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お坊ちゃん、伝説の英雄ナディに会う


首都エレメントから西に数日行ったところにあるコロンボ町に、シルバーは来ていた。

「ここに来るのも久しぶりだなぁ。懐かしいよ」

シルバーは辺りの光景を見て目を細める。彼は子供のころ、何度かこの地を訪れていた。

「ここと隣のエルフ村は、ナデイ姉さんの領地なんだよな。昔と比べてずいぶん発展したなぁ」

町の様子をみてくすりと笑う。郊外は豊かな農村の風景が広がっていたが、町の中心部はいくつか近代的な建物が並んでいた。ここには四大財閥のひとつ、ナディ商会の本社があるのである。

町の中心街にある、コンクリート製の大きな建物の最上階で、シルバーは自分の姉と面会した。

「……シルバー。私にお小遣いばかりせびっていたあなたが、働く気になってくれてうれしい」

豪華なソファに座っている、艶やかな黒髪、白い肌の絶世の美女ナディが笑いかける。彼女の耳はシルバーと同じく、少しとがっていた。

「姉さん。昔のことは言わないでくれよ。俺も反省しているんだから」

シルバーは姉を前にして、少し決まり悪そうにしている。姉ナディは年が離れた弟を愛し、甘やかせていたので、それがシルバーをやんちゃにさせていたという面もあった。

「……それで、私に何を聞きたいの?」

「えっと……竜者リトネと運命のヒロインたちが力を結集して、大魔王を倒すまでの冒険は物語になって世間に広まっているけど、英雄たちのその後のことはあまり知られてないようなんだ。それを聞きたい」

シルバーの言葉を聞いて、ナディは少し考え込む。そして、ゆっくりと話し始めた。

「……大魔王を倒してから、私は第一王妃として王宮に入った。それからしばらくして、リヒャルトが産まれたんだけど……」

本人は子育てに専念したかったのだが、すでにそのころはナデイという存在が大きすぎて、商会や領主としての仕事をやめることができなかったという。

やむなく子育ては乳母に任せて、ナディは家臣であるドロンや、従姉妹であるナフィと協力して商売に励む。気がつけば、多くの食料を取り扱う商店を傘下に収めた大財閥になっていたのだった。

「いつのまにか商人たちが、私が作った倉庫の近くに集まって商売をするようになった。そこでスペースが足りなくなったので、大きな建物を作ってみんなが中で商売することにした」

ナディを中心として発足した「ショッピングモール」という販売形態は、瞬く間に全国に広がる。いまや彼女は大金持ちになっていた。

「そ、そうなんだ……」

「これも全部リトネのおかげ。もしリトネに出会わなかったら、私は確実に現実を見ないで自分の正義ばかりおしつける悪女になっていた」

ナディはしみじみと過去の自分を振り返る。今の彼女はただ単に金を稼いで自分で溜め込んだり贅沢をしたりするのでしはなくて、稼いだお金を寄付したり、社会貢献活動に資金提供したりとりっばに有意義に使って、大勢の人を救っていた。

「……私はリトネに出会えて幸せ。彼こそが真に世界を救った勇者」

ナディはうっとりとした顔で目を輝かせる。その表情は少女だったころ、物語の勇者に単に憧れていただけの物とは違い、心の底からの尊敬が現れていた。

「は、はあ……ごちそうさま」

姉に惚気られて、若干居心地が悪くなったシルバーに、ナディはニヤリと笑いかける。

「……シルバー。私たちの商店のことを記事に書く。そうしたら、もっとお客さんが来てくれる」

今度は一転してビジネスマンの顔になって、シルバーに要求するナディだった。

ナディへの取材を終えた後、シルバーは王国首都エレメントのショッピングモールを訪問してみる。

「シルバーお坊ちゃま。どうぞ隅々までご覧ください」

店長のナフィの案内で、巨大なモールを取材する。そこでは大勢の買い物客で賑わっていた。

たくさんの高級そうな品が、綺麗な店で売られている。

「お客様には、こちらの服がお似合いですよ」

綺麗な制服を着た容姿端麗なエルフが、上品なマダムに服を売りつけている。

「へえ……綺麗な服ねぇ」

「そうでしょう。これは伝説の『天蜘蛛の布』が一部に使われている逸品ですよ。そのぶんお値段は張りますが、お客様のような上流階級にはふさわしいかと……」

「ふふ。ならいただくわ」

販売員におだてられて、マダムは気前よく購入を決めるのだった。

「……ここでは、あんな伝説級のアイテムも売っているんですか?」

竜者リトネのパンツにも使われているという伝説の布の名前を聞いて、シルバーは驚く。

しかし、ナフィは面白そうに笑った。

「ええ。最近では蜘蛛族の方の中に『天蜘蛛の糸』を作れる方も増えてきましたからね。とはいっても、使われているのはほんのちょっぴりですが。我が商会でしか取り扱いできない、最高級の商品ですわ。大いに宣伝してください」

「は、はい……」

ナフィの勢いに圧されがちになるシルバーだった。



そのころ、フブキは営業活動に乗り出していた。

まず最初に、最もコネが使える商会を訪問する。

「シルバーお坊ちゃまの部下の方ですね。彼はお元気ですか?」

満面の笑みを浮かべて迎えてくれたのは、倉庫業やアイスクリームの販売などから発足して、食料部門の大商社・大手販売業となっているナディ商会のアンデス領支社長、ドロンだった。

彼女はオーナーである第一王妃ナディを支えて20年にもなり。今では立派な支配人である。

「はい。新聞という新しい事業を立ち上げるために、元気にあちこち走り回っています」

フブキの返答を聞いて、ドロンは懐かしそうな顔になる。

「やはりナディ様の弟君ですわね。私たちも昔は冷凍倉庫の事業を発展させるために、あちこちに出かけて交渉したものだわ。中には理解してもらえなくて、悔しい思いをしたことも……」

昔のことを思い出して遠い目をするドロンに、フブキはさっそく営業を始めた。

「早速ですが、相談があるのですが……」

フブキは、自分たちが作る「新聞」というものを店頭に置いてほしいと頼み込む。

「新聞ですか……要は大衆向けの情報誌なのですか?しかし、売れますかね?」

首をかしげる彼女に、フブキは熱意を持って説得した。

「確かに今の社会にはないものです。しかし、異世界の日本では一般大衆にも根付き、広まっています。世の中に起こっていることを知りたいと思うのは、人の情として当然かと」

「ですが……」

「お願いします。それに、これが広まれば、皆に知ってもらいたいことを迅速に広めることもできます。そうなれば、きっと商売の助けにもなると思います」

フブキは熱心に頼み込んでくる。彼女は真剣に仕事に取り組んでいた。

「……わかりました。ともかく、やってみましょう」

熱意に負けて、ドロンは頷く。ナディ商会の経営するショッピングモールや店舗に、新聞が置かれることが決まるのだった。

しかし、このようにうまくいった場合ばかりではない。

「『新聞』だって?だめだめ!そんなの売れないよ!」

リトネから与えられたリストを元にフブキは訪問するも、大商人たちは話を聞くと笑って手を振る。

「……少しだけでも置いていただけませんか?」

「……まあ、少しだけなら。そんな道楽、商売になるとは思えないけど、シャイロック金爵家のお坊ちゃんが始めたことだしな」

それでも、大抵の商会はシャイロック家のコネが効いて置いてくれることになったが、中にはバカにしてあざ笑ってくる者もいた。

「なんだ。シャイロック家の使いと聞いて会ってみたら、ただの小娘か。帰った帰った。うちは忙しいんだ」

「……わかりました。ですが、お気持ちが変わったらご連絡を。これは連絡先です」

フブキはバカにされても怒らずに、名刺と連絡先が書いた紙を渡す。

しかし、中にはフンっと笑ってゴミ箱に捨てる者までいた。

(面白いわね。進取の精神を持っているのか、それても保守的になって新しい事を受け入れられなくなっているのかがよくわかるわ。サブロウお父様に、各々の商会の印象を情報として伝えないと)

フブキは新聞の営業という名目で各商会を回り、そこで得た情報を諜報部に伝える。

彼女も一流の諜報員として、活動していたのだった。

もう少しで四巻が発売されますので、よろしくお願いします


書籍未掲載部分はこつらのサイトで公開しています


https://www.alphapolis.co.jp/novel/692115556/894069504/episode/569976

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