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第9章ー2

「スペイン国民派政府とバスク自治政府との停戦協定、及びスペイン国民政府のバスク自治政府承認協定の調印式典は、明日だったな」

 土方勇志伯爵は、独り言を言った後、思い立って、ゲルニカの街にあるオークの木、ゲルニカの木を見に行くことにした。

 いうまでも無く、ピエール・ドゼー大尉を長とし、アラン・ダヴー少尉が所属している警護分隊も同行することになる。


「これが、あのゲルニカの木か」

 オークの木から少し離れたところで、土方伯爵はたたずんで、その木を見やった。

 本来なら、もう少し近くで眺めたかったが、異民族の自分がその木に余りにも近づくことは、バスク民族主義の象徴ともされるゲルニカの木に対し、不敬というか、そんな気が土方伯爵にはしてしまったのだ。


 ゲルニカの木、それは、19世紀前半まで行われたビスカヤの自治を尊重するという領主(時代が流れる内にその領主は、ビスカヤ伯からカスティーリャ王に、更にスペイン王にと変わっていった。)の誓いが行なわれる場所に植えられている木のことである。

 時が流れる内に、実際の誓いはゲルニカにあるバスク議事堂で行われるようになっていき、ゲルニカの木はバスク民族主義の象徴と化していったが、大変重要な木であることは間違いなかった。

(ちなみに植え替えにより、代替わりが行なわれており、1937年当時のゲルニカの木は3代目である)


「バスク自治政府が、ここで各協定の調印式を行いたい、といったのが分かる気がするな。それだけの歴史の重みがここにはある」

 土方伯爵は、更に想いを馳せた。


 アラン・ダヴー少尉は、万が一に備えて、周囲に目を配りながら、土方伯爵の姿を横目で見て、つい、いけないことだと考えつつも、考えるともなく考えてしまった。

 バスク民族は、フランスにもいる。

 スペインのバスク民族が自治を認められた以上、自分達も、という考えを起こしたりはしないだろうか。

 また、北西アフリカやインドシナ等、母国フランスは広大な植民地を世界に持っている。

 植民地にいる各民族が、民族主義に目覚め、民族の独立、自治を求めたら、どうなるのだろう。


 そして、ピエール・ドゼー大尉は、とダヴー少尉は更に想いを巡らせた。

 戦場で部下が死ぬのは予め分かっていたとはいえ、ドゼー大尉は5人の部下が実際に戦死したのがショックだったようだ。

 まだ、完全には割り切れないらしく、どうも眠りが浅い、とドゼー大尉は先日、ぼやかれていた。

 早く心が割り切れればいいが、だが、自分だと割り切れるだろうか、ダヴー少尉の想いは絶えなかった。


 無言の時がしばし流れた後、土方伯爵は宿舎へと歩み、ダヴー少尉達もそれに続いて歩んだ。


 翌日、ゲルニカで、表向きはビトリアの司教を公式の立会人として、バスク自治政府とスペイン国民派政府は、バスクの自治を認め、停戦するという各協定を結んだ。

 ちなみに詳細は、後日、決めることとされており、暫定的な協定だった。

(バスク自治政府の領域すら、正式にはこの時、決まっておらず、お互いに都合のいい解釈をしており、最終的には、内戦終結後、住民投票で過半数を得た県が、バスク自治政府の下に入ることになった。その結果、過半数を得られなかったナバラ県は、単独でナバラ州を構成し、バスク自治政府の下には入らなかった。)

 その後も、自治拡大を求めるバスク自治政府と自治縮小を求めるスペイン国民派政府はせめぎあうことになるのだが、ともかくこの協定締結の瞬間、北部戦線は事実上、消滅した。

 

 そのため、北部戦線のスペイン共和派の熱心な支持者、数十万人は、バスク自治政府の黙認の下、フランスへ難民として脱出した。

 そして、フランスを悩ませることになった。

 本当は暫定協定締結の場には、土方伯爵を始め、日英伊の人間も立ち会っているのですが、表向きはいないことになっています。

(日英伊は、公式にはスペイン内戦で中立の立場にあり、バスク自治政府とスペイン国民派政府の交渉には無関係ということになっています。大嘘なのは、分かる人なのは分かっているレベルですが。)

 ですが、今後のバスク自治政府とスペイン国民派政府の戦後の交渉の際、介入しないといけない事態が発生することを懸念して、土方伯爵らが事実上います。

 実際、本文中にもあるように、スペイン内戦終結後、バスク自治政府とスペイン国民派政府は、長年にわたってせめぎ合い、ローマ教皇庁や日英伊は仲裁することになります。


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