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21.英雄作成(自前)

前回までのあらすじ

女の子同士でくんかくんかするのは合法。(マナー違反)

 出迎えはクエストの約束をしていた老人だけだった。

 カヤノは他にいないかと、きょろきょろと辺りを見渡すが、いないものはいない。そして、誰もいないことを確認すると、サクの背中で残念そうにため息をついた。


「相変わらず、しけた村だな。おい、じーさん。オレが村を危機からさくっと救ってやったぞ。喜べ」


 かったるそうに、カヤノが雑に吐き捨てる。

 老人はその言動に目を丸くして、おろおろと助けを求めるように、サクへと視線を向ける。しかし、サクは黙って頷くだけで、フォローする意思は無かった。


「あの……カヤノさん。とりあえず、サクから降りて。何言っても、そこじゃ締まらないし」


 援護射撃は、老人の望んだ同じ村人のサクからではなく、旅人のサイスからだった。

 カヤノにとって一考するに値する発言だったのか、彼女はサクの肩を叩くと、背から降りる。その際、サクの眉が一瞬跳ねたが、老人は幸いなことに気付いてはいなかった。


「とりあえず、こんなところで立ち話も何ですから、落ち着けるところへ移動しませんか?」


「そーだな。歩き詰めでしょーじき、立ってるのも怠い」


「え、あー。そしたら、【院】とか? みんな避難しちゃって誰もいないけど、くつろぐには持ってこいの場所だし」


 どうかな、と老人に視線を向ける。特に異論もないらしく、老人は黙って頷くだけだ。

 カヤノがどこを目指すのか分からない風に、辺りを見渡していると、サクが肩をつついて、村でも一際目立つ二階建ての建物を指さした。


「なるほど、宿屋な。【院】とか言われても、こっちの専門用語は馴染みが薄くてな」


 老人の先導で【院】を目指す。

 道中、サクがカヤノを気遣って、背負うかどうかしつこく確認したが、カヤノはきっぱりと断っていた。


「しかし、昨夜の一件には正直驚きました。皆様は巻き込まれたりしませんでしたか? こう、光の柱が天を突くような勢いで……」


「んー、どうだったかなー」


 まさか、カヤノがやりました、とも言えず、サイスが言葉を濁す。

 サクもこれについて積極的に喋るつもりはないのか、すまし顔のまま。カヤノはそれが何を指しているのかも理解していないようで、反応は無かった。


「そうですか。実はいうと、村の入口で立っていたのも、昨夜の一件で何か起こるやもと気が気でなかったからでして。旅人さんの姿が見えた時は驚きました。……っと」


 老人が【院】の正面玄関を開く。

 【院】の中は、カヤノが前の村で見たものと同じく、宿の受付、食堂、交易品の取扱所、施療院、といった様々な施設が詰め込まれていた。もちろん、そこで働く人影はない。サクが話した通り、既に避難しているのだ。


「まりょくとう……だっけか。こういう人工的な明かりっていうのは、やっぱ安心するな」


「僕は焚火の方が好きですけどね」


 カヤノに釣られてサクまでもが、天井に据え付けられた魔力灯を見上げた。明るさのみを追求した青白い光が建物内を煌々と照らしている。


「こちらで話を聞きましょう」


 食堂で使用されている卓を前に、老人が3人を招く。


「話っつっても、出合頭に話した通り、じーさんが頭を悩ませていた件をすぱっと解決しただけだしな」


 最初に口を開いたのはカヤノだった。それも行儀悪く浅く椅子に腰かけ、卓に顎を乗せてと、相手の心証をまるで意に介さないふざけた態度、それに加えて話し合うそぶりすら感じさせない一言だ。


「や、それだとあちらも納得しないでしょうから」


「むう。ゲームだとその辺はオートだしな。やっぱテンプレは偉大だな。サクちゃん、報告頼んだ」


 さすがに目にあまったのか、サイスがやんわりとコレをたしなめ、カヤノがそれならばと、この場のイニシアチブをサクへと譲る。


「……わかった。村長、最初にはっきり言っておくと、モンスターは私たち殲滅してない」


 覚悟を決めたか、サクは深呼吸をすると、老人に向けてセンセーショナルな言葉を最初にぶつけた。

 老人にしてみれば、話が違うの一言である。そもそも、カヤノがモンスター退治を謳って依頼を取り付けたはずで、サクの言葉はそれに反故していた。


「まずは聞いて、村長。たった二人で300以上のモンスターを殲滅する。これを鵜呑みにしたのがそもそも間違い。何とか出来そうなのはモンスターそのものじゃなくて、異常行動しはじめた原因の方でしょ」


 老人はぐうの音も出ないと、低く唸る。


「それで、3カ月くらい前、春の初めだったと思うけど、すごい大雨があったでしょ? 北の森に接した山の方でどうも大規模な地崩れがあったみたいで、今回の騒動はそれが原因」


「しかし、自然が相手というなら、なおさら二人で相手取るには難しいのでは? いや、原因を突き止めただけでも、十分感謝したいレベルだが」


「目標がとっ散らかってないなら、人海戦術は必要ないよ。だいじょうぶ、きちんとそこを掘り返して、原因を排除。モンスターは元の住処に戻っていったよ。もう、この村にモンスターは現れない。あ、はぐれた奴がいるかもだけど、うちのお父さんで十分対処可能な数になると思う」


「おお、つまり……」


 老人が声を震わせる。

 サクは8割方説明し終えて、肩の荷が下りたと大きく息を吐いた。そして、瞑目して呼吸を整えると、最後に一言、結論を述べる。


「そうだよ、村長。この村は救われた。スタンピードは起こらない」


 老人はぎゅっと目をつぶり、感極まったように嗚咽を漏らす。

 サクが評価を求めるようにカヤノとサイス、順繰りに顔を見る。サイスは小さくガッツポーズを返すが、カヤノは軽く頷くだけの素っ気ないものだった。


「あれ? なにか足りなかった?」


 カヤノの反応が芳しくなかったことで、サクが自信なさげに首をひねった。


「いや、上手くやれてたぞ? んじゃ、じーさん。お宅の身内から太鼓判を押されたところで、生々しいお話のお時間だ。よーするに、報酬の話だ」


 カヤノはゆっくりと体を起こすと、力いっぱい背もたれに体を預けてふんぞり返る。老人は童女の威圧的な態度に困惑して、保護者であるサイスの方へ視線を向けるが返事は無い。


「ちなみに、オレはこの世界の貨幣価値がわからん。1マギカで何が出来るんだ?」


 カヤノが視線を向けたのはサイス。彼は気まずげに老人の視線を受け止めた後、がっくりと肩を落とし、一般的にですが――、と前置きして言葉を続ける。


「10万マギカで人ひとり、一ヵ月は暮らせますよ。不動産とかも?」


「いや、いい。じーさん、村を救った英雄様に感謝を述べる時間だ。アンタのバランス感覚はどんなもんだ?」


「あ、自分で額を提示するんじゃないんだ……」


 サイスが気の毒そうに声を漏らすと、カヤノに鋭く睨まれ、慌てて手で口を覆った。


「……そう、ですな。村の存続の危機でしたし、皆からも募れば300万」


 老人の言葉にカヤノの瞳がすうっと冷えた。その差異に老人が言葉を詰まらせる。

 その隙を逃すまいと、カヤノは上体を跳ね起こし、卓に倒れ込むように勢いづけて、手を卓に打ちつけた。


「おい、じーさん。20世帯もないこの小さな村。アンタにとっちゃもう一度作り直すのは簡単らしいな。村が滅ぶところだったんだろ? 喉元過ぎればなんとやら、か? 次も助けてくれるといいな。そんな額じゃ、少なくともオレはゴメンだ。ああ、このことを誰かに喋りたい気分だ――」


「500、いや、600万を……っ!」


 カヤノの酷薄な言葉に、老人が増額を口にする。追い詰められたように、ひっひと浅い呼吸を繰り返し、カヤノの見定めるような視線と沈黙の中、断罪を待つ。


「いや、多すぎだろう。いいとこ450だろ。経営者観点なら、300だって結構な数字だぜ? この先があることを考えれば、それこそ村が滅ぶ」


 カヤノが再び背もたれに体を預けて興味なさげに、呆然としたままの老人を見やる。


「まあ、いい練習にはなっただろ。じーさん、人が良すぎるぜ」


「え、話が見えません」


「ああ、オレたちはこういう荒事を専門にした商売を新しく始めるっていう、奇特な奴に雇われてる身だ。報酬は既に受け取っている、二重取りは出来ない。わかったか?」


 老人は相変わらず、口をぽかんと開いて間抜け面を晒している。隣を見れば、サイスも不思議そうに首をかしげていた。


「じゃあ、何のため……といういい方はアレですが、カヤノさんは何か狙いがあってこの村を助けようとしたんじゃないんですか?」


「善意だ」


「嘘だ」


 カヤノがサイスの質問を真顔で答えたのだが、即否定された。

 面白いのはサクが純真な目を向け、彼女の言葉を鵜呑みにしているところだった。そしてカヤノは正反対の反応を返す二人に挟まれ、どこか納得のいかない表情のまま補足し始める。


「さっきも言っただろ。あのエチゴヤが新しい事業を始めるから、その宣伝だって。……ああ、じーさん。タダで助けてもらえるのが不服なら、ひとつ頼まれてくれ」


 それまで、ただ驚くばかりで置いてけぼりにされていた老人は声をかけられ、肩を強張らせる。


「そう身構えるな。簡単なことだ。オレがやったことを喧伝しろ。村の危機を救ってくれた英雄様がいたってな。さっきの額……、600万マギカだっけか。それで300を超えるモンスターのスタンピードから村を守ってくれたってな」


「喧伝……、噂をばらまけばよろしいので?」


「どうせ娯楽の少ない世界だろうし、そういう御伽噺もどきは大好物だろ? ついでに、今後商売敵になりそうな守備隊の悪口も混ぜといてくれ。そうだな、守備隊は助けてくれなかったのに、とか、もっと1000万くらいふっかけてきた、とか枕詞を付けとけば、この噂はさらに伸びる。人の悪口はみんな大好きだからな」


 ふふは、と笑うカヤノにサクが惜しみない拍手を送る。

 残る二人は苦虫でも噛み潰したような表情で、鷹揚に笑うカヤノの姿をじっと眺めていた。


「おかしな顔をするな。じーさんだって守備隊に思うところはあるだろう? 恩返しも出来る。憂さ晴らしも出来る。超お得ではないか。喜べ」


 低く唸っていた老人だったが、ある時点で吹っ切れたのか、くふーっと噴き出した。


「そうですな。懐も痛まず、意趣返しの機会を得た。笑うところですな」


 それまでの鬱屈した雰囲気など、どこへやら。老人は珂珂と笑って席を立つ。


「村は無事。報酬も決まった。ならば、すべきことをしましょう。私は少々席を外します」


 【院】の施設の方へ姿を消す老人の背中を見送ると、カヤノは仕切りなおすように、ぱんと柏手を打ち、サイスとサクの注意を引く。


「じゃ、報告も無事終わったし、今日はここに泊まる。いいよな、サイスくん」


「若旦那に報告することもありますし、僕としては渡りに舟って感じですけど……」


 ぐるりと首を回して、とても言いにくそうに、とても嫌な顔を浮かべて、サイスは悲壮の決意のもとにカヤノを真っすぐと見た。


「何をする気なんです?」


「お前、ひとを何だと思ってるんだ……」


「ここまでの積み重ねで、僕も学んだということですよ」


 ふふん、と得意そうに笑うサイスに、カヤノが無言で鼻っ面にデコピンをかました。あいたー、と情けない鳴き声を上げながらサイスが口元を押さえる。


「ったく、別に大したことやるって訳じゃない。ちょっとサクちゃんとしっぽりしようと」


「しっぽり!?」


 サクが素っ頓狂な声を上げる。

 だが、その大声はカヤノの癇に障ったのか、サクはじろりと睨まれてしまい、慌ててその口をつぐんだ。


「ごめん。そのしっぽりって……」


 しかし、好奇心を抑えきれずに、サクは恐る恐ると言った様子で、カヤノに真意を問いただす。


「うむ。一緒に風呂に入ろうと思ってな。ほら、約束しただろ?」


「なんだ、お風呂か」


 サクはほっとして胸をなでおろした。


「……何だと思ったんだ? オレ、ナリは子供なんだけど」


「えーと、ほら。じゃ、行こっか? 背中流してあげるね」


 誤魔化すように早口で喋りながら、サクはカヤノの手を取った。カヤノはちらりと視線をサイスに向けたが、彼は批判する様子もなく、快く送り出す姿勢を崩さない。


「ふむ。じゃあ、行くか。サイスくんは今日一日、自由にしていいぞ。明日また会おう」


「ああ、お達者で」


 にこやかに笑顔を浮かべ、サイスがカヤノを見送った。

 なお、これから一時間も経たぬ間に、サクのあふれた忠誠心の始末に狩りだされてしまい、結局のところ、サイスに自由など無かった。


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