従姉妹と一緒
私の従姉妹の親は葬儀会社に勤務しており、葬儀場の階下に自宅を構えていました。
それはもう10年も前の話。
今従姉妹一家は同市内のマンションで生活しています。
私は休日を利用し従姉妹の家に遊びに行ったところからこの話は始まります。
私たちは従姉妹の家に散乱している漫画を読み耽っていました。
そこでふと従姉妹が言いました。
「昔うちが住んでいた家あるじゃん?」
私は今読んでる漫画から目を離し、めんどくさそうに従姉妹の話を聞きます。
漫画の続きが気になっているのですが…。
とりあえず相槌をうっておきます。
「うん」
「今さ、廃墟になっててこの辺じゃ知る人ぞ知る心霊スポットになってるんよ」
そう言われて、私は昔の従姉妹の家を思い出します。
伯父さんと伯母さんがいて、小さかった頃の従姉妹と妹がいて、よく学校の長期休みのたびに母親や兄と遊びに行っていました。
葬儀場と自宅はそれぞれ入口が別れていて、階下にある自宅の玄関に行くには階段を下りて玄関に行かなければならないのです。
玄関の扉を開けると、すぐキッチンがあり、伯母の作る料理の味を思い出します。
母と姉妹のはずなのにまったく違う味付けで、子供心に印象が残っているのです。
それから右手に進むと上に上がる階段があります。
当時、私は伯父の仕事内容まで知らず、その階段の上は伯父の仕事場というイメージしか持っていませんでした。
勝手にコソッと上がろうとして伯母にきつく叱られた記憶がいまだにあります。
少し奥にすすむと、お風呂とトイレが共同になっている一室があります。
私は正直、この家のトイレも風呂も好きではありませんでした。
誰かが風呂に入った後用をたす時、床が濡れているため、滑りやすく、人の垢なのか汚れなのか知りませんが地面がヌルヌルしていて正直、好きではありません。
また、お風呂も身体を洗う為の行為と自覚しているのですが、目の前に便座があるという違和感がどうもたまりませんでした。
さらに奥に進むと狭い廊下になっており、廊下の中間部左に部屋があります。
その部屋は伯父伯母の漫画倉庫でした。
子供のころの私には難しい漫画ばかりだったので記憶が少ないですが、キャプテン翼とか、ガラスの仮面などがあってその部屋で読み耽っていた記憶が少々あります。
廊下に戻り、突き当たりまで行くと居間につきます。
そこで夕ご飯や、テレビゲームやレンタルビデオを見たという思い出があります。
テレビゲームとはいってもスーパーファミコンの時代で、マリオカートをやりまくったという記憶ばかり残ってます。
従姉妹は持ち主だけあってやたら強かった…。
手加減くらいしてほしいものです。
さらに奥がありまして、そこは寝室です。
遊び疲れていつもそこで寝てました。
などと色々思い出のあるあの家が今では廃墟になってると?
「そうなんだ…」
「ね、ね、見に行かない?」
別に今は昼間ですから問題ないでしょう。
それに私は正直霊感なんてないと自負しています。
なんとなく懐かしさで軽く了承してしまいました。
徒歩10分位でしょうか。
私たちは目的地に到着しました。
昔下りていた階段をみると階段を挟む壁に蔦が生い茂り、雰囲気は満天です。
「じゃあ、行こっか」
従姉妹の言葉に私は頷き、階段を下りていきます。
玄関につきました。
従姉妹は扉を開けます。
なんで鍵がかかってないのでしょう?
仮にも数年前まで人が住んでおり、さらにいうならまだ葬儀会社が所有しているはずの建物です。
いくら無人とはいえ、無用心ではないでしょうか?
などと思っていたら従姉妹はズンズン中に入っていきました。
「うわ…」
玄関、キッチン見渡すとタバコの吸い殻や空き缶などが散乱しております。
さすが知る人ぞ知る心霊スポット。
出入りの激しさを物語っています。
というか普通に不法侵入ですから!
………私達も人のこといえませんね。
従姉妹が葬儀場に繋がる昇り階段を見つめています。
「妹がさ、うちみたいにこうやって階段の上をよく見上げていたんよ」
「うん?」
「なんかずっとニコニコしてたんだよね。たまに手を振ったりしてさ」
「え?」
「誰もいないのになんで手を降ってるのって聞いたんよ」
「そしたら?」
「あそこお姉ちゃんいるじゃん……だってさ」
「……今、即興で作ったわりにはよく出来てるね」
「いや、実話。まだうち小さかったから幽霊とかそういうのピンとこなくてさ。ただ不思議だったけど、今思えばこの上葬儀場だから有り得ない話じゃないよね」
「怒るよ?」
「ごめん、ごめん。」
従姉妹はそういってお風呂兼トイレを見に行った。
あれ?
あそこの洗面台、鏡があったよね。
なんで鏡だけないんだ?
なんとなく嫌な予感がしたので、私は事情を知っているかも知れない従姉妹にはあえて聞かないことにした。
いや、だって怖いし…。
明らかに訳ありだということくらい察しつくから…。
従姉妹は相変わらずスタスタと奥の旧居間に進んでいった。
私もそれに続いた。
居間もあいかわらずゴミが散乱としていた。
地元の若者の仕業だろう。
涼を求めにきたのはわかるけどだからといってゴミを散らかしていくのは感心しないな…、とか思っていると従姉妹が何かを拾った。
「何?」
「ビデオテープ…だね」
なんのラベルも張っていないビデオテープだった。
「これ、帰って見てみようよ」
「…え?」
「呪いのビデオかもよ?貞子がズル…ズル…ってさ」
「いや。有り得ないから」
それは映画の話。
現実にあんなビデオがあったら日本中普通にパニックになってるから。
「まあ、そうだけど。でも実際これ、なんのビデオだろうね?」
「あんたんちが引越しの時に忘れていったビデオじゃないの?どうせ、金曜ロードショーとかがはいってるんじゃない?昔の」
「そうかもね。まあ、とりあえず帰ろっか?」
私は同意し、その家から逃げるように帰っていった。
従姉妹のマンションに着き、私たちは一息ついた。
「このビデオみよっか?」
「持って帰って来てたの?」
「いいじゃん。どうせ私の家のビデオだし」
従姉妹はそういってビデオをデッキにいれた。
ザーーーーーー
と砂嵐が流れる。
合間合間にぶつっぶつっと画像が現れるが、その画像がなんなのか切り替わりが激しくてわからなかった。
「古いビデオみたいね」
「そだね。何も残ってなさそう」
従姉妹は停止のボタンを押そうとデッキに近づいていった。
途端
画面がクリアになった。
「え?」
二人組の女が玄関から入って来た。
やがてカメラアングルは二人組の背後から撮り始めた。
そして片方の女がビデオテープを拾う。
そして、家を出ていった。
カメラは、その二人を追うように着いてくる。
見慣れた道、見慣れたマンション。
その見慣れたマンションに入っていく女達。
カメラはそれに着いていく。
やがて彼女たちは自宅に入り、談笑した。
そして先程のビデオテープをデッキにいれている。
私たちは後ろを振り返った。
END
まあ、ぶっちゃげますと私のイトコの昔の家そのまんまです。
実際、廃墟になってるそうです。
心霊スポットにもなっているそうです。
イトコたちが興味本位でこの家に入って行ったのも実話です。
ビデオを拾うのも実話です。
ビデオの中身は………
若きころの伯父の博多山傘の勇姿でした。
現実はそんなもんです。
ふふふ(笑)