第4話〜重ならない想い。
「『秋葉君』っていうんだ……」
『彼女』は心の中で呟く。
駅で「見つけた」男の子。
背が高くて、笑顔が眩しい『彼』
手を伸ばせば届きそうな場所に『彼』がいる。
同級生達のざわめきの中で…
『彼女』には『彼』しか見えない……
昼下がりの1年2組の教室。
初めてのHRが終わり、少しうちとけた雰囲気の教室には、生徒達のお喋りの声が広がっている。
この柔らかい空気を創ったのは目の前のハルミ。HRでお互いをファーストネームかニックネームで呼び合うことを提案したのだ。
それに最初に賛意を表したのが、意外にも担任の渡部先生だった。
「早く仲良くなるためにはいい方法だと思う。しかし、親密になりすぎて学生であることを逸脱しないことが条件だ」
と釘を刺しつつも、ハルミの意見を後押ししてくれた。
それでちょっと外国映画の登場人物の様な自己紹介がHRで行われ、教室の空気が一気に和らいだんだ。
「この学校、女子多いよな」
そう言ってにやにやしてるのは、清家トシクニ。
ハルミとは同じ中学で、さっきから軽口を叩き合っている。
「トシクニは女の子のことばっかりだねぇ」
「事実を言ってるだけじゃん。それもかわいい子多いし」
「それ言えてる」
間の手を入れたのは、藤川ヒデオ。ファーストネームで呼ばれるのを唯一拒否した奴。ちょっと不良っぽい雰囲気だけど、根は良さそうだ。
その藤川を隣で悲しそうに見つめてるのが、藤川の彼女(と噂)の島田エリカ。藤川が他の女子の話をしていることが辛いようだ。
エリカは、ぱっちりした目とやや低い鼻、ぽっちゃりした頬が幼い印象だが、1年生にしては大きな胸と、ぽってりした唇が正視できないほど色っぽい。
「藤川やトシクニは、女の子だったら誰でもかわいいんでしょ?」
少々非難めいた声でいうのが、片岡アヤ。アニメキャラのような甘ったるい声がかわいらしい。
黒目がちな瞳と小作りな鼻で整った顔立ちなんだけど、小さく薄い唇が少し冷たい印象をつくる。
「そういえば……」
トシクニが何かを思い出したように話を始める。
「お前達だって標準以上にかわいいんだけどさ……」
少し言いにくそうに。
「めちゃくちゃかわいい子、いたよね? 学級委員の中にさ」
トシクニは『天使』のことを話し始めたんだ。