No.02
男の向かった先を隊長と共に駆ける。
走りはじまて直ぐに隊長と呼ばれた大柄な男が顔をしかめてリオンに声をかけた。
「リオン殿下あの男中々足が速いようです。このままでは追いつかないかもしれません。」
「分かった。では加速の魔法をかけてくれ。」
「はっ!では失礼します。」
そう言って隊長は走りながら、片手を自分の足へもう片方はリオンの足に向ける。
息を吸い込むと意識を自分の内面に向ける。
『我と殿下を包む風よ。我らの助けとなり支えよ。
加速』
隊長の手がポォっと淡く緑に光ったかと思えば直ぐに消える。
すると隊長とリオンの体が軽くなり速さが上がる。
「ありがとう。助かる。」
「いいえ。お気になさらず」
二人はそのまま走り続けた。
そうすると、角を曲がったところで通路の終点が見え始めた……男の後ろ姿も。
終点には頑丈そうな鉄の扉がガバリと開いて男とリオンたちを出迎えていた。
よく耳をすませると掠れた甲高い子供の叫び声が聞こえる。
男が扉にたどり着く前にリオンたちは男にたどり着いた。
リオンはそのまま男の背に剣を構えトドメを刺すように迫る。
だが男はそれを察知し振り向きざまに剣を払う。
ニタリと顔を歪ませて「ははははっはは!!!!」と笑い声を上げてリオンに向かっていこうとした男は突然その声を止めた。
男は視線を自分の腹に向けるとそこには剣の切っ先が自分の血を滴らせながら生えていた。
男が自分の状況を理解しようと固まっている後ろから声をかけたのは……隊長だった。
「お主は、一対一だとそれなりの強さを発揮する様だが……一人に集中し過ぎてしまうのは良くないな。お主が我の部下だったら次から注意せよと言うとこだがそうでは無いからの。」
隊長はそう言いながら自分の剣を男からズブリと引き抜いた。
その時の反動で男の体が床に崩れる…と思いきや男は歯を食いしばってまだ立っている。
「っ!まだ……だ!!俺はまだお前ら魔族を……っ!」
男はしつこく剣を握りしめ腹から血を滝の様に流しながら言葉を発する。
そしてリオンに向かって走り出した。
「うおおおおおおおおおおおぉぉおぉぉぉぉおおお!!」
ヨロヨロと自分の方に向かってくる男を何の感情もなくリオンは見つめ返し振られる剣をスッと避け……心臓に剣を突き立てた。
ドバッと血が溢れる。
男は地に倒れ込みそのまま動かなくなった。
返り血を浴びたリオンに心配そうに隊長は駆け寄ると、どこからか真っ白なハンカチを取り出しリオンの顔を丁寧に拭いた。
「隊長……隊長!……テル師匠!!止めて下さい!!」
どうやら隊長はリオンの師匠の様だ。
言葉遣いも部下と上司のものから弟子と師匠のそれになっている。
「何故ですかの?目に血が入ってしまっては前が見えなくなるでしょう?拭かなければ。それと、言葉遣いがなっておりませんぞリオン殿下。」
「ん゛ん!だから、そんなこと隊長がやらなくても自分で出来る。」
「そうですかの?まあ、今回だけでもこの老いぼれに拭かせて下され。」
「いや……隊長はそこまで老いぼれてはいないだろう?」
「まあ、まだ五十五ですが……気分は七十のですよ。」
隊長……テルは灰色の頭を掻きながら顔に歴戦の戦士が見せる複雑な顔をみせる。
その時、リオン達が来た道からドタバタと数人の人が走ってくる音が聞こえてきた。
リオンとテルは敵の場合に備えて剣を構える。
角から姿を現したのは、ユーリ達だった。
「リオン殿!大丈夫か?」
先頭にいたユーリが声をかける。
「あぁ、大丈夫だ。ユーリ殿こそ大丈夫か?」
「あぁ何とかね。相手が中々強くて手間取ってしまったよ。」
お互いの無事を確認し合いホッと一息つく。
そうして一瞬静かになった空気の隙間から微かな掠れた声が響いた。
リオンがハッとして扉に目を向ける。
直ぐさま扉に駆け寄ろうとするリオンをテルが止めた。
「殿下、敵がまだいるかも知れません。私が先導します。」
「分かった。」
テルが先導し後ろにリオン、ユーリ、部下が続いた。
警戒しながら前に進む一行に微かなにしか聞こえなかった甲高い声が徐々に大きく聞こえてくる。
掠れて男か女か分からないがどうやら子供の声の様だ。
「あああああああああっ!……あ、あ、あ、あああああっ!」
テルを先頭に扉の向こうへ徐々に入っていく一行の目にまず入ってきたのは十一歳あたりかと思われる男児のボロボロの死体だった。
適当な薄汚れた粗末な服を着ており、栄養が足りていないのか頰が痩せこけており目は薄っすらと閉じられていた。
大量の血が死体を中心に水溜りが出来ていた。
どうやら扉の外にあった途切れ途切れの血の持ち主はこの男児だった様だ。
そして、その横には深い茶色の髪がボサボサになっている五、六歳の小さな女児
がいた。
その口からは先ほどから聞こえてきていた声が漏れている。
倒れている男児をただ目を見開き見つめたまま掠れた声を上げ続けている。
その声がその男児の死に心が張り裂けた痛みの為に上げているだけ声だとリオン達は理解した途端、自分達がどう声をかければいいのか分からず動きが止まってしまった。
その女児の姿に戸惑ってしまったリオンやユーリをそっちのけに、テルは付いてきた部下にさほど広くなく光のない部屋を隅々まで探る様に指示を出す。
そして、テルはリオン達に声をかけた。
「しっかりしてください。御二方。」
「あ、ああ。大丈夫だ。」
「あぁ。俺も大丈夫だ。」
そう返事をしてリオンとユーリはその女児にそっと近づいた。
ユーリはしゃがみこんで女児の顔を覗き込んだ。
そして息を飲む。
そこには、淡く銀色に光る瞳があった。
だがユーリはその不思議な綺麗な光を見つめたいのを堪え優しく女児に声をかけた。
「君大丈夫かい?」
「もう大丈夫だ。俺たち仲間が助けに来たぞ。だからもう安心してもいい。」
ユーリとリオンが交互に声をかけるが女児は目を見開き声を上げているだけ。
何の反応もしなかった。
リオンは急に大きな不安を感じて思わず女児の小さな手に自分の手を伸ばす。
そっと手に触れるとその小さな手は氷の様な冷たさをまとっていた。
リオンはその冷たさにビクッとして一旦手を離すが、もう一度ゆっくりと手を伸ばしその氷の様な小さな手を温められるよう包み込んだ。
だがその手は、溶けることのない氷の様に冷たいままだった。
女児の声がどんどん掠れて行く。
ユーリ達も声を上げるのをやめさせようと、何度も声をかけるが女児は何も聞こえていない様にずっと声を上げるだけだ。
部屋を見終わった部下達も徐々に集まってきた。
特に魔族側の部下達はこの小さな女児に同情してリオン達とともに声をかける。
が、それでも女児は反応しない。
するとテルが前に出てきてリオン達に声をかける。
「殿下方、この子供は正気ではありません。今声を掛け続けてもこの子供にはその声は届かないでしょう。私は何度もこういう人を見たことがあります。部下の死を遺族に伝えた時こういうことが起こることが時々あります。今はとにかく眠らせましょう。」
年老いたテルが自分の経験を交えて言うと部下やリオン達は複雑な思いで納得した。
そして首に一番近かったリオンが手刀を女児の首にトンっと当て気絶させた。
その後、ユーリとリオンの討伐隊と救出隊は数人を残し捕らえた屋敷の使用人と主人と共に王城へ向かった。
王城の地下にある頑丈な鉄柵と警備に覆われた牢の中に入れられる事になる。
そして魔族側で刑を処す事になる。
屋敷に残された数人は遺体の処理と屋敷内にあった証拠となるものや、他の売人の手掛かりを収集してくる事に。
エルは魔族側が保護し、目を覚まししだい家族の確認。
もし生きている様だったら家族の元へ。
もし居ないと答えた場合には親族を探し出す。
それでもいない場合は引き取り手を探すという事になった。
それまでは証人としてエルは王城にとどまる事になった。
ついにエルが登場しました!
エルの心中を思うと……明るくはできないんですけどね……
まぁ!とにかく!
物語はやっとこさ進みます!
お楽しみに!
ではでは、また次回で会いましょう!




