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第2章ー10

 また、米内光政立憲政友会総裁代行は、斎藤實前首相に対し、林忠崇侯爵への紹介を依頼した。

 林侯爵を介して、中島知久平と面会し、立憲政友会の挙党体制を整えようと考えたのである。

 林侯爵は、昭和金融恐慌の際、元老の山本権兵衛元首相の依頼を受け、鈴木商店倒産の危機に当たり、金子直吉を引退させ、高畑誠一を総帥に据えることで、鈴木財閥を危機から救い、立て直すことに全力を尽くした。

 高畑ら、鈴木財閥の重鎮は、林侯爵の恩義を未だに覚えている。


 中島は、元々は鈴木重工の社長であり、その実力に加え、鈴木財閥のバックにより、立憲政友会の有力代議士になっていた。

 林侯爵を通じて、高畑らが米内総裁代行を支えるという意向を示せば、中島といえど、その意向に完全に逆らうわけにはいかなくなる。

 米内総裁代行は、そういった着眼点から、林侯爵への紹介を、斎藤實前首相に依頼したのである。


 3月下旬、横須賀の料亭、「北白川」に5人の男が集っていた。

 まるで、ヤクザの手打ち式だ。

 中島は、そんなことを内心で思った。

 自分と米内総裁代行が紛争の当事者、高畑総帥と斎藤前首相が立会人、林侯爵が仲裁人といった役どころだろうか。


 確かに、自分と米内総裁代行が争っても何のメリットも無い。

 それに、立憲政友会が潰れることは、自分も望むところでは無い。

 しかも、こう手順を踏まれてはな。


 林侯爵は、米内総裁代行の依頼を受け、高畑総帥に、中島と米内総裁代行が、直接、肚を割って話せる場を設けることを提案した。

 その席に、自分も立ち会い、中島と米内の仲を執り成そうというのである。

 3人だけのつもりが、林侯爵自ら出られるというのに、自分はいかない、と言う訳にはいかないということで、斎藤前首相と高畑総帥も乗りだし、5人で顔を合わせることになったのである。

 そして、東京では人目に立つということで、横須賀で会うことになったのだった。


「それでは、中島も米内総裁代行に協力することに異存はないな」

 しばらく米内総裁代行と中島が話し合い、今後の協力体制を築くことで、ある程度の話がまとまったのを見極めて、林侯爵が言葉を発した。

 米内と中島が肯いた。

「よし、これで決まった」

 林が手を叩き、料理を運び込ませた。

 本当にヤクザの手打ち式のようだ、中島はそう想い、実は米内総裁代行もそう考えていた。


 そして、5月に開かれた帝国議会の特別会の衆議院本会議に出席した宇垣首相は、所信表明演説を終えた後、自らの内閣の顔ぶれと、衆議院の議席の状況を見回しながら、それぞれについて、内心で反芻して考えていた。


 杉山元陸相を通じて陸軍を統制するつもりだが、自分が予備役に入っている間に、自分は完全に陸軍から浮いた存在になっており、どうにも難しいようだ。

 梅津美治郎陸軍次官が、実際には、ほぼ陸軍の実権を握ってしまっている。

 杉山陸相は、自分と梅津らの間で板挟みになって執務がつらい、と陰で愚痴をこぼしているらしい。

 そして、山梨勝之進海相も、どこまで自分についてくるか。


 立憲民政党は、今回の選挙で大勝利を収めることに成功したものの、社会大衆党等の無産政党の協力を得た結果、どうも左に寄ってしまった。

 ある程度は、右に戻さないと左に寄り過ぎた政党になりかねない。


 最大の問題は、立憲政友会だな。

 新人代議士、米内光政を総裁代行に据えるとは、余程、人材がいないのか、とうがった見方をしたくなるくらいだったが、米内総裁代行は、この2月余りの間に党内をそれなりにまとめてしまったようだ。

 主流派と非主流派とが和解して、挙党体制を立憲政友会は確立しつつある。

 米内総裁代行が、あれ程の切れ者とは思わなかった。


 宇垣首相は物思いに暫く耽った。

第2章の終わりです。

次から第3章に入ります。


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