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6³の影滅者たち  作者: 鵺刃 上
14/14

初任務~当日・夕方

「ど、どうしよ……出られ、ない……」

 通りを流れる人々と車の波。

 警察によって封鎖された路地を横目に素通りする通行人たち。

 数哉はその100メートルほど先にある活気溢れる通りを眺め、項垂れる。

 目の前には見えない壁があり、先に見えるその通りへの行く手を阻んでいた。

「結界、ってやつなの、か……」

 数哉は結界壁に背を預け、崩れる様にその場にへたり込む。

 無理もないことだった。数哉はこの負傷した右肩を手当てしようと病院や薬局を探すこと数時間、どこも閉まっていて入る事ができずにいた。それに加え、この結界壁に阻まれる始末。

 数哉は通れる箇所はないかと結界壁に沿って歩いたが、今の所は通れず終いだった。

「警察が封鎖、ってことは……やっぱり、6³は公的機関、なんだなぁ……」

 先に立つ数人の警官とその傍に停車しているパトカーを一瞥すると、数哉はしみじみと呟いた。

「さ、寒い、な……洒落に、なら、ない、かも……」

 数哉は震え出す体を縮こませ、目を何度も強く瞬き、ぼやけ始めた視界を正そうとする。

 パーカーの袖を千切って作った止血帯で出血を抑えているとはいえ、かなりの血を失ってしまっている事には変わりはない。さらに歩き続けた疲労も相まり、数哉の身体はもう限界を迎えていた。

「はは……初陣で死ぬって……短い、人生でし、た……」

 突如として迫り来る睡魔に抵抗する事もなく地面に倒れ込み、数哉は苦笑しながら目を閉じた。

 その数秒後。

「…………おいおい。誰か倒れてるぞ?」

 首にリンクキーパーを下げて白いコートを着た二十代位の二人の男女が、倒れている数哉を見つけて駆け寄る。

「ん? あれ? 一般人?」

「だろうな。まぁ、今回は300m範囲の結界だったからな。そりゃ避難洩れもあるだろ」

「だね。やっぱり戦闘後の見回りは重要ってことね」

 二人はよく似た狐目を見合わせ、しみじみと頷いた。

「とりあえず、コイツの手当てをしないとな。死にかけてるみたいだし」

 男は屈んで数哉の脈を計ると、ソフトモヒカンの茶髪を撫で付け、女に振り返った。

「手当てした方がいいね」

 中腰で覗き込んでいた女が男の言葉に頷き、そう答えると。

「じゃあ、由迦ゆか。やってくれ」

 男は立ち上がりながら女の肩をポンと叩いて、そう言った。 

「え? 私が? なんで?」

 女が腰に手を当て首を傾げると、三つ編みに結った黒髪がユラユラと揺れた。

「なんでじゃねーよ。男の手当てを俺がやるわけないだろ?」

「は?! 私だってこんなオッサンの手当てをしたくないよ!」

 由迦と呼ばれた女性は信じられないと言いたげな目つきで男に詰め寄った。

「おいおい。どう見ても二十歳前後の男だろ? オッサンじゃねーよ」 

「十六歳以上はオッサンだよ! 何言ってんの?! バカなの? バカ?! バカでしょ?!」

 数哉を一瞥して面倒臭そうに答える男に、由迦は立てた指を男の額に突き付け怒気を荒げる。

「あー! うるさい! いいから早く手当てしろ! 死んじまうぞ?! オッサンだからって見殺しにしたって婆さんに言いつけるぞ?!」

「な?! 卑怯よ! 由斗ゆうとの方こそ、コイツが男だから手当てしようとしないくせに!」

 由斗と呼ばれた男が額を突く指を振り払い告げ口を示唆すると、由迦は地団太を踏んで抗議する。

「ふっ。女でも四十歳以下なら手当てはしたくないな」

「なにカッコつけてんのよ! やっぱりバカだ! バカっ! キモっ!」

 ソフトモヒカンを撫で付けながら遠い目をする由斗に、由迦は蔑んだ眼差しと悪態を浴びせる。

「バカはお前だ」

「バーカ! バーカっ! 熟女バーカ!」

「ふっ。ショタバカに、バカ呼ばわりされたくないね」

「……はいはい。それぐらいにしてくださいな。お馬鹿ツインズ」

 綺麗に禿げ上がった頭に白いコートを着た初老の男がパンパンと手を叩きながら歩み寄り、二人を制止した。

「お、お馬鹿?!」

「ツインズ?!」

 初老の男の言葉に、揃って目を丸くする由斗と由迦。

「彼は一般人ではありませんよ。新入りの方です」

 そう言って、初老の男が数哉の傍に屈むと、その首元から十字架の付いたリンクキーパーが揺れ落ちた。

「新入り? マジ? 仲間なの?」

「ん~? あっ! そうだそうだ! ブリーフィングの時に美紅(ねえ)とイチャついてた人だ!」

 由迦が改めて数哉の顔を覗き込み、何度も頷きながらそう言った。

「まぁ、イチャついてたのどうかは分かりませんが、その方ですよ。しかし、見たところ容態が思わしくありませんね。早急に手当てしてあげてください」

 初老の男は良く磨かれた自分の頭を一度摩ると、二人に振り返った。

「ふぅ。まあ仕方ないか。氷河ひかわさんの頼みなら断れないな」

「だね」

 由斗と由迦は揃って肩を竦めると、数哉の傍に座り込み、その身体に両手を当てて目を瞑った。

「お二人のヒーリングですぐに傷は塞がるでしょう。しかし、多くの血を失ってるようなので輸血が不可欠です。救護を要請してきますので、引き続きよろしくお願いしますね」

 氷河と呼ばれた男は二人が揃って頷くのを横目に懐からスマホを取り出すと、造作なく結界の外へ出て行った。

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