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僕たちは愛の兵器  作者: けお
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愛の殺戮兵器 Ⅱ

「大丈夫? さっき思いっきりずっこけ」

「いやもう大丈夫だ気にしなくていいぞ。」


先程、サノと二人で部屋に戻ってくる途中、ボロボロの床でも特に腐って脆くなっていた場所にサノが足を踏み込み、床が抜けるも同時にそのまま床へヘッドスライディングした。その後は私がサノをおぶって部屋に連れていき今に至るのだが、サノが赤面しているのは何故だろうか。


ああ、単に恥ずかしいだけか。そういうところは女の子らしい。


私は「ぷっ」と声を潜めて笑ったつもりだったが、背中に嫌な視線を感じていたので、まあそういうことだろう。


「あー、でさ、サノ。」

「ん? どうした。」

サノの真っ赤に赤面した先程の顔はすっかり艶が目立つ元の綺麗な顔に戻っていた。

「サノはなんでここに来てたの? 私がここにいることを知ってたの?」

「ああ、俺は3年間ずっとカナデの世話をしてきたんだ。大体1週間に1回のペースだったと思うぞ。」

なる程。その1週間に1回というのが今日だったのか。

しかし、気になることがいくつかある。サノは私の世話をしていたと言ってたが、やはり私の体には何か異常があったのだろうか。まあそうでも無ければこんなボロ臭い入院服など着ないだろうし、病院にもいないだろう。


そして、もう一つの疑問。


「その……3年間ってどういう意味なの?」

「ああ、そのことなんだが、丁度話そうとしていたところなんだ。話すのは病院の外になるんだがいいか?」

「あ……うん。」

―3年間。その言葉にはどういう意味が込められているのだろうか。

そんなことを考えつつ、私はバナナの山の底に埋もれていた、一番黄色がかっていて、シュガースポットの目立つバナナを1本手に取り、サノと共に部屋を後にした。




私たちが歩を進めるのに比例して、廊下の蛍光灯は徐々にその光を増していく。薄緑のその光は、私たちを取り巻く闇を照らす神々しいものに思えた。これは暗闇に慣れているせいなのか、はたまた光を随分目にしてないからだろうか。

あの部屋を出て10分程経っただろうか。私たちの目の前に扉が現れた。しかしその扉も床と同じ木で作られており、まあ、趣があるとでも言っておこう。

サノはポケットに手を突っ込み、チャリンと鍵を取り出すと、それを鍵穴に差し込む。カチャリと音が廊下に響いた。


倦怠感が積もるような寒さを降らす雪がそこにはあった。

見渡す限り私の視界に入ってくるのは、真っ白に染め上げられた山だ。足を踏み込むとザクッという音と共にその足も山に同化するように白い雪に埋もれていく。

「ははっ。お前そんな格好じゃ寒いんじゃないか?」

声の方へ振り向くと、マフラー、手袋、ニット帽という寒さ対策三拍子と言わんばかりの道具を着こなしたサノがそこにあった。

「か、格好? わわ私そ、そそんなか格好、へ変かな?」

確か私の服装は半袖半ズボンだったはず。

この服装のどこが変……


あ、うん。変だ。

いや、こんなの傍から見てみろ。半袖半ズボンで寒さに震えている女子の隣で寒さ完全対策してニヤニヤしている女子がいるのだ。


いじめにしか見えないではないか。


「ははっ、大丈夫。お前の分も持ってきてるからさ、まずは着ようぜ。」

そう言うサノはバックをガサガサといじると、私に毛皮フサフサのコートを差し出した。


ああ、あったかい。

体に押し寄せる冷気を遮り、尚且つその毛皮というフサフサの最高の素材が冷えきった体を柔らかく包み込む。

かつて私の人生でここまで幸せというものを感じたことがあっただろうか。

「あ、ありがとう。サノ。」

「何かしこまってんだ。ずっと世話してきたんだ。そんくらいどうってことねえよ。」

サノはそう言うと背中をドンッと叩き、顔に笑みを浮かべた。

何故だか私も可笑しくなって、悴んだ口角を何とか笑顔へと近づけた。 サノには私の表情はどのように見えただろうか。笑顔に見えていたら嬉しいな。


「さ、じゃあ行くか。」

「うん。確か、ミズキの家だったよね?」

「ああ。雪がひどくなる前に何とか辿り着きたいな。」

そう。これから友達であるミズキ―瑞生啓也(はるや)の家に向かう。

そこに訪れる私には、いや、そこに集う私たちには1年というタイムリミットが迫っていることなど知る由もなかった。







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