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第8章ー7

「それ以外の点はどうなのだ」

 ピエール・ドゼー大尉は、アラン・ダヴー少尉に返答を求めた。

 ドゼー大尉の顔に、苦笑めいた表情が浮かんでいるのに気づいたダヴー少尉は、本音で語ることにした。

「体力だけは、その年齢だけあって、問題ないと言えますが、それ以外は実戦投入できるか、というと正直に言って躊躇いがありますね」

「やはり、そういう結論になるか」

 ドゼー大尉は、ダヴー少尉の答えを聞いて、表情を得心したようなものに変えた。


 日系人義勇兵中隊は、4個小隊から成り、その各小隊は、4個分隊(班)から成っていた。

 土方大将ら、日本人義勇兵旅団の指揮官たちは、日系人義勇兵中隊を、日本人義勇兵第1旅団の第3歩兵大隊の第4中隊とし、総予備的な扱いにしていた。

 その理由は極めて簡単明快で、日系人義勇兵中隊には、実戦経験者が皆無であり、年齢的にもほぼ同年代の20歳になるかならないかの若者が揃っているため、実際の戦場への投入を、土方大将らはできる限り避けたいという心理が働いたからである。

(後、表立っては、決して言えないが、自分の肉親(かもしれない若者)を、できる限りこんな戦場、内戦には送り込みたくないという心理が、土方大将らの内心に去来していたという理由もあった。)


 そして、各小隊は、土方大将らの考えとしては、3個軽機関銃班と1個軽迫撃砲班から編制したいと当初は考えられていた。

 50ミリ級の軽迫撃砲による火力支援の下、軽機関銃を活用しながら、小隊、中隊単位での部隊を運用して行くという発想である。

 幸いなことに、スペインでは50ミリ級の軽迫撃砲を国産化しているという事情もあった。

 だが、実際に中隊、小隊を編制して、訓練を施してみると上手くいかなかった。


「やはり、軽迫撃砲は射撃がうまくいきません。素人の集まりですから、止むを得ない所もありますが、どうも、日本人士官の話でも、軽迫撃砲は射撃が難しいようですね」

 ダヴー少尉の言葉に、ドゼー大尉は肯いた。

「後、どうも軽機関銃手になった人間が、弾をばらまく傾向があります。もう少し射撃の腕を向上させ、弾を節約させる必要がありますね」

 ダヴー少尉は、言葉をつなぎ、それにもドゼー大尉は肯いた後、言葉を発した。

「他の小隊長からも、似たような発言を聞いている。それでも、軽機関銃の方がマシだろうな。全ての班を軽機関銃班とし、砲兵の火力支援は、大隊レベルの中迫撃砲や、それ以上に頼らざるを得ないかな」

「止むを得ないかと考えます」

 ダヴー少尉は、ドゼー大尉の言葉に同意して、そう言わざるを得なかった。


「それにしても、近々、戦場に赴くというのに練度不十分と言うのはつらいな」

 ドゼー大尉は、意を決したのだろう、遂に口を開いた。

 ダヴー少尉も、それまでの会話で薄々察してはいた。

 いよいよ、自分達も実戦に投入されるのだ、そのためにドゼー大尉が、日系人義勇兵中隊の現状を、各小隊長に確認しに来たのだ、ということに。

 ドゼー大尉にしても、それなりに各小隊の現状を把握はしている。

 だが、小隊長の認識と自分の認識が一致しているか、確認の必要があると考えたのだろう。

「どこに我々は向かい、どこの戦場に投入されるのですか」

 ダヴー少尉は、興奮して、ドゼー大尉に問いただした。


「ア・コルーニャだ」

 ドゼー大尉の答えは、ダヴー少尉の意表を衝いた。

 ダヴー少尉は、マドリード攻防戦に自分達は投入されると考えていた。

「今から、大隊長の高木惣吉中佐に、中隊の現状を自分は報告に行くのだが、ダヴー少尉も付いてくるかね。その際に、何故、自分達がそこに向かうのか、尋ねてみる気はないか」

「喜んで大尉のお供をします」

 ダヴー少尉は勇んで答えた。

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