第5話〜秘めた想いと明かされた想い。
「7組のさ、何ていったっけ? あの子、そこら辺のアイドルなんかより絶対かわいい!」
トシクニは興奮気味だ。
そんなかわいい子いたっけ? 僕はフロアばっかり見てたから気づかなかったのかな?
……!
もしかして… それが…『彼女』?
見つからなくって、君が見つけられなくって、焦って、悲しくって。あの時の僕にはステージ上を確かめる余裕がなかった。
きっとそうだ。『彼女』に違いない!
僕の視界には存在しなかった『彼女』
そんなに近くにいたんだね……
そばにいたのに見つけられなかった後悔と、存在することが確信出来た安心感で複雑な気持ちだ。
「何ボーっとしてんの? リュウスケは近くで見たから、あの子の良さが分かるだろ?」
「いや、気が付かなかったから」
「あんなに近くにいたのに、見なかったの? バッカじゃねぇ?」
それにしてもさ、トシクニはクラスの女子の前で、別の女の子のことをよく話せるよな。それも嬉しそうにさ。僕には真似出来ないよ。
男同士でも女の子の話は照れてしまう僕はやっぱりヘタレ?
「リュウスケは緊張しててそれどころじゃなかったのっ! お気楽なあんたと違ってさ」
「お前さー、リュウスケのことやたら構うよね?」
確かにハルミは、僕を何かと気に掛けくれてるみたいだ。
「ハルミさー、リュウスケのこと好きなんじゃねぇの?」
え?何いってんの? コイツ。
「バカっ…! ゴホっ!」
ハルミが慌てて咽せたようになっている。僕だってどんな顔してりゃいいっての。そんなきわどいことを、サラッと言えるこいつがやっぱり羨ましいかも。
「慌てるってことは、図星ぃ?」
トシクニのニヤニヤは止まらない。
ハルミはホッ、と一息ついた。
「気になってるよ、リュウスケのことは」
何だって?
顔を赤らめて、恥ずかしそうに俯いているハルミ。
「マジで!?」
トシクニと藤川は本気で驚いたみたいだ。女の子達も息を呑んでいる。
本気で言ってるの?ハルミ。
ドキドキが止まらない。女の子にそんなこと言われるの初めてだから、どんな顔したらいいのかわからないよ……
「リュウスケって、何となく守ってあげたくなっちゃうんだよね。母性本能をくすぐるっていうかさ」
大きな声でハルミは言って、照れたように笑う。
嬉しかった。とても嬉しかったんだけどさ… 何だか僕はハルミに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
その時僕は『彼女』のことしか考えてなかったから……
僕の心は『彼女』の笑顔で満たされていたから……