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第8章ー6

 場面が変わり、アラン・ダヴーの久しぶりの登場です。

 12月10日頃、「白い国際旅団」で編制が完結した部隊は、スペイン中部、サラマンカの近くの駐屯地に順次、移動を済ませていた。

 その部隊の中には、アラン・ダヴー少尉の所属する日系人義勇兵中隊の姿もあった。


「アラン・ダヴー少尉」

 ダヴー少尉自身は、すぐには自分が呼ばれていることに気が付かず、別の方角を向いたままだった。

 ダヴー少尉の視界には、自分の指揮下にある小隊の人員が競うように、猛訓練に励んでいる光景が目に入っており、それの評価に専念していたことが一つ、それと、もう一つ、自分が少尉とよばれることに違和感があり、自分のことだと思わなかったという理由があった。


「アラン・ダヴー、上官から呼ばれたら、すぐに顔を向けたまえ」

 ややきつい声が聞こえたことで、ようやく気が付いたダヴー少尉が目を向けた先には、直属の上官、日系人義勇兵中隊の中隊長であるピエール・ドゼー大尉の顔があった。

 慌てて、ダヴー少尉は、敬礼しながら言った。

「失礼しました」


「いい加減、少尉と呼ばれるのに、慣れたらどうかね。スペイン軍外人部隊の少尉に正式に任じるという辞令までもらったのだろう」

「確かにそうなのですが。ドゼー大尉こそ、ドゼー大尉、と呼ばれてもしばらく返事がないことがあると思いますが、私の気のせいですか」

「む。確かにな。お互い、本来から言えば、フランス陸軍士官学校生の身だからな」

「そういうことです。階級詐称しているような気がして仕方がありません」

 ダヴー少尉と、ドゼー大尉は会話をした。


「白い国際旅団」の兵士たちは、スペイン国民派政府によって、表向きは、スペイン陸軍外人部隊の一員という扱いになっていた。

(当然、階級に応じた給料等が、スペイン国民派政府から、彼らに支給されている。)


 そして、日系人義勇兵中隊には、その経歴上(彼らは、皆、第一次世界大戦で欧州に出征した日本人兵士が欧州に遺した子ども達が成長して、義勇兵に志願した者ばかりだった。)、最年長の者でも20歳前後、最年少の者が17歳前後という現実があった。

 そのため、その中から6名程しかいない、陸軍士官学校生を士官扱いにし、残りを下士官、兵にして中隊を編制したのだった。


 その中で、ドゼー大尉が最年長といってよい存在だったが、最年長と言っても1915年秋の生まれであり、1936年12月の現時点では、21歳になったばかりだった。

 ダヴー少尉にしても、1917年春の生まれであり、19歳に過ぎなかった。

 とはいえ、この場にいる陸軍士官学校生としては、ドゼーが最年長なのは間違いなく、また、日系人義勇兵中隊の中隊長にふさわしい人格、識見の持ち主という事で、ダヴー少尉を含め、日系人義勇兵中隊の部下達の意見は一致していた。

 そのため、ドゼーが中隊長として、大尉に任官していたのである。


「小隊員の練度はどうだ」

「取りあえず、小銃射撃については問題ありません。38式歩兵銃はいい銃ですよ」

 ドゼー大尉の問いかけに、ダヴー少尉は答えた。


 実際、38式歩兵銃は、ダヴー少尉が見る限り、いい銃だった。

 確かに6.5ミリという口径は、自分がフランス陸軍士官学校生時代に扱ったルベルM1886小銃等に比べて小口径であり、威力が見劣りした。

 だが、その代償として、反動が小さく、命中率が良いという特質があった。

 それに、心情的な問題だが、自分達の父が、(第一次)世界大戦の際に愛用していた小銃という点でも、ダヴー少尉は魅力を感じていた。

 この点については、部下達の多くも賛同している。

 この銃で自分の父は独兵と戦ったのだ、という想いを感じ、38式歩兵銃の射撃を初めて行う際に、涙が溢れるのを覚えた部下は多かった。

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