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第3章ー6

 もっとも、これだけの戦艦、空母を基幹とする艦隊を整備しようとすると、当然、多額の予算が掛かる。

 また、海軍にとって逆風になったのは、世界大恐慌対策に対して、多額の予算を投じていた結果、日本の財政赤字が増大しており、積極財政論者の高橋是清蔵相でさえ、緊縮予算を検討せざるを得ない状況にあったことだった。


 更に、1936年2月には、衆議院総選挙で、与党の立憲政友会が大敗、野党の立憲民政党が大勝した。

 立憲民政党は、伝統的に財政均衡主義、軽軍備主義である。

 更に、斎藤實内閣が総辞職し、宇垣一成内閣が成立しそうな見込みとあっては、海軍の大拡張は難しい、と言わざるを得なかった。


「宇垣内閣樹立を阻止すべきだ。海軍は大臣を出さないと言おう」

 1936年2月末のある日、末次信正軍令部長は、自ら海相室に乗り込んで、山梨勝之進海相を説得していた。

「それはいかん」

 山梨海相は、断固として首を横に振った。

「海軍が大臣を出さないで、内閣樹立を阻止するという例を作るべきではない」

「しかしだな、海軍の拡張は必要不可欠だ。宇垣内閣が、海軍の拡張を認めそうにない以上、宇垣内閣阻止に海軍は動くべきだ」

 末次は、懸命に山梨を口説いた。


「わしが、宇垣内閣が成立したら、海相として乗り込んで、海軍の拡張については、宇垣首相を説得する。それで納得してくれ」

 山梨は、逆に末次の説得に掛かった。

「しかしな」

 末次は、山梨は腰が弱い、と睨んでいる。

 宇垣首相に言いくるめられてしまうのではないか。

 末次は、そう懸念した。

 かといって、自分が海相になるというのも、自分は海相に向いていないという自覚が、末次にはある。


 山梨と末次は、しばらく押し問答をした末、山梨が宇垣内閣の海相として出て、海軍の大整備計画について、宇垣首相を説得するということで、話がまとまった。


 宇垣内閣が成立しての閣議にて。

「海軍の大整備計画ですが、10年先となると世界状況も変わっている公算が高い。3年毎に見直しませんか」

 宇垣首相は、山梨海相を説得していた。

 脇には、井上準之助蔵相が控えている。

「確かに」

 山梨海相も、宇垣首相の考えには肯かざるを得なかった。

「それに」

 と山梨海相は、内心で考えを巡らせた。


 末次らを、その線で言いくるめられるな。

 山梨海相としては、海軍の大整備計画には、実は内心でそこまでしなくても、という考えがある。

 堀悌吉海軍次官らも、山梨海相に同調している。

 まずは、高雄級高速戦艦1隻、蒼龍級空母1隻を今年、建造する方向で考えよう。

 末次らは、一度に高雄級高速戦艦を2隻は作りたいと考えているようだが、予算的に認められないだろうからな。

 今年の整備計画は、遅れるが、3年後に更に拡張案を押し込める可能性があるということで、海軍部内をまとめよう。


 それに、いつまで宇垣内閣が続くかも微妙なところだ。

 山梨海相は考えを更に巡らせた。


 斎藤實内閣総辞職に伴い、牧野伸顕内大臣や鈴木貫太郎侍従長らも、宮中を去ってしまった。

 今上天皇陛下は、表立って口には出されないが、気心の知れた面々が一度に去ってしまったことを、寂しがられているとお聞きしている。

 そして、立憲政友会は、米内光政を総裁代行に推戴し、党内体制の立て直しに奔走している。

 また、陸軍内でも宇垣内閣は信認されていない。

 今のところは、宇垣内閣は宮中の信認を得ているようだが、もし失ってしまった場合、執り成し役の人材に欠ける宇垣内閣は総辞職せざるを得まい。

 その場合は、米内内閣が樹立される公算大だ。

 米内内閣が樹立されるように、末次らは勝手働きをする可能性があるが、自分は黙認するか。


 宇垣首相を見つつ、山梨海相はそこまで考えを進めていた。

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