第3話〜入学式③
「…本日はご入学おめでとうございます」
来賓の挨拶も耳に入ってこない。何だかいろんなことにドキドキしっぱなしでさ、緊張が解けないまま入学式が進行していく。
ふと隣を見ると、彼女も心無しか緊張の面持ちで正面を見据えている。
「以上で入学式を終了します。新入生は着席してそのまま待機して下さい」
いよいよだ!
ドキドキのボルテージが上がって来た。
「緊張してる?」
と彼女の声。
「私も緊張してるけど、秋葉君ほどじゃないと思う」
からかうような彼女の笑顔。何だかこの子には心の中が見透かされてるみたいに感じる。不思議と少し緊張が和らいだ。
「それでは第1学年、学級委員並びに教職員の紹介を行います。名前を呼ばれた者は、返事をしてステージに上がりなさい」
一瞬、沈黙が場に広がる。
「1組男子…」
名前の呼び出しが始まり、辺りに緊張感が走る。
「2組男子、秋葉隆介」
「はい!」
我ながらいい返事だったぞ。
「2組女子、二宮はるみ」
「はい」
改めて聞くと、彼女は高音のいい声をしている。もっと聞いていたい衝動に駆られる。
ステージに上がりみんなの方に向き直って立つ。僕は2組だからしばらくこのまま『さらし者』だよな。諦めがついたら少し冷静に周りが見えるようになってきた。
思った以上に女の子が多いな。前身が女子校だから多いとは聞いてたけど、予想以上だよ。
女の子が多いと緊張するなあ…… 好きなんだけどさ。
—そうだ。
『彼女』はここにいるのかな? もしいたら僕のこと見てるんだよな。高い所からだったら、見つけられるかもしれないな。
さりげない風を装ってフロアを見渡す。女の子の方に注意を払いながら。
いない、いない、見つけられない。
やっぱり1年じゃなかったのかな? 少しがっかりして、でも諦められずにフロアを探す。
「7組女子。イケウチサヨ」
僕は気づかなかった。その瞬間の微かなざわめきと、同じステージに立つ『彼女』の姿に。
探している場所には絶対に存在しない『彼女』に気づくことが出来なかったんだ。




