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100.王と王

「あれは領主様とソーラ様だよな?」

「へ、へ、ヘスティアさんもいる」

「もう一人の女の子は誰だ? どこかで見たような気がするけど」


 まわりがざわつき始めた。

 このままじゃエリカの正体がばれかねない、そうなったらもっと大きな騒ぎになる。


「このままじゃ騒ぎになるな」

「けしちゃう?」


 エリカは可愛い顔で物騒な事を言ってきた。


「消しちゃわないで! 場所を変えればいいんだから」


 俺はそう言いながら、おでこに手を当てた。

 魔力を込めて、簡単な魔法を行使。


 次の瞬間、おでこからぱあぁ! とまばゆい光が放たれた。


「きゃ!」

「なんだこの光は!?」


 街の人々が悲鳴を上げたりする中、姉さん、ヘスティア、エリカ、そしてエレーニ。

 四人を連れて、目くらましがきいてる間に飛行魔法で飛び上がった。


 飛んでる途中も見られる可能性があるから、最大速度で屋敷に戻ってきて、中庭に着陸した。


「これでよし」


 屋敷に戻ってくればもう大丈夫だ。

 さすがに貴族の屋敷で、貴人がいるからって騒ぎになるような事はない。


「え? ここは……」

「俺の屋敷だ」

「ダーリンの屋敷? もしかして、ダーリンってすごい人?」

「ヘルメス・カノー。ただの貴族だ」

「カノー……そうなんだ……。えへへ……」


 俺の名字を聞いて、何故か嬉しくなったエリカ。

 なんなんだろう……と思ってそれを聞こうとしたところに、屋敷の方から一人のメイドが駆け寄ってきた。


「お帰りなさいませご主人様。ご報告が」

「なんだ?」

「先ほどお客様がお見えになられました。また来るとの事で――」

「分かった。また来るなら話は後でいい。姉さんを連れて下がってくれ」

「えっと……はい、わかりました」


 メイドはなおも何か言いたげだったが、俺はちょっと強い視線で下がらせた。


 貴人に慣れている屋敷のメイド、いるからって騒ぎにはならないが、エリカが「ダーリン」って俺の事を呼んでる以上、話はなるべく聞かせたくない。


 メイドは従順に命令に従って、人を呼んで気絶したままの姉さんを屋敷に運んだ。


 残ったのは俺と、ヘスティアと、エリカとエレーニの四人になった。


「さて、と」


 俺は改めて、エリカの方を見た。


「なあに、ダーリン」


 俺の事をダーリンと呼ぶエリカは、ただの幼い女の子に見えた。


「本当に、カランバの女王なのか?」

「ぶ、無礼ですよあなた!」


 エレーニが抗議してきた。


「黙りなさいエレーニ」


 エリカはエレーニを黙らせた。

 彼女に「命令」をした瞬間のエリカの横顔は、俺に向けてくる無邪気さとは対極的な、冷酷な人間にありがちな目をしていた。

 が、こっちを向くと、それは跡形もなく消えて、またまた無邪気で脳天気な瞳に戻った。


「エリカ・リカ・カランバ。正真正銘の女王だよ」

「私からも保証しますわ」


 ヘスティアが物静かにいった。

 アイギナ国王とも繋がっている彼女だし、最初にエリカの名前を呼んだのも彼女。

 顔見知りなのは間違いないようだ。


「そうか……だったらなんで?」

「なんでって?」

「女王がなんで自分から人さらいの実行犯をやってるんだ? 部下に任せとくのが普通だろう?」


 これは善し悪しとは別の問題だった。

 彼女が姉さんや他の女の子達をさらう事の善し悪しとは別に、大陸最大国の女王ともあろうものが誘拐の現場にでてくるなんて、それだけで一つの謎だ。


「あのね、カランバの女王は代々、薔薇の園を作るの」

「薔薇の園……? ってまさか!?」


 俺の頭の中にいやな光景がよぎった。


「処女の血が一番薔薇を綺麗に咲かせるとかそういう事か!?」

「え? あははは、ちがうよーダーリン」


 エリカはクスクスと、おかしそうに笑った。


「本当の薔薇じゃなくて、女王のハーレムを薔薇の園っていうの」

「あぁ……」


 ちょっとほっとした。

 いや、歴史上そういう話が多いんだよ。

 処女の血が美容に良いからって、沐浴とかのために大量虐殺をした女王とか妃とか。


 そういう話とかじゃなくてほっとした。


「カランバの中興の祖、リカ・カランバ様から始めたことでね、世界中の美女を集めてハーレムにして、自分の好きな男に丸ごと献上するっていうのが、薔薇の園。聞いたことない? 薔薇の園の主の話」

「えっと……どうだったかな」


 なんかそういう話聞いたことあるようなないような……。


「ダーリンの御先祖様の事だよ?」

「え?」

「魔剣使い、ダーリンとエリカの御先祖様。そうそう、魔王の父親でもあるね」

「またあいつかよ!」


 ちょくちょく話を聞くな! いったいどんだけやらかしてるんだよあの男は。


「だから、エリカは自分でいい女を捜して回ってるの。 本当にいい女ってなかなか出回らない(、、、、、)から。奴隷からも選んでるけど、奴隷からだと十万人に一人いるかどうかだから効率悪いんだ」

「そうか……」

「自分のハーレムを作るから、自分で好みの子をさがして回らないとね」

「自分のかよ!?」


 ってか、それって女同士って事だよな。


「カランバの女王は、代々それをなさってきました」


 ヘスティアが横から説明してくれた。


「そうなのか?」

「ええ、私も」

「ほえええ!?」


 今日一番驚いた。

 ってことは、エリカの父親じゃなくて、母親と顔見知りだったって事か? ヘスティアは。


「ねえねえダーリン。今日からエリカの薔薇の園、丸ごとダーリンにあげちゃうね」

「え?」

「これからはダーリンのハーレム作るように頑張る!」

「やめて!? 姉さんと同じことはやめて!?」

「同じこと?」


 俺は姉さんがすすめている、HHM48の話をした。


「へえ、さすがダーリンのお姉さん、やるじゃない」


 そう話すエリカの表情がまたちょっと変わった。

 負けず嫌いな人間にありがちな目になった。


 話をようやく完全に理解して、一段落して。

 俺はほっとした。


「ふう……」

「ダーリン」

「うん?」

「もしかして、怒った?」

「いや、怒ってはない」

「本当に?」

「ああ、ハーレムの話なら別にいい」


 エリカは女王だ。


 エリカ・リカ・カランバ。

 大陸最強国カランバ王国の女王だ。


 それほどの権力者が、ハーレムの一つも無いなんて逆におかしい。

 歴史上、国王クラスの権力者でハーレムを作らなかった人間は一人として存在しない。

 人さらいも、まあ良い。


 俺はちらっと、エリカの部下、エレーニを見てから。


「部下を使い捨てにするような真似はするな」

「あっ……」


 ハッとするエリカ。

 おそらく普通にやっている分には、賢く頭の回転が速い子なんだろう。

 俺が言いたい事、怒っていることをすぐに理解した。


「……ごめんなさい」

「これからはしないな?」

「うん。エリカ、もう部下を使い捨てにしないから」

「ならいいんだ。それとダーリンはやめてくれ」

「なんで? ダーリンはダーリンじゃない」


 直前の素直な反省とちがって、ここには何が何でも直さないぞという堅い意志を感じた。

 口調はさらりと聞き返してきただけなのに、頑固さとか決意とか、そういうのがものすごく伝わってきた。

 すごい子だ、エリカ。


 いやいや、感心してる場合じゃない。


 とにかくダーリンをやめさせなきゃ。

 何かをして、嫌われるか冷めてもらうかしなきゃ。


 そのためにするべき事を俺は考えた。


「おいっこちゃん、遊びに来たのだ-」


 どごーん!!!!


 聞き覚えのある声の直後に、耳をつんざく爆音と、大地を揺るがすほどの衝撃波が広まった。


「いきなり何をするんだカオリ」


 声の主は魔王カオリ。

 いつの間に現われて、挨拶代わりの攻撃(じゃれあい)をしかけてきたカオリの攻撃に、ほとんど考えず(、、、)に打ち合った俺。


「いきなりじゃないのだ。さっき来て、甥っ子ちゃんのメイドに『後でまた来る』って言っておいたのだ」

「え? あああれってそういう……」


 確かにメイドがそんな事をいってたな。

 まあ、カオリのことは体で覚えてるし、どうせじゃれ合いだからまったく何も聞いてなくても反応出来るけど。


「それより、あいつらはなんなのだ?」


 カオリが俺の背後を指さす。

 振り向く――ハッとした。


 衝撃波で尻餅をついたヘスティア、エレーニ、そして――エリカ。


 その中でもエリカは、尻餅をついたまま目をきらきらさせていた。


「魔王と互角……さすがダーリン」

「いやいやいや待て待て、互角とかじゃないぞ。今のはそう、じゃれ合いだから」

「魔王は前の魔王の言いつけで、互角の人間じゃないと手を出せないんだよね」

「あっ……」

「やっぱりダーリンってすごい!」

「おっふぅ……」


 カオリに反応してしまったおかげで、ますます深みにはまった、そんな気がした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 太陽拳?笑笑懐かしい技出てきたな
[良い点] ちょくちょく999倍のほうと繋がるの好き つーか伝統になってるのかよおい
[一言] はい、だーりんの自爆
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