのならほとんどが短距離走で、長距離のウォーキングが一つもない状態だ。


 しかし魔力というのは使えば使うほど伸びていくもので、一瞬で使い切るよりも長く使い続けた方が伸びるのだ。


 だから伸ばすために、服にして魔力を少しずつ使う練習――というのは理屈的に正しいとソフィアは分かる。


 分かるのだが――素っ裸になって、自分の魔力を纏うという行為は、例えるのなら素っ裸で、自分の長い髪だけで大事な所を隠すのと似たようなものだとソフィアは思ってしまう。

 そうじゃなくても、魔力で作った服は本当の服じゃないから、それだけを着るというのは裸に服のペイントをするのと同じようなものだとも思ってしまう。


 妙齢の少女であるソフィアにとって、それはひたすら恥ずかしい事だった。


 恥ずかしい、が。

 そういう恥ずかしさを、マリスという少女は理解できなかった。


「うーん、やらないのぉ?」

「そ、それは……」

「ソフィア、魔法でもっともっとつよくなりたいんでしょぉ? だったらしなきゃ」

「そ、そうよね……うん、そうよね」


 ソフィアは腹をくくった。


「うんうん、それでこそソフィアだよ。そうだ!」


 マリスはぽんと、手を叩いた。


「今度は何?」


 腹をくくったため、落ち着いてきたソフィア。


「それをしたら、ヘルメス様に見てもらおうよ」

「ヘルメスに?」

「そう。ヘルメス様魔法詳しいんでしょ。それを見てもらおうよ」

「いいわよ別に。本に書いてあることだけで」

「褒めてもらえるかもよぉ? 上手くやってるわね、って」

「……」

「ね」

「か、考えとくわ」


 即決はしなかったものの、顔に朱がさしたソフィアは、マリスに唆されてすっかりその気になっていた。


     ☆


「はっ、ふっ、やあっ!」


 ミデアは俺の目の前で、剣を振っていた。


 集中して真面目に振ってきたおかげで、すっかり剣に力を留めておけるようになった。


「よしミデア、次のステージだ」

「はい!」


 ミデアは剣を下ろした。

 俺は立ち上がって、ミデアの少し離れたところにいくつもの魔力玉をつくった。

 魔力玉は半透明で、プカプカと空中に上下しながら浮いている。


 それを数十個作りだした。


「これでよし」

「師匠? そのシャボン玉みたいなのは何ですか?」

「さっきと同じ要領でこれを斬ってみろ。集中な」

「はい!」


 ミデアは近づいてきて、剣を再び構えて、振った。

 シャボン玉の一つを斬るように剣を振り下ろした――が。


「ーーっ!」


 シャボン玉に触れた瞬間、ミデアは剣を慌ててひいて、とっさに飛びのいた。


「い、今のは」

「うん、よく集中してた」

「どういう事ですか師匠」

「玉は二種類ある、触れただけで力を喰う玉と、そうじゃない玉だ。力を喰う玉は斬ってしまうと剣に纏った力を全部吸い上げる」

「おおぉ……」

「これで斬っていい物とダメな物を判別するんだ。さっきよりも集中力がいるから大変だぞ」

「がんばります!」


 大変だと聞いてもミデアは少しも尻込みしなかった。

 逆にもっとやる気を出して、剣を構えて、振った。


 斬っていい玉はふつうに斬っていた。


 斬ってはいけない玉は、剣の刃の部分が触れた瞬間に引いていた。

 さすがに集中しているだけあって、ミデアはいつも、触れた瞬間刃を引いていた。

 その度に、最小限だがちょっとだけ力が喰われていた。


 この練習のゴールは、常に触れる直前で(、、、)察して刃を止めたり引いたりするようになることだ。

 それに導いてやるように、俺は玉の「喰う力」に強弱をつけて、更に玉を出すことで、ゴールまで導くように仕組んだ。


 そこに――。


「ヘルメス」

「ん? おお、ソフィアか」


 ソフィアがやってきた。

 彼女はなにやら期待しているような表情で現われた。


「どうしたんだ?」

「ちょっと見てほしいものがあって……それよりもこれは?」


 ソフィアは庭に満遍なく浮かんでいる、シャボン玉のような魔力玉が気になった。


 それの一つに手を伸ばして触れた――瞬間。


 パン!


 玉が弾けた。

 そして、ソフィアの服も跡形もなくはじけ飛んだ。


「――え、きゃあああああ!?」


 一瞬で素っ裸になってしまったソフィア。

 とっさに両手で大事な所を隠して、しゃがんで身を屈めた。 


 とっさに隠せはしたが、動きに勢いがつきすぎたので、彼女の豊かな胸がそれでたゆん、とゆれてしまった。


「み、見てほしいものって……」

「違う! そうじゃなくて――うわああああん!」


 ソフィアは顔を真っ赤にして、涙目になりながら走って逃げていった。


 俺はポカーンとしてそれを見送ったが。


「魔力の残滓……あっ、魔力を服にしたのか」


 ソフィアがいなくなったあと、落ち着いた俺は現場の状況からそれを理解した。

 そういう技法を知ってる。


 ソフィアはその技法を見て欲しかったみたいだが――。


「やってしまった……」


 ミデアの修行中という最悪なタイミングで現われたソフィアは、見てもらう前に見られて(、、、、)しまったのだった。


「面白い!」

「続きが気になる!」

「更新頑張れ!」



とか思いましたら

下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。

面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、素直に感じた気持ちでまったく構いません!

何卒よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] いつもどおりおもしろいけど最近誤字が多い気がします
[一言] もう完全に師匠やなぁ…
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