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第8章ー14

 遂に、アラン・ダヴー少尉は、実質的な初陣を飾り、実際の戦場に立つことになります。

 そのような策謀が巡らされているとは、露知らないまま、アラン・ダヴーら日系人義勇兵中隊は、オビエド東方において、初陣を飾ろうとしていた。


 土方伯爵と石原莞爾大佐が立てた当初の計画では、日本人義勇兵旅団2個を先鋒に、「白い国際旅団」の総力を投入して、オビエドを一挙に落そうという目論見だった。

 だが、トハチェフスキー元帥らのソ連軍軍事顧問団は、オビエドを巡る攻防戦が、北部戦線の帰趨を決める戦いになると考えており、ガリシア地方の共和派軍の主力を、オビエドに後退させると共に、カンタブリアやバスクから引き抜けるだけの共和派軍の兵力を引き抜いて、オビエドに投入しようとしたのである。


 だが、兵を移動させる困難さ(物理的要因のみならず、北部戦線で共和派に参加していた諸部隊は、故郷から離れるのを心情的要因から嫌がった。)から、トハチェフスキー元帥の目論見通りには、共和派の軍はオビエドに集まらなかった。

 だが、それでも、オビエドに籠城した共和派の部隊は2万近く、更にオビエド救援のために、カンタブリアやバスクから駆け付けてきた部隊は4万近くになったと推定され、当時、北部戦線に展開していた共和派軍の兵力は10万程と見積もられていたから、その過半数がオビエド近郊に集まっていたと言っても過言では無かった。


 一方の国民派の戦力だが、オビエド近郊に集まった「白い国際旅団」が2万近くであり、それ以外のスペイン国民派の諸部隊が4万人余りと言ったところで、量的には、ほぼ同数だった。

 だが、質的には、ほぼ圧倒していると言っても過言では無かった。


 共和派軍の主力は、労働者を組織した民兵であり、オビエド市防衛の任務には耐えうるだろうが、国民派に対する秩序だった攻撃を行うには、心もとない部隊が多くを占めていた。

 それに対し、国民派軍は、スペイン人の部隊は軍人がほぼ占めており、「白い国際旅団」にしても、土方伯爵らが手塩にかけて、猛訓練を施す等の対策を講じたため、スペイン軍とそう引けを取らない、と評価される状況にあった。

(戦後のある調査によると、治安警備隊や突撃警備隊といった準軍人まで含めても、このオビエド攻防戦に参加した共和派軍の中で軍事的素養があると言えたのは、半分もいなかったという。)

 オビエド攻防戦は、その差が現出することになった。


「あいつら、正気なのか」

 ダヴー少尉は首を振りながら、指揮下の小隊を手足の如く動かして、共和派軍の攻撃を跳ね返していた。

 塹壕を巡らせる等して、地形をフル活用して守る自分達のこの陣地を、共和派軍が抜けるとは思えない。

 共和派軍の攻撃は、砲爆撃とまともな連携が取れていないわ(ダヴー少尉の目の前で、共和派軍の部隊が誤爆で吹き飛んだことさえあった。)、地形を活用しての匍匐前進ができないわ、という有様なのだ。


 一方の自分達は、敵の砲爆撃の間は塹壕に身を隠すことで耐え忍び、地形を活用しての狙撃等で、敵が前進してくるのを阻んでいる。

 38式歩兵銃を実戦で撃ってみて、威力がやや足りない、ということを実感し、教官を務めたある日本海兵隊士官が、もっと大口径の小銃が、本当は要るんだがな、の意味を痛感しもした。

 また、火力不足から、軽迫撃砲を自分達が使えれば、とも思った。


 だが、自分達の射撃は、ほぼ敵に当たり、負傷させているようだ。

 味方の兵が負傷すると、どうしても救護せねばならない。

 1人の負傷兵を助けようとすると、2人の無傷の兵を、大抵の場合、救護任務に充てねばならなくなる。

 見様によっては、38式歩兵銃は、相手を殺すよりも負傷させる嫌な兵器だった。

 そして、敵の攻撃を度々阻むうちにダヴー少尉は自信を積み重ねた。

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