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第8章ー4

 土方勇志伯爵も石原莞爾大佐も、ある意味で冷たい考えをしていた。

 首都マドリード攻防戦に、スペイン国民派が主力を投じても、スペイン共和派も対抗して主力を投じあうだけになり、却って膠着状態に陥るだけ、だと見切っていたのだ。

 むしろ、他の戦線にスペイン国民派の主力を向けることで、スペイン共和派の主力を攻勢に誘致し、逆に大打撃を与えようと考えたのである。


 これは、攻勢を確実に成功させるためには、防御側に対して、それなりの、できれば3倍の優勢が必要とされるという経験則から導き出される結論だった。

 勿論、実際の会戦等で、劣勢な側が勝利を収めた例は多々ある。

 世界戦史にその名を遺すカンネーの戦いにしても、実際の戦場における兵力は、ハンニバル率いるカルタゴ軍の方が、ローマ軍に対して劣勢だった。

 だが、ハンニバルは、自らの兵力の劣勢を強みに変えることで、ローマ軍がカルタゴ軍に対して、攻勢を執らざるを得ないようにし、それを逆用して、カンネーの地でローマ軍を包囲殲滅することに成功し、世界戦史に不朽の名声を博したのだった。

 土方伯爵らも似たような考えを執っていた。

 スペイン共和派が攻勢に出ようとすることこそ、逆に大打撃を与える好機だ。


 スペイン北部戦線に、「白い国際旅団」等、スペイン国民派の主力を向けて、攻勢を執るのだ。

 この攻勢は、ガリシアから、アストゥリアス、バスクへと、西から東に向けて行われる。

 これは、スペイン国民派に味方しているポルトガルを、事実上の攻勢の物資の策源地とすることで、攻勢を執るのに必要な大量の物資を前線へ輸送するのを、容易にするためというのもある。


 そして、北部戦線のスペイン共和派の諸部隊は、この攻勢への対処に苦労する筈だ。

 北部戦線が他の戦線から孤立している以上、スペイン共和派としては、ガリシアへのスペイン国民派の攻勢を阻止しようとすると、バスク方面の部隊をガリシアへ向けねばならない。

 だが、バスク民族主義者が主力を成しているバスク方面の部隊が、故郷を無防備にして、ガリシアへ向かいたがるだろうか?

 さすがにスペイン共和派からすれば、ガリシアを全く救援しない、という選択肢は無いだろうが、バスク方面の部隊の一部しか割けないだろうし、それでは、ガリシアへのスペイン国民派の攻勢を阻止できない。

 そうなると、北部戦線のスペイン共和派は、ガリシアで敗北し、後は徐々にバスクへと追い込まれていく運命が待っている。


 こうなってくると寄り合い所帯の悲哀が出てくる。

 敗北責任のなすり合いが、北部戦線のバスク民族主義者、社会主義者、共産主義者等々のスペイン共和派に参加している者同士で起こる可能性が高い。

 更にうまくいけば、カタルーニャ民族主義者、社会主義者、共産主義者といった首都マドリード、カタルーニャ地方等のスペイン東部を抑えているスペイン共和派内部にも内輪揉めが波及する事態が起こり、北部戦線への救援作戦が発動されるにしても、その足並みは極めて乱れたものになり、更にスペイン共和派への打撃が増す結果をもたらすだろう。


 そして、この大攻勢によって発生するスペイン共和派の難民は、必然的に隣国フランスを目指すだろう。

 何故なら、そこしか彼らには逃げ道が無いからだ。

 人民戦線が政府を握っている以上は、フランスは難民の彼らを受け入れざるを得ない。

 だが、それは世界大恐慌によって疲弊しているフランス国民にとっては重い負担になる。

 多くのフランス国民が、当初は彼らに同情するだろうが、しばらく経てば、難民はスペインに帰れ、と多くの国民が叫ぶようになり、人民戦線政府に対する反感を募らせる筈だ。

 土方伯爵らは、そこまで考えていた。

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