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プロローグー7

 1935年12月のある日、貴族院議員になっていた土方勇志伯爵は、海兵隊の先輩でもある林忠崇侯爵の東京の別宅を訪ねていた。

 土方伯爵は、本音としては、貴族院議員になるつもりは余り無かったのだが、林侯爵の政治工作の前に貴族院議員になることを承諾させられてしまっていた。

 林侯爵曰く、腹蔵無しに政治の話ができる知人の貴族院議員が欲しい、との理由から、林侯爵はそのように動いたとのことだった。


 ご老体の我が儘にも程がある、と土方伯爵は思わなくも無かったが、林侯爵の孤独感が、自分自身にも分からなくも無かった。

 林侯爵は、元大名の華族とはいえ、他の元大名の華族とは毛色が違っている。

 侯爵の爵位を持つ元大名となると、林家を除くと、徳川御三家とか前田家、細川家と言った大藩の、いわゆる国持ち大名ばかりである。

 しかも親藩か、外様大名ばかり。

 譜代大名となると、林家を除くと、一般的に譜代大名筆頭格とされる酒井家ですら伯爵止まりである。


 では、林家が徳川時代に大藩だったかというと、実は1万石しかなく、お城すら無い藩だったのである。

 それも、一時は旗本格に落とされており、戊辰戦争時には当主の林忠崇が、奥羽越列藩同盟の一員として戦ったとして滅藩処分に処された家でもある。

 林家は、文字通り、林忠崇の一代の戦働きで、侯爵の身代を得た、と言っても過言では無い家であり、元大名の華族と言っても、違和感がある華族であった。


 では、軍人出身の華族としてならどうか。

 これでも、林家は特異な存在と言えた。

 軍人出身の華族としては、大山家等が公爵としてあるが、これらは元老でもある。

 軍人のみで考えるなら、侯爵というのは林家のみで、それ以外は伯爵止まりだった。

 最も、元々の大名出身ということからすると、男爵に林家はそもそもなっていた筈なので、順当と言えば順当な爵位ではあった。

 だが、そういったことからも、林忠崇は、華族、貴族院議員の中でも孤独な存在となっていたのである。


「よく来てくれたな」

 林侯爵は、執事に招じ入れられた土方伯爵を歓迎した。

「全く、この歳になって、政治屋になるとは思いませんでした」

 土方伯爵は半ば愚痴った。


 今年、満87歳になっている林侯爵より若いとはいえ、土方伯爵も満65歳になっている。

 本来なら、完全に楽隠居を決め込む歳の筈だった。

「まあまあ、昨今の日本の政治情勢を話そうではないか」

 2人共、無所属の貴族院議員である。

 投票や演説等、気儘にできる立場だった。

 とはいえ、2人共、長年の因縁で、犬養毅元首相が属し、山本権兵衛元首相や斎藤實首相が準与党としている立憲政友会と共同歩調を取ることが多く、他の貴族院議員からは立憲政友会の別働隊と見られていた。


「斎藤は、ここにきて、元々の議員でないのが響いたな。衆議院選挙のタイミングを逸してしまった」

 林侯爵は、斎藤首相の誤判断を悔いるようだった。

「全くですな。しかも、立憲政友会の本来の支持者を離すような法案を通してしまった」

 土方伯爵も、海兵隊の先輩である斎藤首相を惜しんでいた。


 3年前の1932年5月15日、犬養毅首相が暗殺された後、斎藤實海相が後継首相になった。

 斎藤首相は、引き続き立憲政友会を与党として政権運営を行い、高橋是清蔵相が勧める積極財政を展開すると共に、英のスターリングブロックに準加盟し、満韓を米国と共同市場として開発することで、世界大恐慌からの脱却を図った。

 幸いなことに黒竜江省油田の発見もあり、日本は順調に恐慌からの脱却を図れたが、その代償は勿論、ある。

 高橋蔵相でさえ、これ以上の国債乱発は困難として、財政整理を進言するようになり、日本の景気は腰折れ感を示すようになった。

 あれ、軍人出身の華族なら、といろいろ突っ込まれそうですが、私としては、この第7部中でフォロー予定です(というか、あの家が史実では、何で侯爵になったのか、私としては疑問が。)。


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