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13.外見は童女なのです

前回までのあらすじ

童女曰く、ただモンスター退治を請け負っただけだよ。とのこと

 北の森までは人の足で約半日ほどの距離があり、途中に遮蔽物が多いためか、遠目から目的地を捉えることは適わなかった。道中も人の手が入っていない野山が続き、お世辞にも歩きやすいとは言えない。


「サイスと会うのは一年ぶり、だね。元気にはしてたみたいだけど」


「サクこそ、こんなところにいるとは思わなかった」


 最後方にいたカヤノが不満そうに二人の顔を交互に見やる。特に緊張しているわけではなく、程よく力の抜けた振る舞いは、気安い関係だと見て取れた。


「そっち」


「うん」


 僅かな言葉のやり取りで幾重ものやり取りをする。

 例によってサイスが不自然な進路変更をするが、サクはそれをすぐさま受け入れる。そして進路先にある邪魔な岩や草木をナイフと魔法で除去する。


 おかげでカヤノの足元は均されて、非常に歩きやすい。そのせいで不満を言う機会もなく、北の森までの道のりを随分踏破してしまった。


 カヤノは面白くなさそうにフードを被りなおすと、前を歩く二人の後を静かに歩いていた。


「ねえ」


 サクがカヤノの方を振り返った後、ただ一言サイスに声をかけた。

 サイスは足を止めると、陽の高さを確認して悩むように首を傾けた。その間もサクがカヤノの方をちらちらと盗み見しつつ、じゃりじゃりと足元を均している。


「おー、休憩か? サイスくん、水筒くれー」


「ああ、ええ……はい。休憩にしましょう」


 足を止めた二人に気付いて、カヤノが地べたに胡坐を組んで座り込んだ。

 サイスは肩をすくめると、カバンにしまった水筒をカヤノに投げ渡す。

 カヤノは受け取った水筒を旨そうに飲んで一息つくと、顔を上げてきょとんとした。二人がカヤノをじっと見ていたからだ。


「……サイスくんにはやらないぞ?」


 サクがふひと笑みをこぼす。

 カヤノが訝し気に目を細めるが、サクはこれを誤魔化すように小さく咳払いする。判断を委ねるようにカヤノの視線がサイスへと向かった。


「サク」


 サイスが呆れたように名前を呼ぶ。サクは抗議するように唇を尖らせたが、サイスが小さく首を振ると、がっくりと肩を落としてため息をついた。


 やれやれと、サイスが一仕事終えたようにカヤノの方へ意識を戻す。

 カヤノは見るからに不機嫌だった。


「なんだ、そのやりとりー! さっきから黙っていれば、いちゃいちゃと。サイスくん、サクちゃんとの関係を答えろ。回答次第で殺す。答えなくても殺す」


「無茶な……」


 言葉を介しない意思疎通が気に食わないと、カヤノがサイスに食ってかかった。

 ぐいぐいと距離を縮め、胸元を掴む勢いだ。

 しかも、サイスがどう答えたとしても更なる怒気が爆発するのは火を見るより明らかだった


 サイスもげんなりして肩を落とす。

 そんな、いまにも噛みつきそうな剣幕のカヤノだったが、背後から突然抱きすくめられて鎮火した。


「サイスとはただの幼馴染だよ。カヤノちゃんから取ったりしないから安心して」


 カヤノが驚いて振り返れば、サクがいた。

 なんとか言い返そうとするが、言葉に出来ずにカヤノは結局押し黙る。そのままサクにからだを預けて気分よさげに目を閉じた。


 サクは腕に収まった童女のことを満足そうに見つめると、視線をサイスの方へ戻し、目じりをあげた。


「それで、私としてはサイスに逆に聞きたいよ。カヤノちゃんとはどういう関係? こんな小さな子を連れて旅をしてるなんて、よっぽどの理由でしょう?」


「うーん、何といえばいいのやら……」


 カヤノを間に挟んで、僅かにとげを含んだ質問を投げかけるサクに、カヤノが言い澱む。サクはじいとサイスの目から視線を逸らさず、きちんとした回答を待つ。


「おい、サクちゃん」


 カヤノがサクの腕の中で身をよじり、気付けば彼女のことを仰ぎ見ていた。

 胸を押しつぶされる感触に、何事かと見下ろすサクと視線がかち合う。


「勘違いをしているようだが、サイスくんが連れまわしているんじゃないぞ。オレがサイスくんを連れまわしているのだ。サイスくんは解説役で子分なのだ」


 ふふは、と屈託なく笑うカヤノに釣られるようにサクも目じりをやわらげた。視線を上げれば、サイスもそれでいいやと言わんばかりに笑みを浮かべている。


「こんな感じだよ、サク。それでカヤノさん、北の森に行くって漠然と言いますけど、何か当てはあるんですか? モンスター退治とか嫌ですよ?」


「しないぞ? サイスくんこそ何を言ってるんだ?」


 きょとんと首を傾げたカヤノに、サイスも同様に首を傾げた。

 サイスは自分の言葉に自信がなくなったのか、先ほどのやり取りを一字一句思い出すように、眉間に皺を寄せて頭を悩ませる。

 特におかしな点も見つからず、さらにもう一度、とこめかみに指をあてる。


「やれやれ。森の規模を見ちゃいないが、相手のホームグラウンドで殲滅戦とかやるわけないだろ?」


「私は何も聞かされてないから……」


「うう。カヤノさんのことだからやりかねないと危惧しただけなのに……」


 散々に馬鹿にされて、サイスが気落ちして肩を落とす。


「まったく……。北の森には原因を探りに行くんだよ」


「え、でも0から調査してるほど時間は無いんじゃ?」


 カヤノが脅したように、村に見切りをつけるタイミングはそう遠くなかった。サイスもそれは理解しているようで、原因を探るなどと悠長な案に眉をひそめるばかりだ。


「当てはある。だいたい、一度は村を囲んだモンスターがそのまま村を押し潰してないんだ。自発的に攻めてる訳じゃないのは自明だろ?」


「つまり、モンスターは外敵に襲われて人里まで降りてきたって事でしょうか?」


「その通り。オレらがその原因を排除すれば問題は解決だ。アホみたいな数のモンスターを相手にする必要もない。はい、拍手ー」


 ぺちぺちと自分で手を叩いて、カヤノが露骨に称賛を要求した。

 サイスは馬鹿みたいにぽかんと口を開けたまま、愚直に拍手する。一方、サクは反応がない。仕方ないのでカヤノが彼女の腕を取って無理やりに手を叩かせる。


「サクちゃんはどうした? もっと褒めてもいいんだぞ?」


 ぐりぐりと頭をこすりつけて、サクの反応を待つが、一向に返ってこない。無反応のままだ。不思議に思ったカヤノがサクの顔を見上げる。


「そっか。お父さんはただ様子を見に行っただけじゃないのかも。カヤノちゃんの推論通り、何かがあって、それを今は追いかけているのかもしれない」


 サクが納得したように小さく頷く。目には力が宿り、カヤノにされるがままになっていた両腕を手元に引き寄せ、拳をぎゅっと握りしめる。


「よし、カヤノちゃん。私も付いて行くからね」


「……、サクにちゃんと許可取ってなかったんですね」


「うーむ」


 今更の意思表示に、サイスが呆れたようにカヤノの方を見た。

 カヤノもカヤノで、鉄火場に今まではなんとなくで付いてきてたというサクの流されやすい一面に、ちょっとだけ戦慄した。人がいいのレベルで片づけられない危うさだった。


「よし、目的も決まったし、出発しよう。おー!」


「おー」


 サクがカヤノの腕を取って、一緒に天へ突きあげる。

 なんとなく気圧されて、カヤノも追うように声を出した。


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