第43話〜修学旅行前夜。
約2ヶ月ぶりの更新です。
明日から修学旅行。
高校生活最大ともいえるイベントを前にして、恋人達は思い思いに会話の花を咲かせている。
彼らの話に、少し耳を傾けてみようか……
アキラは膨れっ面で不満を表している。
「俺は絶対お前らとは行動しないからな!」
「何でだよ?」
わかっているくせに、ニヤニヤ顔でアキラに訊くリュウスケは、かなり嬉しそうだ。それもそのはず、こういう立場でアキラと会話することはまずないのだから。
「そういうこと、訊くかなあ?」
「ぜひ聞かせてもらおうか」
いつもの意趣返しとばかりに、アキラの顔を覗き込むリュウスケ。アキラは明らかに不機嫌な表情を宿して、ぶっきらぼうに言い放つ。
「俺だけ一人で、当てられっぱなしじゃ面白くないっつーの!」
満足いく答えを引き出して、リュウスケのニヤニヤは止まらず、アキラの不機嫌顔は、どんどん増幅していく。
「リュウスケ君……」
2人の顔を見ながら、不安顔でおろおろしているサヨ。滅多にない険悪な雰囲気にオロオロしているようだ。
「まあまあ」
見かねて口を挟んだのは、その原因の一端でもあるあの人だ。
「リュウスケ君。あんまりアキラを苛めないでやって? 普段が普段だから君の気持ちはよーくわかるんだけどさ、やり過ぎは良くないよ? ほら、サヨだって心配してるじゃない」
「ユウコさーん!」
アキラはユウコの肩あたりに縋り付いて泣くような素振りをする。本当は別の所にくっついて、頭をヨシヨシしてもらいたかったのだが、みんなの手前グッと我慢したのだった。
「ほら、公衆の面前でくっつかないの!」
アキラの頭を自分の体から引きはがすユウコ。彼の気持ちを十分に理解しつつも、ユウコは全く容赦がない。毅然とした表情の中にも少しのいたわりの色を宿して、ユウコはアキラに語りかける。
「私は一緒に行けないけどさ、アキラがちゃんと楽しんできてくれないとさ、私もつらいよ。後で思い出した時に、全然楽しくなかったなー、なんて思ったら、絶対悲しくなると思うのね。アキラにはそんな思いして欲しくないし、私もそんなことをアキラの口から聞きたくないの」
「でもさ、ユウコさんがいない『思い出』なんて……」
尚も不満を口にするアキラに、ユウコの殺し文句が。
「それはこれからいっぱい作っていけるんだよね? 二人でさ」
とびっきりの笑顔でアキラを見つめながら。その笑顔が眩しくて、アキラは思わず視線を逸らした。
「わかったよ……」
そう言って、真っすぐにユウコを見るアキラ。
「俺、自分のことばっかり考えてた。俺がずっとつまんない顔してたら、リュウスケやサヨちゃんだって楽しめないもんな」
「そうそう。きっとわかってくれると思ってた」
満足そうに柔らかな笑顔を浮かべているユウコ。
そのやり取りを聞いていたリュウスケは、少しいたたまれないような気持ちになっていた。幸せな思いにかまけて、自分のことしか考えてなかったのはこっちではないか、とひとりごちる。
「悪かったよ、お前の気持ちはわからないはずがないのにな」
「俺の方こそ、楽しい話を台無しにして悪かったよ」
きまり悪そうに笑顔で謝り合う二人を見て、サヨの顔にも微笑みが浮かぶ。
「さっきユウコさんが言ったようにさ、楽しくない『思い出』なんて最悪なだけだ。修学旅行は修学旅行なりの楽しみ方があるはずだ。それをいっぱい探そうぜ、みんなでさ」
「さすが学年1位は言うことが違うな」
アキラはいつものようなからかいの言葉をリュウスケに向けるが、その顔はとても嬉しそうだ。
「でさ、手を繋いで歩くくらいは許してもらえるのか?」
唐突なリュウスケの問いにアキラは面食らった様子だが、
「まあそれくらいは… 許す」
と、小さく頷きながら答える。
「それくらいは、って? 他には?」
「それ以上のことするつもりかぁ、お前らは! このバカップルがぁ!!」
顔を赤く染めて俯くサヨをよそに、オレンジ色に染まる公園は、明るい笑い声で包まれていた。
みんなと別れて二人っきりの帰り道。彼の左手と彼女の右手はしっかりと繋ぎ合わされている。
ただ、彼女の様子が少しおかしい。何かを言いかけてやめたり、彼の顔を見たり俯いたりというのを繰り返している。
「どうしたの?」
思わず問いかけるリュウスケ。その問いにサヨは尚もモジモジしていたが、とても言いにくそうな様子で、
「さっきのことなんだけど……」
と小さな声で問いかける。彼が表情だけで何? と彼女に伝えれば、彼女は口を開く。
「最後にリュウスケ君が言ってたことなんだけど」
「ああ、そのことね」
とこともなげに言ってのける彼に、彼女は少し訝しげな表情を浮かべる。
もちろん、彼が自分に触れたいと思ってくれているのは嬉しい。でもこれまでそれほど積極的に思いを表すことがなかった彼が、みんなの前であんなことを言ってたことに、彼女は戸惑いを覚えたのだ。今や公認のカップルなどと言われ、こうやって手を繋ぎ合って歩いていることにも恥ずかしさを感じなくなってきてはいるが、クリスマスの日にしたような行為は、気軽に出来る程大人じゃないと彼女は思っている。
「あのね、リュウスケ君……」
「聞いてくれる?」
珍しく自分の言葉を遮る彼に、思わず息を飲んだ。
「さっき言ったこと、本気だよ」
そう言って真剣な表情を向ける彼。
「いつだってサヨちゃんに触れてたいし、ずっとサヨちゃんを感じてたいから」
彼の表情が柔らかなものに変わる。
「渡部先生が言うように、学生の本分を逸脱しないことは大切だと思うし、サヨちゃんに無茶なことをする気もないんだけど……」
彼は言葉を切って、ほっ、と息をついた。
「僕だって男だから先のことはわからない。だってサヨちゃんのことが大好きだからさ。もっとサヨちゃんのこと、感じちゃダメかな?」
「ダメじゃないよ……」
小さく答える彼女の頬には涙が伝う。泣き虫な彼女が流すのは、嬉し涙。その証拠に、彼女は満面の笑顔を浮かべている。そして……
彼と彼女は小さな口づけを交わした。
第5章、やっと始めることが出来ました。
二人のいちゃらぶの章、開始させていただきます。
まずはちっちゃなキスをお届けします。
話の中でリュウスケが言ってる通り、サヨのことが大好きな彼ですが、これまでは思いを抑えているところがありました。
美月達との一件で彼はあることに気づき、サヨへのアプローチが積極性を増していくことになりそうです。その思いに関しては、この章の中でおいおい明かしていきたいと考えています。
設定が修学旅行なんて、何てベタな…と思われるかもしれませんが、ええいだまれだまれ。高校生のカップルがいちゃべたするイベントとしては、かなり重要なんではないのでしょうか?
思いがけず可愛らしいダダをこねるアキラを書くことが出来ました。好きな人の前では特に男子はこうなってしまうのでは、と思いますがどうでしょう?いつも冷静沈着なアキラが…と思われるかもしれませんが、そのギャップも楽しんで頂ければ、と思います。
少し落ち着きましたので、更新のペースを上げていきたいと思っています。
ではまた次回の話でお会いしましょう。