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6³の影滅者たち  作者: 鵺刃 上
12/14

初任務~当日・午後-2

「6³、か……良い組織だよなぁ」

 堕天使を見上げながら、数哉はしみじみと呟く。

「給料貰えるし、影滅者の仲間もいるし、なにより、ドストライクな人もいるし、へへ……ごほんっ!」

 負傷した肩から血を流していながらもニヤついてくる顔を、数哉は咳払いして正した。

「身に余る力を携えしは滅びの末路。脆弱なる者達よ。媒体を渡すのだ。さすれば滅びは免れん」

 堕天使が辺りに響き渡る低音クリアボイスで誰にともなく語り掛ける。

「えーと。何か難しいこと言い始めたな……どうしよ……」

 数哉は堕天使の言葉に戸惑いながらも、辺りを見回し、他に誰かいないかと改めて確認した。

「猶予は皆無。いまこそ媒体を渡すのだ。さもなくば、我が手で滅びを与えてくれよう」

 堕天使は何処からともなく取り出した仄かな輝きを放つ矢を弓に番え、天に向けて構えた。

「あ、ヤバっ!」

 堕天使の構える弓が煌々と輝き出し、その輝きが鏃へと収束し始めるのを見とめると、数哉は物陰に隠れようと、路肩に止まった車の列へと慌てて走り出した。

「我が声に応えよ!」

 堕天使は数哉に照準を定め、辺り一面を白く照らす程に輝く光の矢を放った。

チュッ、ドオォーーーンっ!

「おわぁっ?!」

 咄嗟に地面へ飛び伏せ、直撃を避けた数哉は、十数メートル先で発光を伴う爆発と共に宙を舞う数台の車を見上げ、驚愕の声を洩らす。 

「脆弱なる者達よ。媒体を渡すのだ」

 堕天使はそう言って、虚ろな眼差しで数哉を見下ろす。

 どういうわけか、舞い上がった車が次々と地面に叩きつけられるという轟音の中でも、堕天使の言葉ははっきりと数哉に届いていた。

「……なぁ! 媒体って、何だ?!」

 数哉は堕天使の動向を窺いながらゆっくりと立ち上がると、堕天使に向かってそう尋ねた。

「欺瞞者よ。愚かなり」

 堕天使は憂いの籠った口調でそう言うと、徐に、鈍色に輝く矢を番えた。

「おいおい、質問しただけだろが……くそ、こうなったら……殺られる前に殺れ、だな」

 堕天使の構える弓が眩い光に包まれるのを見据えながら、数哉は血塗れの左手を空に掲げた。

「神様よ。天使様よ。仏様よ。俺に力を……この目の前にいる化物を……ぶちのめす力をくれっ!!」

……ザシュゥンッ!

 願いの言葉に答える様に、空から一筋の光が走り、数哉の目の前に光輝く剣が突き立てられた。

「貴様……その剣は?」

 数哉は問い掛ける堕天使を見上げながら左手をパーカーで拭い、その手で剣を引き抜くと。

「さぁな! 言っておくけど、これで終わりだからな!」

 そう言って、剣を一振りした。

「……ん? あれ? 何か、違う……」

 数哉がそう呟き、剣に視線を移した時。

バシュシュシュシュシュッ!

 幾本もの光の矢が、数哉めがけて降り注いだ。

「わっ、と、とっ!」

 数哉は降り注ぐ光の矢を飛び退き転がって、全てを回避した。

「焦ってやがるな! 狙いが甘いんだよっ! へへっ!」

 険しい表情で弓を構える堕天使を見上げ、数哉が鼻で笑うと。

ブゥゥオォォォォンッ!

 堕天使が、辺り一帯を揺るがす様な振動音と今までにない程の輝きを放つ矢を弓に番え、数哉に照準を合わせると、その鏃がことさら眩く輝き始める。

「うわ。ヤバい」

 数哉はそう呟くと、剣を地面に突き立て、ベルトのバックルをまさぐり、忍ばせていた五円玉を取り出した。

「我をっ!」

 数哉が五円玉を空に掲げて叫ぶと同時に、閃光を放つ矢が放たれた。

「護りたまえっ!」

 次の瞬間、轟音と共に砂塵が舞い上がり、数哉がいた場所を中心に直径十メートルほどのクレーターが出来上がった。

「……へへ。うまくいった……よかったぁ」

 ぼんやりとした光に全身を包まれた数哉はホッと息を吐きながら、地に突き立てられた剣を引き抜いた。

「それじゃあ、今度こそ終わらせようか……と、その前に……」

 数哉は剣を持った手で首に掛けたリンクキーパーを取り、そのまま地面へと放った。

「こいつのせいかな」

 そう呟くと同時に、数哉が手にした剣の刀身が燃え盛る炎に包まれた。

「予想通りっ! ……さて、今度こそ!」

 剣を構えて対峙する数哉に、堕天使は数十本もの光の矢を一度に撃ち放った。

「無駄っ!!」

 雨の様に迫り来る光の矢に構うことなく、数哉は剣を振り上げる。

ゴオウゥゥゥゥゥンっ!

 轟音をあげ、天まで突き抜けるほどの炎の柱が、光の矢と共々に堕天使を貫いた。

「……やった、か?」

 断末魔も上げず頭から落ちていく堕天使から目を離さずに、数哉は剣を構え直す。

「……身に……余る、力を……滅び……我が、願いは……叶わ、ず」

 炎に包まれた身体を地に落とし、堕天使は燃え上がる両手を空へと伸ばし、そのままの姿勢で絶命した。

「……ふぅ……良かった良かった」

 灰となった堕天使の身体が黒い粒子となって掻き消えるのを見届けると、数哉は剣を下ろし、天を仰いだ。

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