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幕間1-3

 土方勇志伯爵も、岸三郎大将も、世界大戦に際して、欧州に赴いた身である。

 世界大戦当時、欧州に日本から赴いた陸海軍の将兵(その多くが海兵隊所属だったが)にとって、サッカーは余暇に行うスポーツとして大人気だった。

 英仏伊等、各国の将兵との親善の交流試合も活発に行われた。

 土方伯爵や岸大将も、それを目にしており、さすがにいい年になっていた自分達は余りしなかったが、部下の将兵が熱心にやっていたのを、直接、目にしている。

 そして、欧州から日本に帰国した将兵によって、サッカーは日本各地に伝わった。


 大正時代から昭和時代の初めにかけ、小学校から大学まで、更には地域の草の根まで、サッカーは徐々に広まって行った。

 特にサッカーに熱心だったのは、本場、欧州のサッカーに直接触れたことがある海兵隊だった。

 公私混同と言われそうだが、海兵隊出身で外国に赴任した駐在武官で、駐在国のサッカー情報収集に努めない者はいないという噂が、日本国内に流れる程だった。

 更に、その情報を取り入れた成果を生かしたチームを編成した鎮守府同士の対抗戦が、毎年、定期的に開かれる程で、日本最高峰の対抗戦と謳われ、それを見学しようと、日本各地から見物客が詰めかけていた。

 これを見た日本サッカー連盟は、メダル獲得のために、海兵隊の選手を中心にした代表団を、ベルリンに送り込むことを考えついた。


 そして、日本サッカー連盟は、海兵隊に頭を下げて、佐世保鎮守府海兵隊チームを中心とした日本サッカー代表チームを編成し、ベルリンへと送り込んでいたのである。


「サッカーの日本代表は、どこまで行くかな」

「石川信吾代表監督は、世界大戦のときにはできなかったが、ベルリンに日章旗を翻らせて帰ってくる、と豪語してベルリンへと選手と共に出発して行ったそうですが」

 岸大将の問いかけに、土方伯爵は丁寧に答えた。

「大言壮語にならねばよいが」

 岸大将は心配そうだった。


「石川監督は、無能ではありませんからね。そうでなかったら、佐世保鎮守府チームを、常勝不敗の無敵軍団と謳われる程、強化できていません」

 土方伯爵は、岸大将の心配を少しでも軽くしようと言った。

「少なくともメダルは持って帰ってくれるでしょう」


「それにしても、佐世保か。もし、サッカーで、メダルを持って帰ってくれたら、新選組の名をまた挙げてくれそうだな」

 土方伯爵の言葉に、岸大将はあらためて気づいたように言った。


 各鎮守府海兵隊には、旧幕府諸隊の名にちなんだ呼び名(愛称)がある。

 横須賀鎮守府海兵隊が伝習隊、呉鎮守府海兵隊が衝鋒隊、舞鶴鎮守府海兵隊が遊撃隊だった。

 そして、佐世保鎮守府海兵隊は、新選組の呼び名(愛称)を持っている。

 いうまでも無く、土方伯爵の父は土方歳三だし、岸大将の伯父は島田魁である。

 二人とも、新選組の名への思い入れは極めて強いものがあった。


「いっそのこと、海兵本部に秘蔵されている新選組のあの誠の旗を、ベルリンに持って行かせた方が良かったですかな」

「馬鹿を言うな。本当に持って行かせたら、持たせた者が、新選組隊士の子孫に袋叩きされるわ。あれは戦場等で掲げられる旗だ。サッカーの試合に持って行く等、言語道断だとな。わしがその先頭に立つことになるぞ」

 土方伯爵の半ば冗談に、岸大将は真顔で答えた。


「冗談はともかく、ベルリンオリンピックの閉会式の後、頼みたい事があるのです。「北白川」にお越しいただけませんか」

 土方伯爵は、岸大将に言った。

「構わないが、大事なのか」

 岸大将も勘に触れる物があったのか、真顔になった。

「ここでは話しづらい事です。「北白川」で詳細をお話しします」

 土方伯爵は頭を下げながら言い、岸大将は肯いた。 

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