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18.放たれた絶唱

前回までのあらすじ

暫定、レズロリケモミミ少女という属性過多のキャラにヤンデレが追加されそう。

「確保ー!」


 カヤノの号令を合図にサイスがサクに襲い掛かる。サクが何が何だか分からないうちに、ロープでぐるぐる巻きにされ斜面に転がされる。


「え、なになに。どうしてこんなことするの?」


「何とか幼馴染の尊厳を守れた……」


「正直、これだけの美人さんになら何されても文句はないが……、うーむ」


「だからなんなのー!」


 安堵やら心残りやら、それぞれの自分勝手にする二人に、サクが不満を込めて叫んだ。


「カヤノさん。サクがまともな感じで喋りますよ?」


「そんなん知るか。それより髪をやってくれ。また解けた」


 これまでの束縛と略奪(フェイタル)()焚きつける艶髪(スタンピード)の被害者のように目も虚ろではない、とサイスが気付いて首をかしげる。


「だから、束縛と略奪(フェイタル)()焚きつける艶髪(スタンピード)って? さっきは緊急事態だから流したけど、ちゃんと教えてよー」


「やっぱり、なんだか理性が残ってますよ。サク、いや同性ならセーフなのかも?」


「モンスターに効いた時点で性別なんか今更だぞ。それより髪ー」


 しつこくせがまれ、観念したようにサイスがカヤノの後ろに回る。だが、納得はしてないようで、手だけはテキパキと、首から上は煮え切らないようにうんうんと首をひねる。


「ねー。呪いってなんなの? 私がこんな風にぐるぐる巻きにされるっていうなら、せめて内容だけでも教えて。せめて、この状況に納得したいー」


「任せた」


 一抜けた、と言わんばかりにカヤノがばっさりと言い切った。残されたサイスは、ちらりと幼馴染を見やって、小さくため息をつくと、軽く目を閉じて気持ちをリセットする。 


「サク、よく聞いて。君にはいま、ちょっとした疑いがかかっている。カヤノさんに対して重度の偏愛を無理強いするかもっていうね」


「はあ!? べ、べ、別に、そんなことないし!? カヤノちゃんに特別な感情とかないもん。あくまで友人、そう友人くらいの付き合いだよ。ホントだよ!」


 早口でまくしたてるサクを、カヤノが一瞥し、心底がっかりしたように肩を落とす。サクはこちらに背を向けるように転がっているので、その表情は窺い知れない。だが、少なくともサクのそれが真っ当ではないことくらい、カヤノにも容易に想像出来た。


「おい、サイスくんの幼馴染は語るに落ちる間抜けだぞ。ホントに大丈夫なのか?」


「いや、もう。なんか、ホントすみません」


「謝らないで。サイスが謝ったら、マジっぽくなっちゃうでしょー!?」


 不様にからだをよじりながら、サクが涙ながらに訴える。


「あの様子なら大丈夫なのでは? ……と、よし出来た」


「油断したところにガツンとくるんだ。絶対に目を離すなよ」


 髪を結いなおしてもらったので、カヤノはフードを被りなおす。いつもより深めに被り、髪はおろか表情すら見せない姿勢に警戒心を抱いているのが傍目からでも見て取れた。


「とりあえず、さっきの続きだ。エテ公共の邪魔は入ったが、この辺に何かあるのは間違いなさそうだな。サイスくんの言葉をまるっと信じるなら、この場所はちぐはぐなんだろ?」


 カヤノが確認を取る様にサイスに視線を預けると、すぐに力強い頷きが返ってきた。

 サイス曰く、この一帯の魔力濃度は薄い。しかし、周辺の植物を見れば、魔力が非常に濃かった形跡がいくつも残っており、辻褄が合わない。


「なら、掘り起こそう。サクちゃんは……、後回しだな」


「ええ……、これほどいてよ。私は正気だよ。呪いとかも平気だから」


「サクは普段から正気じゃないからなあ」


 サイスがサクを担ぎ上げる。いわゆる俵運びという持ち方で、そこにロマンもへったくれもない。


「うう。せめて、もう少し女の子らしい扱いをさあ」


 サクは尻尾が力なく項垂れ、全身がぐったりと脱力していた。ささやかながらの抵抗として、小声で改善要求するが、残念ながら、それは誰の耳にも届かない。


「それでカヤノさん。ただ掘り返すと言っても方法がないのでは?」


「サクちゃんが言ってた、魔法の重唱?を使う。なーに、試したことは無いが、オレに任せろ」


「その根拠のない自信がどこから来るのか、ホント知りたい」


 サイスが愚痴る。視線を感じ、そちらへ目を向ければ、逆さまになったサクと目が合う。

 そして彼女のぽかんとした表情が、じわじわと緩み、にまぁと歪んだ。サイスはなんとなく気恥ずかしさを覚えて、とっさに視線を逸らす。


 その先で、カヤノが緊張した面持ちで何度も深呼吸を繰り返していた。


「ねー、サイスはカヤノちゃんに重唱のこと教えた?」 


「サクが教えてたじゃないか」


 重唱の件を先に言いだしたのはサクの方だ。サイスは呆れたようにそれを指摘すると、サクはきょとんとした表情のまま瞬きを繰り返す。


「何言ってるの? 私はそんな方法があるよ、って言っただけでやり方なんて教えてないよ」


 サイスの顔からさーっと血の気が引いた。

 きっと同じことを考えたのだ。サクの生唾をのむ音がサイスにもしっかりと届いた。


 緊張した空気が流れる中、少し離れたところで、カヤノが地面に手をついて、真剣な面持ちで構える。


「カヤノさんは、いったい何をする気だろう?」


「奇遇だね。私もそれが気になったよ」


 サイスは現在進行形で頬が引きつっているのを自覚した。


「重唱は1節の魔術を2回続けるだけ。それ以上増やしても失敗するだけ。滅多なことにはならないよ」


「うん、間違って4回続けても、何も起きたりはしない。それくらいは僕も知ってる」


 うふふ、あはは、とサイスとサクが静かに笑う。

 ただし、目は笑っていない。カヤノの一挙手一投足を見逃すまいと、じっと凝視していた。


 そんな外野はさておき、カヤノはこれ以上なく集中していた。

 周囲の雑音を気にも留めず、何かを決意したように小さくよし、と呟く。そして――、


フユ(分解)フユ(分解)フユ(分解)フユ(分解)


 都合4回、基礎魔術を唱える。

 元々のヒントは同じ基礎魔術を重ねるということだけ。カヤノはそれがいくつなのかまでは把握していない。少ないよりは多い方がいい。サクが普段詠唱するのは4節。これらを鑑みた結果だった。

 もっとも、サイスやサクに言わせれば、これは不正解だ。こんな風に基礎魔術の詠唱を重ね過ぎれば、魔術は成立しない。つまり、カヤノの憶測は外れた。


 その証拠に、何も起きない。

 光は闇夜に消え、音は響かず、地面は平穏を保っている。


 カヤノも確かに手応えはあったはずなのに、肩透かしを食らったような状況に小さく首をひねる。


 轟ッ――、と地面が悲鳴をあげたのは、そのすぐ後だった。

 光が、音が、地響きが大奔流となって天を突き上げた。大災害を連想させるような桁違いのパワーに誰一人、声を発すること暇なく、その光の奔流に飲み込まれた。


「うー、オレなんかやらかした感じか、コレ?」


 ようやく光の奔流が静まり、カヤノがふらふらと立ち上がる。先ほどまであった地響きもすっかり治まっており、足元はしっかりしている。


「なんか凄かったな、重唱とやら。サクちゃんの使ってる魔法の数倍ヤバかったし」


 カヤノが周囲を見渡し、あっと驚いた声をあげる。地形がすっかり変わっていたのだ。

 先ほどまで斜面があった場所はごっそり削り取られている。山麓が綺麗に切り取られ、山腹に至る道が絶壁のようにそそりたっていた。


「……やべぇ」


 カヤノが岩壁を見上げ、己の放った魔法の規模に慄く。景色が一変するほどの地形変動、神域に達する所業は、これまで体験したものと一線を画する。いつものように笑い飛ばすには、少々コトが大きすぎた。


「というか、判断つかないのがヤバい。普通なのか? それとも希少なのか? ……前代未聞ってことは流石にないだろーが」


 いずれにせよ、目撃者の数は限られている。対処はそう難しくない。カヤノはそう割り切ると、くるりとターンして、背後にいたサイスの方へ向き直る。


「どーだっ、すごかろう。ごっそり掘り返してやったぜ」


「え、あ、……えー?」


 サイスが削り取られた岩壁、ドヤ顔のカヤノ、それら交互に見つめて、情けない声を漏らす。


「カヤノさんがやったんです、よねえ?」


「そうだとも。ところでサクちゃんは?」


 カヤノが首をかしげる。サイスが抱え上げていたはずだが、現在そこにサクの姿は無い。サイスは手ぶらでぽかんと口をあけたまま、山を見上げている。


「……、えーと。さっきの衝撃でうっかり落としまして」


 サイスが誘導するように視線を後ろへ逸らす。その先にサクがおしりを突き出した状態で地面に突っ伏していた。意識は無いようで、ピクリとも動かない。


「ちょっと持て余してたし、こっちが整理つくまでそっとしておくか」


「渡りに舟、だったのは否定しないですけど。言い方ァ」


「それで、あとはここに問題解決するような何かがあれば、無事にクエストクリアーなんだが……?」


 雑談で心を落ち着け、すっかり平静を取り戻したカヤノ。振り返って、改めて岩壁を、削り取った斜面跡を見る。アリの巣の断面図のような空洞がちらほらと目に留まった。

 空洞は岩壁の奥へと続いており、まだまだ先のありそうな雰囲気だ。


「これはダンジョン……?」


 カヤノと同じものに目をつけたのだろう。背後でサイスが意味ありげに呟いた。


「ダンジョンとな!?」


「は、はい、ダンジョンです。奥から濃い魔力が流れ出ているのが見えるし、まず間違いないと思います。この周辺に魔力濃度が濃い痕跡があったのは、このダンジョンがあったからなんですね。納得」


 サイスの説明に、カヤノが拍子抜けだというように、顔を歪めた。


「それだけ? 奥に凄いモンスターが潜んでるとか?」


「ないです」


「村の連中が未確認だったようなダンジョンだろ。お宝は?」


「ありません」


「何でもいいから、厄ネター」


「強いて挙げるとすれば、森に散らばった300匹以上のモンスターがここに押し寄せてくるくらいですかね。ほら、入り口が埋まったせいでモンスターが一時的に住めなくなってましたから」


 サイスはダンジョンから背を向けた。

 森は暗く、見通しが利かないが、サイスの言うようにモンスターの大移動は既に始まっているのかもしれない。下手に想像力を掻き立てられて、カヤノはごくりと生唾を飲み込む。


「今度は縛りなしで戦闘だな」


 拳を打ち付け気合を入れる。カヤノがそうやってふんぞり返ってると、サイスが呆れ顔のまま、カヤノのフードをぐいと引っ張って、一瞬視界を奪う。


「なーに言ってるんですか、迂回するに決まってるでしょ。最初に言ったじゃないですか。モンスター退治は兵隊さんの仕事。僕ら一般人には手に余る案件です」


「えー」


「カヤノさんも言ったでしょ。ここに問題解決するものがあればいいって。ダンジョンがありました。村に迷い出ていたモンスターの元住処です。これで人里に顔を出すことはありません。クエストクリアです」


 サイスはカヤノを言い包めるように、ゆったりと、それでいてメリハリをしっかり効かせた物言いで諭す。最初は不満を隠すことなく言葉にしていたカヤノも、サイスの勢いに呑まれて、次第に大人しくなっていく。


「……消化不良だ」


「山を3割消し飛ばしておいて、その感想が聞けるとは思いませんでした」


 気絶しているサクを再び担ぎ上げて、サイスはしっかりと移動の準備を整える。


「ほら、さっさと逃げないと。村の人に依頼された件もこれで解決しましたし、帰りましょう」


「むう。オレは諦めんぞ。いつか頭数を用意してモンスターと戦争ごっこするんだ」


 森の奥から獣の咆哮が聞こえる。直にモンスターがここへやって来ることだろう。

 カヤノ達は急ぎ、この場を後にした。


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