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第9章ー10

 航空優勢を失ったとはいえ、スペイン共和派にとって、エブロ河方面での大攻勢を中止するという選択肢は無かった。

 この大攻勢を中止しては、ジリ貧になるいう判断が下されたからである。

 実際、トハチェフスキー元帥ら、ソ連軍軍事顧問団も大攻勢中止には反対していた。

「大攻勢を中止しては、戦局逆転の機会が完全に失われる。勝算が僅かでもある限り、大攻勢を行うべき、と私は判断する」

 トハチェフスキー元帥自身が、そう公言していたという。


 8月半ば、スペイン共和派は集められる限りの兵を、この大攻勢に集めていた。

 航空戦力は、ほぼ消耗しつくしていたものの、夜間移動等を駆使し、空襲を避けることで、戦車は100両以上が、この攻勢に投入される準備が整っており、総兵力も10万人を超えようとしていた。

「赤い国際旅団」も集められる限り、この大攻勢に投入される予定だった。


 一方、スペイン国民派も、それなりの対応を整えようとしていた。

「白い国際旅団」を主力とし、この大攻勢に対応できる兵力は、7万人近いものになった。

 だが、航空機は200機近い稼働状態にあるものの、戦車は1両も無かった。

 その気になれば、10万人以上集められ、戦車もそれなりに保有できたスペイン国民派が、何故に、兵力劣勢の状況で、スペイン共和派の大攻勢を迎え撃つことになったか、というと、フランコ総統と土方勇志伯爵の確執があったためだ、と伝えられる。


 フランコ総統としては、この頃、カタルーニャ方面制圧にできる限りの兵力を集めたい、と考えており、エブロ河方面で行われるスペイン共和派の大攻勢に煩わせられるのは、気に食わないことだった。

 それに、土方伯爵は、この大攻勢に対処するために、自分に指揮権を握らせるか、フランコ自らが指揮を執るか、ということを主張した。

(後述するが、エブロ河攻勢を迎撃するために、ある大規模な作戦が行なわれることになっていた。その作戦を実行する際、現場の指揮権を統一させておかないと、味方に損害を与える危険性が、かなり高いと判断されていたためである。)

 フランコ総統は、エブロ河に赴く気にならなかったうえ、土方伯爵の態度が気に食わなかったために、エブロ河に配置する兵力をできる限り削ろうとした。

 そのために、1.5倍以上の優勢な兵力で、スペイン共和派はエブロ河の戦いを遂行しようとすることができることになったのである。


「来るぞ。散発的に反撃しろ。敵にエブロ河を渡らせるのだ」

 ピエール・ドゼー大尉の押し殺した声が微かに聞こえてくる。

 アラン・ダヴー少尉は、敵の大攻勢を前にした緊張の余り、自分の背中から暑さのせいばかりではない汗が流れ出すのが分かった。

 スペイン共和派の各部隊は、エブロ河に臨時に架橋し、ソ連が誇るBT-5型戦車を先頭に立てての渡河作戦を実行しようとしている。

 自分と共に、部下を落ち着けさせるために、敢えて押し殺した声を自分も上げる。

「よく狙え。乱射はするな。戦車をほぼ渡河させたうえで、本格的な反撃を開始するのだ」


 サムライ達から教わったのだ。

 戦車は決して無敵の存在ではない。

 敵の歩兵と戦車を分断し、敵が戦車単独で、自分達の陣地を蹂躙しようとしたときこそ、味方にとって、敵の戦車を潰す好機なのだ。

 直接の対戦車用として、自分達が手許で使える武器は、擲弾筒と火炎瓶、手榴弾しかない。

 だが、落ち着いて、敵の戦車と歩兵を分断すれば、これで何とかなるのだ。

 ダヴー少尉は、胸の中で、サムライの教えを反芻した。


 その間に砲撃の支援を受けて、スペイン共和派の工兵は、エブロ河に橋を架けようとしている。

 本格的な射撃を浴びせたい、という想いにダヴー少尉は懸命に耐えた。 

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