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ヒトメボレ〜君はどこにいるの?  作者: 秋葉隆介
第5章 蜜月、そして
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第51話〜思惑。

第50話の夕方から夜の話になります。

 その日の帰り道。


 いつものように、二組のカップルが寄り添って校門を出てくる…… はずだった。

 だが今日は、少し様子が違う。満面の笑みを浮かべた女生徒が、釈然としない顔をした二人の男子生徒に挟まれるように出てきて、その後を、これまた浮かない表情をした二人の女生徒が歩いている。見慣れないその光景に、周りの学生達は目配せを交わし合ったり、ひそひそ話をしている者もいるようだ。

 そのいたたまれない空気を破るかのように、アキラが口を開いた。

「お前さー、久しぶりにしては少し、いや結構馴れ馴れしいんじゃないか?」

 それを聞いたマヤが、キョトン、とした顔でアキラを見ながら答える。

「そーかな? 別に普通だと思うんだけど?」

「ちょっとは空気読めよな。俺もリュウスケも彼女と一緒なの! なんでお前が俺たちの間を歩いてるんだ?」

「いいじゃない、少しぐらい。久しぶりに会ったんだからさ」

「俺たちは自分の彼女と一緒に帰りたいのっ!」

「そうしたいなら、そうすればいいじゃない。私は全然気にしないわよ?」

「口の減らねーヤツだな…… だいたいな、こんなことされてたら離れられないだろうが!」

 そうなのだ。マヤは、リュウスケの左腕とアキラの右腕を、自分の両腕でしっかりと抱え込んでいるのだ。言うまでもなく、そこはサヨとユウコの指定席。二人が浮かない顔をしているのも当然といったところだ。

「離して欲しいんなら、早くそう言えばいいのに。私だって意地悪したい訳じゃないんだからさ」

「だぁーっ、もう! サッサと離しやがれ!」

 アキラが大声で言うと、マヤは二人の腕を離し肩を竦めた。

「おお、怖っ! 相変わらず短気ですねー、アキラ君は」

「やかましいわっ!」

 そんなやりとりがあって、やっとのことでマヤの腕から解放された二人は、ようやくそれぞれの想い人の手を取ることが出来たのだった。


 


 サヨは不安だった。

 休み時間に、リュウスケからマヤが自分のいとこだと聞かされてはいたが、その範疇を超えるようなマヤの馴れ馴れしさに、サヨは嫉妬を感じずにはいられなかった。

 また、リュウスケがマヤの態度に戸惑いながらも、こまごまと彼女の面倒を見ていることは、それが彼の優しさだと考えようとしても、サヨには到底平静でいられることではなかった。


 大丈夫だよね? リュウスケ君……


心の中で問いかけて彼を見れば、そこにはいつもの笑顔があった。そのリュウスケの表情を見たサヨは、少し気持ちが軽くなるのを感じたが、今までとは違う『不安』に心が苛まれ、それが消えることはなかった。

 

 そしてその『不安』の影は……


別の形で彼女に降り掛かろうとしていたのだった。




 その夜。


 話がある、と言った両親に促されリビングに入ると、何故かこの家で暮らすことになったマヤが、神妙な面持ちでソファーに陣取っている。その向こう側には憮然とした表情のアキラがそっぽを向いて座っており、向かい側のソファーには、アキラの両親が腰掛けていた。リュウスケはマヤの手前側に腰を下ろす。

 そして、父の祐介と母の千夏がダイニングから椅子を持ってきて座ったところで、そこに何とも言えない重苦しい空気が流れたのだが、祐介が一つ咳払いをして話し始めた。

「話というのは、そこにいるマヤちゃんのことだ」

 何の話だろう、と顔を上げた子供達3人に向かって、彼は話を続ける。

「お前達の母親は、『橘』の出身なのは知っての通りだ」

 リュウスケとアキラは、黙って話を聞き続ける。

「その『橘』本家に、マヤちゃんしか子供がいないのも知ってるな?」

 二人は頷き、尚も黙って話を聞き続ける姿勢を取る。

「本題はここからなんだが…… リュウスケとアキラ君は落ち着いて聞いてくれ」

 祐介に名指しされた二人は、もう一人のいとこの方に目を向けるが、マヤは一人したり顔で澄ましている。

「実は、お前達のじいさんの宗一郎さんにお願いされてな……」

 そこで何かを察したアキラがさらに不機嫌な表情を見せ始め、未だ話の見えないリュウスケは身を乗り出す。

「つまり、だ、『橘』の血を引き継ぐ男であるお前達のどちらかかがだな、マヤちゃんと一緒になって『橘』の家に入ってもらいたい、と言ってるんだ」


 何だって?


それはリュウスケにとって、青天の霹靂だった。これまでは『橘』の恩恵を感じることはあっても、家自体のことを意識することは皆無だったから。

 明らかに動揺の色を見せるリュウスケに、彼の両親は憐れみの視線を向けたが、祐介はさらに話を続けた。

「この話は、今すぐどうこう、といったもんじゃないんだ。お前達はまだ高校生だし、それぞれ考えもあるだろうから……」

 そこに口を挟んだのがアキラだ。

「伯父さん、俺たちの考えって…… それは汲んでもらえるのかい? 例えばさ、俺もリュウスケも「イヤだ」って拒否して、それが通ると思う?」

 祐介は困ったような表情をして少し考えていたが、口籠るように言った。

「それはなぁ…… かなり難しいと思う」

「でしょ? 俺だって『橘』の怖さは良く知ってるからさ。そんなことより……」

 アキラは言葉を切ってマヤを指差す。

「この話と、そいつとの関係を教えてくれない?」

 指差されたマヤは、不機嫌な表情をありありと浮かべて言った。

「アキラ君、人を指差すなんて行儀悪いわよ。それに、そいつ、なんて下品な呼び方しないで!」

 毅然として言い放つマヤに、アキラが低い声で応える。

「お前は黙ってろ…… !」

 その迫力にマヤは鳴り止むが、二人の間には険悪な空気が漂う。

「まあまあ、二人とも落ちついて。順を追って話していくから。リュウスケもいいな?」

祐介が二人の間に割って入り、少し考え込んでいたリュウスケをも促すと話を続ける。

「マヤちゃんはな、それぞれの家に半年ずつ暮らして、お前達のどちらがいいか考えることになってるんだ」

「つまり『品定め』に来た、って訳だ」

 アキラが口を挟む。忽ち彼を睨みつけるマヤ。

「あのなぁ、ケンカばかりしてたら、話が続けられないじゃないか」

 そう言って祐介が呆れたような表情を浮かべる。二人が済まなそうな表情を浮かべたのを見て、祐介は少し微笑むと話を続ける。

「だからといって、結婚とか養子縁組とか、現実的な話がどんどん進んでいく訳じゃない。あくまでも、マヤちゃんとお前達が自分の未来をどうするか、じっくりと考える期間だと思っていた方がいい」

 緊張した面持ちで頷く3人に、祐介は続けた。

「結局二人ともマヤちゃんのお眼鏡にかなわないで、別の男性が選ばれるってこともあるだろうしな」

 おそらく場の空気を和らげようと思ったのだろう、祐介はウィンクをしながら軽い口調で言ったのだったが、残念ながらマヤの次の言葉で、再び場は緊張に包まれてしまう。

「おじさま、それはありえませんわ」

 凛として言い放つマヤ。その姿と口調には、『橘』としての意地とプライドが滲み出ていた。

「お爺様の言葉は、『橘』の血を守れ、というお爺様の命令だと、私は受け取っています。ですから今回のことは、私の使命なんです」

 そう言って意思の強い瞳を向けるマヤに、一同がいたたまれないような気持ちになる。そんな中で、アキラがマヤに問いかける。

「でも、そこにはお前の『意思』はないよな?」

 即座に答えを返すマヤ。

「私の『意思』? そんなものは必要ない。私は『橘』を守れたらそれでいいんだから。言うなれば、それが私の『意思』なんでしょう」

 自信満々な答えだったが、リュウスケにはどうしても納得出来なかった。


 「マヤちゃん、本当にそれでいいの?」

  迷いのない視線でマヤを見つめながら、声をかけるリュウスケ。今大切な人がいるリュウスケには、マヤのその考え方はとても共鳴できるものではない。


 自分を犠牲にして、幸せになれるはずなんかない。

 自分の幸せを、他人に決められるはずがない。


そう強く信じられる自分がいる。それが、誰にも侵すことが出来ない、リュウスケの強い『意思』になっていた。




 リュウスケの、アキラの「戦い」が、今始まろうとしていた。


今回は少し長め(汗)

マヤの「目的」が明らかになりました。

今時こんなアナクロな話があるんだろうか…… と疑問を抱きつつも、今までに少しずつ引いてきた伏線の回収と、小説タイトルの後半部分との整合性をつけるストーリーを書くために、こんなややこしいキャラクターを登場させてしまいました。今の自分の筆力で全部が表現しきれるのか、はなはだ自信はないのですが、一生懸命取り組んでいきたいとかんがえております。

第5章はこれで終了。次回からは第6章「想い」の行方 をお贈りしたいと思います。

よろしければ引き続きお付き合い頂きますよう、お願い申し上げます。


出来れば感想なども待っております。

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